青空、ひとりきり


夏の強烈な日差しが、木々の葉によって遮られているのが救いだった。
サクラはずっと同じ場所で座り込んでいる。
捻挫した足は数時間で腫れ上がり、もう一歩も動けそうもなかった。
電波の通りが悪いらしく、仲間に連絡を取ろうにも通信が届かない。
自らの落ち度とはいえ、サクラは転倒する原因となった、地上に突き出た木の根を睨み付ける。
森で迷い犬を捜している最中のアクシデントだった。

 

「・・・そろそろ、誰かが犬を見付けたころからな」
サクラは心細く呟く。
広い森の中、長い間一人でいると、風に揺れる葉音にもびくついてしまう。
時折姿を見せる動物は、野生のリスやキツネなどで、サクラに危害は加えない。
だが、日が落ちて夜になれば、森は昼間とは全く違った表情を見せる。
人を襲う肉食の獣も動き始め、身動きできないサクラは格好の餌食だ。
それまでには誰かがサクラの不在に気付くだろうが、サクラの不安は増すばかりだった。

目尻に滲んだ涙を拭ったサクラは、背後に感じた気配に、すぐさま振り返る。
はるか頭上、木の枝に立ってサクラを見下ろしているのは、彼女と同じ班のメンバーだ。
サクラのいる場所からは逆光のため、なかなか彼の顔を確認できなかった。

 

 

「犬は見つかったの」
地表へと下りてきたサスケに、サクラはおずおずと声をかけた。
問い掛けを無視したサスケは、サクラが手で押さえている足首に目をやる。
「何やってんだ」
「あそこで転んで、挫いちゃって・・・・、犬は?」
「まだ捜してる」
「そう」
しゃがんで怪我の具合を調べるサスケに、サクラは沈んだ声を返す。

「鈍くさい奴だな」
自力で歩行することが困難だと判断したサスケは、ため息と同時にサクラに背を向けた。
背中に負ぶされ、という合図だろう。
だが、サクラは首を振ってそれを拒絶する。
「サスケくんは犬捜しの任務、続けて。私は大丈夫だから。カカシ先生に連絡してくれれば、すぐ来てくれるだろうし」
更に言い募ろうとしたサクラを、サスケは遮った。

「任務よりお前の方が大事だろう。時間が経てばもっと悪くなるぞ」
厳しい眼差しを向けられ、サクラは声を失う。
自分のことよりも任務の続行を望んだサクラに、何故かサスケは怒っているように見えた。
唖然としていたサクラの目から、ふいに、涙がこぼれ落ちる。

 

「何で泣くんだよ」
「・・・・本当は、怖かったの」
目を擦りながら言うサクラに、サスケは困惑していた。
分かっていても、サクラの涙はなかなか引いていかない。
先ほどまで感じていた孤独と不安が、サクラの涙腺を一気に緩くしていた。

「このまま、誰も私に気付かないで森から出られなかったら、どうしようかと思って・・・」
「そんなことあるはずないだろ。カカシもナルトも捜す。お前がいなくなったら」
「うん」
「ほら、早くしろ。置いていくぞ」
せっつくサスケに、サクラは慌ててその背中に寄りかかる。
危なげなく立ち上がったサスケに、目元を拭ったサクラはしっかりと掴まった。

 

 

 

「サスケくんもだよ」
自分を背負って歩くサスケに、サクラはぽつりと言う。
「サスケくんがいなくなったら、私達捜すよ。見つかるまで、どこまでだって捜しに行くよ」
「俺は森で怪我をするようなへまはしない」
つんとした口調で答えるサスケに、サクラは苦笑する。
ようやく止まった涙が、また溢れてきそうな気持ちだった。

「あんまり遠くに行かないでね」

願いを込めて、声に出す。
その意味にサスケは気付いていたのか、そうでないのか。
前方を見つめている彼の表情は、サクラには分からない。

 

鳥の羽音に上を向くと、枯れた枝の間から綺麗な青空が見える。
羽ばたいた鳥は同じ止まり木に戻ることはなく、すぐにサクラの視界から消えてしまった。


あとがき??
構想3分。現在のWJのサスケにムキーーッ!となったら、えらい勢いで書き上げていた話。
サスサクはたまに、無性に書きたくなるのですね。
普段は全然だけど。

サスケはサクラの怪我が心配だとかは絶対口に出さない。
こうした素直でない態度にサクラは惹かれるのか??分からない。
サスケは7班で一番優しい子だという考えは全く変わっていないです。
イタチ兄のことがなかったら、どういう成長をしていたのか見てみたかった。
タイトルは、井上陽水か。イメージは『夢の中へ』なのだが。

復讐者であるかぎり、サスケは遅かれ早かれ里を捨てる身ですが、サクラは追いかけていきそうですね。
というか、追いかけて欲しい。


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