シンデレラ ver.NARUTO U


「こないだの騒ぎは、王子が求婚を断った隣国のリー王女の仕業だったらしいんだってばさ」
「へぇ。城を占拠したわりに私達をすぐ帰してくれたし、死者がでなかったからクーデターにしては変だと思ったわ」
「何が目的だったのかなぁ」
「デモンストレーションじゃない?リー王女、きっと自分は本気だってことを示したかったよ。ここまできたら王子も断れないわね。結婚しちゃうのかー。ショックー」

ガッシャン。

食器の割れる音は、夕食の後片付けをしていたサスケが皿を落としたものだ。
「気をつけるってばよ」
「はい・・・」
いつもだったらギスギスした反感のこもる声が返ってくるというのに、サスケは元気のない返事を返しただけだった。
いのとナルトは顔を見合わせる。
「あんたがいじめすぎたんじゃないのー」
「私はなにもしてないってばよ」
二人は普段のサスケに対する態度も忘れ、ごちゃごちゃと言い合いをしている。

しかし、その声はサスケの耳には全く届いていなかった。
王子が結婚。
その言葉にサスケをひどく狼狽した。
漠然としたあせりの感情。
自分ではどうすることもできないと分かっているのに、いてもたってもいられない。
叶わぬことと知りながら、サスケはもう一度王子に会いたいと強く願った。

 

同時刻、城のとある一室。
部屋の明かりもつけず、薄ぼんやりとした月明かりの中に力なくソファに座る王子の姿があった。

「カカシ先生。いるんでしょ。出てきてよ」
王子の呼びかけに答え、闇の中から徐々に人の姿が浮かびあがる。
「ありゃ。ばれてた」
「分かるよ。長い付き合いだしね」
王子の隣りに腰を降ろしたその人は、サスケの前に現れた魔法使いと同一人物だった。

「あの子がいたのって、先生の差し金でしょ」
ソファのヘリに腕を置いて、頬杖をつきながら王子がカカシをじっと見つめる。
カカシはその瞳に観念したように言った。
「なんでサクラにはみんなばれちゃうのかなぁ。俺こう見えてもこの国一番の魔法使いなんだけどね」
そのようなことはいちいち言わずとも王子は知っている。
カカシが優秀な魔法使いでなければ、王子とカカシが出会う事はなかったのだから。

王子が幼い頃からうけてきた英才教育。
方々から一流の専門家を雇い、分刻みのスケジュール、繰り返される授業。
今王子のとなりにいるカカシもそうした教師の一人だった。
肩書きは国一番の魔法使い。
だが彼の授業はその人格同様とにかく型破りだった。
木登りの授業、城の外へのお忍びの授業、庭に放した犬を探して捕まえる授業。
もちろん、王子には常に監視役のおつきがいるため実現しなかったものの方が多い。

どうやら王子に魔法の才能はなかったようで、そちらの成績は全くあがらなかったが、王子はなによりカカシの授業の時間を楽しみにしていた。
理由は多々あるが、王子がカカシを重用していた最たる理由はカカシが王子に敬語を使わないことだ。
カカシはそれまで“王子”としてしか周りから扱われなかった彼を、ただの子供として扱ってくれた初めての人物だった。
そして、今では両親にさえ呼ばれることのなくなった“サクラ”という名前。
王子はカカシがその名前を呼んでくれる事が嬉しかった。

最近、王子はカカシ以外に自分の“サクラ”という名前を呼んで欲しいと思う相手が出来た。
水晶玉に厨房の様子を映すという魔法の授業の時、いつものように失敗しサクラはとある民家らしき映像を水晶玉に映した。
そして、偶然そこに映っていた娘に王子は一目ぼれした。
同じ時期に舞い込んできたリー王女との結婚話を断ったのは、彼女の影響が強かったのだろう。

それ以来、王子は暇があれば水晶玉にその娘を映しては見ていた。
だが、しだいにあることに気づく。
彼女がちっとも幸せそうに見えないことに。
王子は彼女が笑ったらどんなに可愛いだろうと思ったけれど、一度として彼女はそのような表情をしなかった。
そこで、王子は初めてカカシに、他人に対してお願いというものをしたのだ。
彼女が幸せになれるようにして欲しいと。

カカシは人の幸せはそれぞれ違うので、そのような願いはかなえることはできないと最初は断ったのだが、必死に懇願する王子についに折れることになった。
しかし、幸せはそれぞれ違うというカカシの言葉も最もなので、妥協案として、彼女の願いを一つだけ叶えるということにした。

「そんなまどろっこしいことしないで、彼女を城に呼べばいいじゃないの。普通の女の子なら城に住めるなんて言ったら喜んで来るよ」
カカシの言葉に、王子は寂しげに笑って答えた。
「彼女に私みたいに不自由な生活をして欲しくないんだ」
それは王子が自分の現状について生まれて初めてもらした、不満と思える言葉だった。

