プリンとサスケとお兄さん 1


「ない・・・・」

ひどく深刻は顔をしたイタチは、冷蔵庫の奥を見つめたまま呟く。
彼が入浴後に食すことを日課にしているある物。
それは、彼にとってどうしても欠かすことのできない物だ。
一日に一個、食べなければ絶対に安眠できない。
冷蔵庫の隅々までチェックし、それがないことを確認したイタチは、険しい表情のまま扉を閉めた。

 

「サスケ」
弟の部屋の扉を開くなり、イタチは手に持っていた財布を放り投げる。
「いつものやつ、買って来い」
床に落ちる前に財布をキャッチしたサスケは、窓際にある時計へと目を向ける。
時刻は丁度、夜の10時。

「店が開いてない」
「万年堂なら、24時間営業だ」
「・・・・自分で行けばいいだろ」
冷たい口調で言うと、サスケは財布をイタチの方へと投げて返す。

彼の机には、数学の教科書と参考書が広げられていた。
明日テストのある科目だ。
常識のある人間なら、これで事情を察して引き下がることだろう。
だが、イタチには今が夜間であることも、サスケが明日からの期末テストの勉強をしていることも関係なかった。

「兄に口答えするとは、いい度胸だな・・・・」
イタチは口元に薄い笑みを浮かべながら言う。
そして、どこに持っていたのか、イタチの手には一枚の写真が握られていた。
写真の裏面には、母親の筆跡で『サスケ3歳』と書かれている。

「お前が寝小便たれて大泣きしている写真をクラスにばらまくぞ」

 

 

 

「なんて奴だ!!」

プリンがぎっしり詰まった手提げ鞄を持ちながら、サスケは夜空に向かって悪態をつく。
だけれど、これもイタチの目が無いからこそできることだ。
サスケは幼いころから、イタチの使い走りとして地道に活動してきた。
以前は兄を尊敬する気持ちから素直に従ってきたが、今は腹立たしいことこの上ない。

サスケがイタチに逆らえないのは昔の弱みを握られていることだけでなく、何をしても兄にかなわないと知っているからだ。
主席の彼は学園で生徒会長を務め、教師達からの信頼も厚い。
スポーツ面でも、3つのクラブを掛け持ちして活躍するスタープレーヤーだ。
せめて、何か一つでもイタチを凌ぐものを見つけられれば、サスケは彼と対等に話しができるような気がしていた。

 

町のにぎやかなところを一つ外れた道に入ると、急に雰囲気は寂しいものに変わる。
電灯の下では、いかにもがらの悪そうな少年達がたむろしているのが見えた。
何か言い争っているのか、あまり空気が良くない。
足早に通り過ぎようとしたサスケは、視界の端にピンク色の髪が入るなり、立ち止まる。
漏れ聞こえる声音から、彼らの中心にいるのは少女だと分かった。

 

 

「やめてください」
「ちょっとくらい付き合ってくれても、いいじゃん」
「ねぇ」
「さ、触らないで!」
荷物を腕に抱えて身を硬くしているサクラは、自分の肩に乗せられた手を慌てて振り払う。
塾の帰りである彼女は、学園の制服姿だ。
少しでも早く帰ろうと近道を選んだつもりだったが、それは間違いだった。
裏道に入るなりサクラは彼らにつかまり、長い間同じような押し問答が続いている。

「ちょっと遊びに行くだけだからさ」
「嫌!!」
無理に腕を引っ張られたサクラは、すでに涙目だ。
そして、彼女が本格的に喚きちらそうとした矢先だった。
サクラの腕を掴んでいた手は払われ、いつの間に現れたのか、彼らとサクラとの間に一人の少年が立ちはだかっている。

「何だよ、お前」
鋭い眼光で睨み付けてくるサスケに対し、少年達はややびくつきながら訊ねる。
数では勝っているはずなのに、なぜかサスケには彼らを怯ませる威圧感があった。
サクラは自分を守るようにして立つのがクラスメートの男子だと分かったが、体が震えて声が出せずにいる。

「おい、こいつ生徒会長の弟じゃないか」
「本当だ・・・」
一人の少年の言葉に反応し、彼らの顔に一斉に動揺が広がる。
その声を聞かなければ、サスケもサクラも彼らが同じ学園の生徒だと気づかなかったことだろう。
「おぼえてろよ!」
互いの顔を見合わせたあと、少年達は定番の捨て台詞を残して走り去っていった。

 

 

彼らの姿が見えなくなると同時に、サクラはその場に座り込む。
腰が抜けてしまったという方が正しい。
気を張っていた分、サクラは今になって泣きたくなった。

「おい、お前の家どっちだ」
少々乱暴な呼びかけに、サクラはようやく自分を助けてくれた者の存在を思い出す。
顔を上げると、怒ったような表情のサスケが手を差し出していた。
「家まで送っていってやる」


あとがき??
なんだか、続きものになっちゃいました。
すみません。(汗)
というか、サスサク、辛い!!難しいー。


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