Angel Hearts
「・・・何だ、ここは」
サスケは忍びの里に似つかわしくない、煉瓦造りの建物を見上げて訊ねる。
洋館風の作りのその店は満員らしく、順番を待つ人々が長蛇の列を作っていた。
不思議なことに、列に並ぶ客は子供から老人まで、男ばかり。
看板には「カフェ『Angel Hearts』」と書かれているが、 どう見ても普通の喫茶店ではない。「サスケ、知らないの。今流行りの『Angel Hearts』。店員の女の子が可愛い子ばかりで有名なんだよ」
「そうそう。もちろんお店で出すお茶やお菓子も絶品だし、他の国からもこの店目当てに来る客も多いって話だ」
「俺はそういうことを聞いてるんじゃない」
列の最後尾にいそいそと向かうカカシとナルトに、サスケは目くじらを立てる。「任務のあとに大事な話があるから来いなんて言っておいて、何で俺までお前らに付き合わなきゃならないんだ!帰るぞ」
「カカシ先生ー、だからこんな奴誘うのはやめようって言ったんだよ」
「まぁまぁ」
不満をもらすサスケとナルトの間に立ち、カカシはなだめるように言う。
「今日は俺がおごるからさ。サスケ、これも勉強のうちだよ」
「・・・・何の勉強だ」
『Angel Hearts』のレベルは、噂以上のものだった。
店内にはアンティークの家具や食器が並び、センスの良い絵画が飾られ、床や窓はぴかぴかに磨き上げられている。
中に通されたナルトは、あんぐりと口を開けたまま天井のシャンデリアを見上げた。
流れているクラシック音楽は、店の格調を一気に高くしている。
店員のメイド服は思ったよりも露出が少なかったが、洋風な内装と良くマッチしていた。
何より、目に映る店員はどの娘もそれぞれ美人だ。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
暫くしてナルト達に席にやってきた店員が、愛想良く訊ねる。
褐色の髪をお下げにして微笑む少女は、丸い眼鏡が何ともキュートだ。
年齢は、ナルト達とそう変わらないように見えた。
「・・・ああ、まだみたいです」
慌ててメニューに目を通すナルトを横目に、カカシが彼女に返事をする。
頭を下げて踵を返したお下げ髪の店員を、ナルトはちらちらと盗み見ながらカカシに話しかけた。「ねぇねぇ、今の子、すんごい可愛くなかった!!?この店の中でぴかいちだよ!」
「うん。胸も大きくてスタイル良かったし、眼鏡の奧の青い瞳をもっと間近で見てみたいなぁ」
「・・・・カカシ先生、何だか言い方がいやらしい」
ナルトは傍らのカカシを半眼で見やった。
素知らぬ顔で居住まいを正したカカシは、「あれ?」と首を傾げる。「サスケは?」
「え」
言われてから、ナルトは初めて正面にいたはずの人物が消えていることに気付く。
店員が声をかけてくるまでは、きちんとそこに座っていたはずだ。「可愛い店員さんのあとを付いて行っちゃったんじゃないのー?ナンパか??」
「あいつにかぎって、それはないだろう」
顔を見合わせたナルトとカカシは笑いながら軽口を叩く。
まさかナルトの発言が的を射たものだとは、思いも寄らない二人だった。
「おい」
「何でしょう」
「何やってるんだ、お前。こんなところで」
お下げ髪の店員を掴まえたサスケは、厳しい口調で問いただした。「・・・何のことですか」
「しらばっくれるな」
暫しの間無言でサスケを見つめていた彼女だが、その顔は徐々に綻んでいく。
「ばれちゃった?」
悪戯な笑みを浮かべる彼女に、サスケは小さくため息をついた。
「風邪ひいて寝込んでる従姉の変わりにバイトしてるだけよ。ウィッグとカラーコンタクトで、随分雰囲気変わるでしょ」
サスケを連れて洗面所にやってきたお下げ髪の店員は、にっこりと笑ってサスケに向き直る。
姿形だけでなく、微妙に声色まで変えた彼女は確かに別人といっていい。
その変装は、同じ班のメンバーが気付かないほど完璧だった。「知り合いが来たときは幻術をかけて認識力を鈍くさせてるんだけど、サスケくんには分かっちゃったのね」
声を元の調子に戻して話すサクラに、何故か安堵したサスケだったがもちろん顔には出さない。
逆に、表情を険しくしてサクラを見据える。「感心しないな。こんな、邪な目的で来る男達のいる場所で働くなんて」
「心配?」
「全然」
小首を傾げて訊ねるサクラに、サスケは即答する。
必要以上に強い声音と返事の速さに、サクラは逆に苦笑してしまった。
「あ、そうそう。これ、胸にパットが3枚も入ってるのよ!凄く大きく見えるでしょ」
「いたいた。サスケ、何やってるん・・・・・」
「いつまで経っても注文できな・・・・・」
サスケを捜して洗面所の扉を開いたナルトとカカシは、その光景に、体を硬直させる。
それは、顔面を耳まで紅潮させている当事者、サスケにしても同じだ。実際には、サクラがサスケの手を掴み、それを自分の偽物の胸に押し当てているという図。
だが、サスケの後方にいるナルト達には、お下げ髪の店員の胸をサスケが無理に触っているようにしか見えなかった。
「信じられねーよ、こいつ。店で一番可愛い女の子連れ込んで、物陰でいやらしいことをしようとしてたんだ」
「へぇーー」
「そんなことはしていない!」
「俺は見たんだ!!言い逃れは通用しないぞ」
翌朝、顔を合わせるなり喧々囂々に言い合うナルトとサスケを、サクラはくすくす笑いで見つめる。ナルトは昨日の出来事を「サクラが帰ったあとに茶を飲みに行った」とだけ説明していた。
もちろん、可愛い店員が目当てで『Angel Hearts』に行ったということは伏せてある。
ナルトもカカシも、最後までお下げ髪の店員とサクラが同一人物だということに気付かなかったようだ。
バイトの目的が、半分自分の幻術の能力を確かめるためだったサクラには大満足の結果だったが、気になることも一つ。
「ねぇ、ナルト。その店員さんと私、どっちが可愛いと思う?」
「え・・・・・、サクラちゃんだよ。もちろん」サクラの胸元に視線を移し、暫く悩んでから返答したナルトにサクラの鉄拳が飛んだのは言うまでもない。
あとがき??
これはサスサクなのだろうか・・・・。うーん。
というか、気付いてくれ上忍。
店名がどこぞのピンクなお店のようで嫌だなぁと思いました。
そして、サクラの従姉もやはり可愛いんだなぁと思いました。
サクラ、自分の胸も10%くらいは混じっていただろうに、大胆だな。妙な駄文ですみません。(=_=;)