そしてカカシがわざわざ彼女の家に訪れて無理な芝居をしてまで叶えた願いというのが、意外なことに「城に行くこと」だったのだ。
「別に俺の策略とかじゃないよ。彼女が城に行きたいと言ったんだ」
「ふーん」
王子はまだ疑わしげな顔をしながらカカシを見ていた。
「ま、彼女も玉の輿にのって贅沢な生活をすることに憧れていた世間一般の女の子だったってことだよ」
カカシは笑って言ったが、王子は到底笑うことなどできなかった。

「そうだね。結局彼女も私のことを“王子”としか見てくれない人間だったのかな。一度でもいいから彼女に名前を呼んで欲しかったのに」
王子の瞳から涙がこぼれる。
カカシは王子の震える肩を優しく抱いた。
「ありがとう。カカシ先生がいてくれて本当に良かった」
カカシは王子が唯一弱い姿を晒せ出せる人間だった。
カカシがいなかったら、とっくの昔に自分の精神は破綻していたかもしれないと王子は思う。

でも俺じゃ駄目なんだよね、という心の声はカカシの口から出ることはなかった。

 

サスケは以前と変わることなく家の雑用をこなしていた。
今まではうっとおしいと感じていた作業が、サスケにはありがたかった。
身体を動かしていれば、王子のことを考えなくてもすむから。

洗濯物を干し終えて一息ついた時、ふいに背後から人の声が聞こえた。
「せっかく俺が願い叶えてやったってのに、全然変わってないなぁ」
その声に、サスケは驚いて振り返る。
「よぉ、元気してる?」
サスケの目の前にいたのは、いつぞやの魔法使い。
「おまえ」

サスケはカカシの姿を認めると、洗濯桶を放り出して彼に詰め寄った。
「俺を城に、王子のところへ連れて行け!」
「なんで」
サスケの命令口調を気にした風もなく、カカシは疑問を口にする。
「そんなの俺にだって分からない。でも、何をしていても、王子のことが頭から離れなくて」

最後に見た、自分は自由に行動できないと言った時の王子の寂しそうな顔が忘れられない。
城の中だけでなく、もっといろいろなところに連れて行ってあげたいと思った。
この暮らしから抜け出すためにという当初の目的はサスケの頭からすっかり消えていた。

急に歯切れの悪い口調になったが、それでもサスケははっきりと言った。
「たぶん王子の事が・・・好き・・なんだと思う」
「だーってさ」
そう言ってカカシが指を鳴らすと、忽然として王子の姿がその場に現れる。
「え!」
サスケは目の前に突然現れた王子と、その隣に立つカカシの顔を交互に見た。
「ほ、本物か」
サスケは信じられずに、目を丸くしてマヌケな言葉をいった。
カカシはその様子に苦笑している。

驚いているのはサスケだけでなく、王子もだった。
カカシの魔法の授業をうけようとした時に、唐突に
「今日は課外授業ね」
と言って外に連れ出されたのだ。
今ごろ側近達が大慌てで王子の姿を捜していることだろう。
姿を隠す魔法をかけられていたが、王子はカカシがサスケに声をかける前からそこに存在していた。
当然サスケの言った事は聴こえていたのだが、それでもまだ信じられない。

サスケが困惑している王子の手を取って言った。
「名前を教えてくれ」
頬を赤らめながら呟かれたサスケの言葉に、王子は涙を落として頷いた。

「あーあ。あいつの願いが王子に会いたいってものじゃなかったら、リー王女との婚儀の前に俺が王子攫ってたのになぁ」
カカシの声は多少残念そうだったが、幸せそうに微笑む王子とサスケの姿を見て、満足そうに笑った。


あとがき??
サスサク話のはずなのに、気づいたらカカサク入ってたよー!
ビックリ!そんなつもりなかったのに。
恐るべしカカサク!!(笑)
っていうか、これ性別逆転してるから、この話でカカサクやったら男×男だよ。(苦笑)
ちなみに、イルカ×ヒナタはイルカ×紅の次にいいかなぁと思う組み合わせ。
マイナーにもほどがあるだろう!(笑)

えーと、サスケが王子の名前を知らなかったのは、平安時代の貴族が天皇の名前は恐れ多くて皆口に出さなかったというのと同じだと思ってね。
別にこの話、サスサクでやる必要なかったかなとか思っちゃったり。あわわ。
でも結構楽しかったわ。
リーくん、変なところで名前使ってすまない。君のことは大好きだ。

そして、恐ろしいことに、この話には続きがある。
いや、むしろこの話がプロローグだったのかも。

(次回予告)
城にあがったものの、サスケに安息の日々は訪れなかった。
サスケの前に立ちはだかる、リー王女と数々の陰謀。
まんまと罠にはまったサスケは絶体絶命のピンチに陥る。
果たして、王子サクラはサスケを救うことができるのか!
内なるサクラの出番はあるのか?
カカシ先生の暗躍は?
血塗られた王国の歴史についに終止符が打たれる。

サブタイトル、『信じる心』!
ご期待ください!!(半分冗談(笑))


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