シンデレラ ver.NARUTO T


優しかった母、紅が死に、父イルカが再婚したことにより、海野家の一人娘サスケの運命は急変した。

 

「あら、サスケったら、まだ掃除終わらせてなかったのー。とろいわねぇ」
義理の姉であるいのが、掃除用のバケツをわざとひっくり返しながら言う。
「・・・すみません。お姉さま」
ここで少しでも反抗する言葉をいえば、新たな雑用が増えるだけだということを、サスケも心得ている。
怒りの表情を見られないように、下を向きながらサスケは答える。
そこにもう一人の義姉であるナルトもしゃしゃり出てきた。
「ちょっとちょっと。私が頼んだ繕い物はまだできていないの?」
「・・・もうすぐ終わります」
「早くしてってば」
いのとナルトが立ち去りながら「本当にグズなんだから」と話しているのが聞こえる。

彼女達が来てからというもの、一切がこんな調子だった。
それまで屋敷にいた使用人をやめさせ、代わりにサスケを働かせている。
新しく母になったヒナタは温和でそう悪い人物ではないのだが、娘にあまく、とくにナルトの言う事には全く逆らえない。

行商人であり、めったに家に帰ってこない父は、こうした現状に全く気づいていなかった。
だが、いつまでもこのような状況に甘んじているサスケではない。
いつ帰ってくるかも分からない父を頼るのは止めた。
隙を見てこんな家から逃げ出してやる、と心に誓うが、かといって今まで箱入り娘として育ったサスケが無一文で家を飛び出しても生活していくことができないことは、自身が一番よく分かっていた。
いくら参段したところで、いい案など全く浮かばず、ただ月日だけが過ぎていった。

 

そんなある日、サスケに絶好のチャンスが巡ってきた。
いつものように玄関前をほうきで掃いていると、自分宛ての封筒を郵便の配達人に渡された。
いやに煌びやかな封筒だ。
他人との交流をめったにもたなかったサスケがどこのどいつだと差出人を見ると、なんと城からの手紙だった。
中身はダンスパーティーへの招待状。
この国の王には年ごろの一人息子がいる。
風の噂で聞いたところによると、その王子がいつまでたっても結婚の意志を見せないことに業を煮やした王様が最終手段にでたらしい。
国中の貴族という貴族の娘にダンスパーティーの招待状を出した。
そこで王子の目にとまる娘がいれば即結婚させようという目論見だ。
下級とはいえ、貴族の端くれであるこの家の娘達にもその招待状が届いたというわけだ。

「これだ!!」
ほうきを片手にサスケは周りの目も気にせず、戸口でそう叫んだ。
城に行き、王子をたらしこむ。
この家から脱出し、城で左団扇な生活。
王子のことが気に入らなければ、城の宝物をちょっとばかり拝借してとんずらすればいいのだ。
城ならわずかな宝石しかない貧乏貴族であるうちと違って、財宝がうなるほどあるはずだ。
いざという時のために体を鍛えていたし、逃げ切る自信はある。
肝心の王子がサスケに見向きもしなかった場合のことなど、全く考えていないあたりが、自尊心の高いサスケらしい計画だった。

急に人生が開けたような気になり、気分が高揚したのもつかの間、サスケは計画の致命的な欠陥に気づいた。
愕然として、思わずその場に座り込む。
「・・・着ていく服がない」
サスケの以前持っていた服は全て義姉達に奪われていた。
着た切り雀の今の服で城になど行けるはずもない。

 

「ハァ」
ダンスパーティー当日、精一杯着飾った義姉達を玄関先で見送りながらサスケは彼女達に気づかれないように溜め息をついた。
義姉達は、特注でオーダーした服に身を包んでいる。
それぞれの個性に合ったドレスで、元の顔が悪くないだけに、よく似合っていた。
きっとパーティー会場でもそれなりに目を引く存在になるだろう。
サスケはその情況を頭に思い浮かべ、歯噛みする。

