プリンとサスケとお兄さん 2


「あんた、また屋上行くの?」
「うん」
呆れ顔のいのに、サクラはにっこりと微笑む。
その手には、プリンの入った手提げ袋を持っていた。

「サクラは転入生でまだ分からないと思うけど、サスケくん、あんまり評判良くないわよ。いつも一人だし、なんだか怖い感じ」
「そんなことないよ。サスケくん、優しいわよ」
「そうー??」
いのは納得いかないといった様子で腕組みをしている。
「同じ美形なら絶対、スポーツ万能、成績優秀、人当たりのいいイタチさんの方がいいわよ。そっちにしなさい」
「そうね」
返事はするものの、サクラは心ここにあらずといった表情で、椅子から立ち上がる。

いそいそと教室から出て行くサクラの後ろ姿を見つめ、いのは机に頬杖をついた。
あのような笑顔を見せられては、もう何を言っても無駄な気がした。
サクラの瞳は完全に恋する娘のものだ。

 

 

「サスケくん!」

屋上の給水等の陰、昼寝をするサスケをサクラはすぐに見つけ出す。
彼が昼休みのたびにここで横になっていることは、すでにチェック済みだ。
走ってくるサクラに顔を向けたサスケは、嫌そうに眉を寄せた。

「・・・またお前か」
サスケはあからさまにサクラを疎んじているつもりなのだが、彼女の方はまるで意に介さない。
「今日は牛乳プリンを作ってきたのよ。はい」
満面の笑みを浮かべたサクラは、サスケに向かってプリンとスプーンを差し出した。

あの夜の事件以来、サスケはすっかりサクラになつかれてしまった。
サクラが毎日毎日、サスケにプリンを持ってくるのはお礼のつもりだ。
もともと菓子作りが趣味のサクラには、プリンを作りつづけることは少しも苦にならない。
サスケの持っていたものが、大量のプリンだということは隣りを歩いているときに気づいた。
あれがイタチに命じられた買い物だということを、サクラは知らなかった。

 

「そういえば、ここに来るときにお兄さんを見たわ。イタチさんって、本当にサスケくんに似てるわね」

結局サクラに押し切られ、プリンを食べるサスケに彼女はにこにこ顔で言う。
その言葉に、サスケは妙な違和感がした。

「・・・違う」
「え?」
「あっちが先に生まれたんだから、普通は俺がイタチに似てるって言うだろう」
「そうかしら」
思わず反論したサスケに、サクラは小首をかしげた。
「だって、イタチさんのことあまり知らないし。サスケくんがこうして私の近くにいるんだから、やっぱりイタチさんの方が似てると思っていいのよ」

楽しげに語るサクラを横目に、サスケはスプーンですくったプリンを口に含む。
思っていたのは、隣りにいるサクラは「変な奴」だということだ。

 

誰に会ってもまず言われるのは、イタチに似ているということ。
小、中、高とエスカレーター式に進級するこの学園で、イタチのことを知らない者はいない。
そうして、彼らのサスケに対する興味はイタチの弟ということのみで止まってしまう。
成長するにつれ、サスケが兄と距離をおくようになったのは、イタチ本人のせいではなく、周りの人間のせいなのかもしれなかった。

 

 

 

その日、図書館に寄って帰ったサスケが帰宅したのは夕方の6時過ぎだった。
母親は買い物に行ったのか、サンダルが見当たらない。
代わりに玄関にあったのは、イタチの靴と、学園で指定された女生徒用の靴。

サスケは、イタチが女友達を家に招くのは珍しいことだと思った。
人気者の彼だが、親しく付き合っている友人は意外に少ない。
恋人の話も聞いたことがなかった。
サスケが靴を見つめて思案している間にも、居間から楽しげな男女の声が聞こえてくる。

好奇心もあり、サスケは人の声のする部屋をそっと覗き見た。
そして、ソファーに座る人物を確かめるなり、サスケは我が目を疑う。

 

「帰ったのか」
サスケの気配に気づいたイタチはすぐに振り返った。
彼の向かいに腰掛けているのは、サスケのクラスメートの女生徒だ。
「サスケくん」
サスケを見つけたサクラは嬉しそうに顔を綻ばせる。
だが、サスケはサクラの目をまともに見つめ返すことができずに俯いた。

「何でお前がここにいるんだ」
「あ、あのね・・・・」
「早く帰れよ!」
何か言いかけたサクラを制して、サスケは怒鳴りつける。
サスケから発せられる怒気に呑まれたサクラは、二の句を継ぐことができなかった。

 

 

今まで、何度もあったことだ。
イタチと親しくなりたいがために、サスケに近づく女子。
だけれど、心のどこかで、サクラは違うと思っていた。
また、自然とそう思ってしまっていた自分が、サスケは腹立たしい。

 

サクラを玄関先で見送ったイタチは、困惑した表情で戻ってきた。

「サスケ、何を勘違いしたのか知らないが、あの子はわざわざ住所で家を調べて、お前の落し物を届けに来てくれたんだぞ」
イタチは持っていた物を無理矢理サスケに握らせる。
うちは家の家紋である団扇マークのキーホルダー。
見覚えのあるそれには、サスケがどこかに無くしたと思っていたロッカーの鍵が付いていた。


あとがき??
つ、辛い。サスサク、難しい。
優秀なイタチ兄さんのせいで、ひねくれ者のサスケくんなのです。
でも、成績は学年でTOP10に入っている。予習復習はかかさない図書館の常連。基本的に真面目な人。


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