うれしいとき


「お前さー、もっと嬉しそうな顔したらどうなの。結構、大変だったのよ」

カカシはサスケの頭を軽く叩いた。
サスケの手には、木ノ葉隠れの里では非常に入手困難とされている忍術の教本がある。
サスケがそれを探していることを知って、カカシが八方手を尽くして用意したものだ。
生徒を思ってのことだが、本を手渡したときのサスケの反応は、カカシが想像したよりずっと淡泊のものだった。

「子供らしくないね」

小さく礼を言ったのみで、にこりともしないサスケを見て、カカシは小さくため息をつく。
ナルトのように喜色満面に飛び付いてくるのも微妙だが、無表情で返されても悲しくなる。
苦労のかいがないというものだ。
気落ちしたカカシの横顔を、サスケはただ無言で見つめていた。

 

 

 

子供らしくない。

それは、サスケにとって耳慣れた言葉だ。
全てを失ったサスケに、周りの者は優しかった。
だが、今ではサスケの世話を焼く大人は、一人もいない。
彼らが段々とサスケから離れていったのは、子供なのに可愛げがない、というのが主な理由。

サスケにも、屈託のない幼少期はあった。
泣いたり怒ったり笑ったり、兄に比べれば自分は随分と騒々しい性格だったとサスケは記憶している。
その彼が変わったのは、家族を失ってからだ。
『幸せ』や『喜び』。
そういった、通常の人間なら当然あるべき正の感情が、両親の死と共に希薄になった。

サスケ自身、それを不便に感じたことはない。
だけれど、親身になってくれた人の顔が、自分のせいで悲しげに曇るのは気分が良くなかった。
笑う練習というものを鏡の前で密かにしたことがあるが、翌日、顔面神経痛になっただけの結果。
かといって、感謝の気持ちを美辞麗句にして並べられるほど器用ではない。

伝わらない思いは、互いの心に亀裂を生じさせる。
泣きも笑いもしない、気味の悪い子供。
不用意な言葉の数々が彼を傷つけていることに、周りの人間は気づいていなかった。

 

 

 

「サスケくん、ご飯一緒に食べよー!」

任務の休憩時間、サクラはいつものように弁当の包みを二つ持ってやってくる。
一度泣かれてから、サスケは手作り弁当を断らなくなった。
やっかみの混じった若干2名の視線が気になったが、女に泣かれるのはもっと面倒だ。

 

「何でいつもこれなんだ?」
半分ほどおむすびを食べたサスケは、その中身を見ながら訊ねる
おかずの入ったタッパにはいつも趣向をこらしたものが並んでいたが、おむすびの具はずっとおかかのままだ。

「だって、サスケくんおかかのおむすび好きでしょ」
「・・・・何で知っている」
「最初に私がおかかのおむすびを作ってきたとき、サスケくんが笑ったから」
あっさりと答えるサクラに、サスケは憮然とした面持ちになる。

「嘘だ」
「嘘じゃないよ。そうでなきゃサスケくんの好物なんて、私、分からないもの。何も教えてくれないから」
「・・・・・」
「サスケくんが嬉しいときってね、ほんの一瞬だけど、顔が綻ぶの。こういう風に」
サクラは自分の頬に手をやって皮膚を軽く引っ張る。
微かに口の端を緩めた笑顔。

「自分で気づかないくらいだから、見逃しちゃう人が多いかもしれないね」

顔から手を放したサクラは、朗らかに笑って言った。
その笑顔に、サスケは何故かホッとした気持ちになる。

 

 

大勢でなくていい。
言葉にせずとも分かってくれる人が、一人でもいてくれる。
それだけで、不思議と安心できた。

少しでも笑い方を思い出すよう、繰り返した鏡の前の練習。
それはもう、必要のないことだった。


あとがき??
はい、今回は『極上天使』の皇くんがサスケのモデル。
サスケが心から笑ってる顔って無いよなぁと思いまして、イメージが皇くんとかぶった。
皇くんの方がサスケよりずっと不愛想、いや、不器用だけどね。


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