空が青い理由
サクラが、空を見上げていた。
ひどく、幸せそうな顔で。
釣られたように上空を見たけれど、そこには何もない。
ただ青い空が広がり、雲がまばらに散らばっているだけだ。「何、見てるんだ」
気になって訊ねると、サクラはすぐに振り返る。
そして、ふんわりとした、明るい笑顔を俺に向けた。「あの雲がソフトクリームみたいな形だから、美味しそうだなぁって思って見てたの」
サクラはにこにこと微笑んだままだったが、こっちとして呆れてものが言えない。
なんて、低レベルな返答なんだ。
頭が悪いのかと思ったが、サクラの知能の高さは折り紙付きだ。
学力のみでいうなら、アカデミーで俺は一度もこいつに勝てなかった。「サスケくん、何で空が青いか知ってる?」
「・・・・大気の層に入った太陽の光が大気中の空気によって」
「違う、違うー」
教科書通りの俺の答えを、サクラは途中で遮る。
「海と仲良くしたくて、おそろいの色にしてるんだよ」
こいつは絶対に馬鹿だ。
無視をして通り過ぎようとすると、サクラは俺の服の袖を引っ張った。
そして、眉の間に指をあてて俺を見上げる。「サスケくん、いっつもこう、眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔してるね」
「・・・悪かったな」
「別に悪くないけど、たまには空を見上げてみたら」
俺の服を掴むのと反対の手を、サクラは空へと翳す。
「難しい顔で考え事ばかりしてたら、近くにある大事なものを見失うよ」
そのまま、サクラは俺の目をじっと見据えた。
至近距離からの視線に根負けした俺は、顔を上空へと向ける。
そこにあるのは、抜けるよう青空。サクラがソフトクリームのようだと言った雲は、すでに形を変えていた。
今なら、てるてる坊主のようだと言った方が近い。
その隣りの雲は、魚と林檎。
青空のキャンバスに、白い雲は気持ちがいいほどよく映える。いろいろと想像をめぐらす間に、こうしてのんびりと空を見たのは何年ぶりだろうか、という思いが頭をよぎった。
「サスケくん、何で朝焼けの空が赤いのか分かる?」
俺の隣りで、サクラは神妙な表情で訊ねる。
本当の理由は知っている。
だけれど、サクラが求めているのは、それじゃない。「みんなが起き出す時間だから、空が緊張して赤くなってるんだ」
思わず口をついて出た言葉に、サクラは嬉しそうに笑った。
その笑顔に、顔が、自然と緩む。どうしてこいつは、こんなに穏やかな空気を持っているんだろう。
訳の分からないことを口走るくせに、何もかも分かったような瞳で俺を見る。
そうして、サクラは俺の中にある暗いもやもやした感情を、容赦なく持っていってしまう。
代わりに芽生えるのは、随分と昔に忘れていたはずの、優しい感覚。
「アイスでも、食べに行こうか」
屈託なく笑うサクラは、俺の手を取って言った。
柔らかな掌の感触と人の体温が、不思議と懐かしく思える。
涙が出そうになったのは、きっと空の青さが目にしみたからだ。
遠い昔、兄に手を引かれて歩いた道にも、こんな青空が広がっていたことを何となく思い出した。
あとがき??
テーマは「心にゆとりを持とうよ、サスケくん」。
現在の原作の展開上、サスケが憎いと思いつつ、何故かこんな話を書きたくなった。今だからこそ??
元ネタは『くじら舞踏会』かな。