「王子さまって、広いおでこがとってもチャーミングなのよねー」
「そうそう。それに綺麗な桜色の髪をしてるのよ。お会いでくきるなんて、夢のようだってば」
楽しそうな声を残して、義姉達は義母と馬車に乗りこんだ。
「留守番よろしくね」
ヒナタはサスケを連れて行くことなど微塵も考えていない様子でそう言うと御者に合図した。
城に向かって遠ざかっていく馬車をサスケはただ見ていることしかできなかった。

「くそ。せっかくのチャンスが!」
サスケは誰もいなくなった応接室で憤りを剥き出しにして壁を叩いた。
その振動で、傍にあったテーブルが揺れる。
「あ」
サスケが手を伸ばした時にはもう遅かった。
テーブルの上にのっていたアンティークの壷が床に落ち、物の見事に砕け散った。
それは父が外国から仕入れてきたもので、どこか東洋的なデザインの壷だった。
高価な一品だと父が言っていたのを思い出し、また小言をいわれるとサスケは暗い気持ちになった。

サスケがのろのろと破片を拾い集めようと動き出した時、急に辺りに煙が充満した。
一瞬にして視界がふさがれる。
「な、なんだ」
サスケが突然のできごとにうろたえていると、煙の中心に人の姿が現れた。

「有難うございます〜。ようやく出れました」
そこにいたのは見たこともない男。
「こんにちは。君が出してくれたの?本当にありがとな」
彼は驚いて目を見開いているサスケを全く気にした様子もなく、サスケの手をガシッと掴み、ぶんぶんと振り回した。
「いやー、ずっと壷の中入ってたから、体が痛いよ。出してくれたお礼に君のお願い事一つかなえてあげるけど、なにか注文ある?」
サスケはその男の手を振り払うと、懐疑的な目で彼を見た。
「お前、本当にこの壷にはいっていたのか?」
「そうそう。これでもちょっとは名の知れた魔法使いでね。でも少しの油断から、魔法使い同士の勝負に負けてこの壷に閉じ込められちゃったんだよ。本当にどうなることかと思った」
その男はニコニコ顔で答えた。

胡散臭い。
煙が晴れたのを見計らって、サスケはその男の姿をまじまじと見た。
隠された左眼に、口元を隠したマスク、見慣れない服装と、なにからなにまで怪しい。
それとも魔法使いというのはこういうものなのかとサスケは考える。
しかし、この男は気になることを言っていた。

「願い事を叶えるって、本当か」
その男はニヤリと笑う。
「本当本当。ただし一つだけね。なにか欲しいものあるの?お金とか、宝石とかかな。それとも誰かを殺して欲しいとか」
魔法使いは物騒なことをサラリと言ったが、彼が言うとどこか違和感がなく聞こえるところが恐かった。
「そんなんじゃない。俺を城に連れて行ってくれ」
「城?」
魔法使いは驚いたように訊き返した。

「そうだ。今日は城でダンスパーティーなんだ。それに出るためのドレスと靴も用意して欲しい。王子に何としても会いたいんだ」
「城。城ねぇ。・・・うーん」
何故か魔法使いは少し悩むような動作をした。
何度かサスケの前を行ったり来たりと歩くと、サスケに向き直った。
「了解了解。連れて行ってやるよ。ほら」
魔法使いがパチンと指を鳴らすと、サスケの衣装が一瞬にして変化した。
飾りは少ないが、清楚なイメージの純白のドレス。
足には珍しいガラスの靴が履かされている。

瞬間的な出来事に目を丸くしているサスケに、魔法使いが声をかける。
「ほら、あそこが入口だから。お前の招待状はこれな」
我に返ったサスケは、自分がすでに城の正面出入り口のまん前まで来ていることにようやく気づいた。
サスケは魔法使いの手元の招待状を見ながら、まさに夢を見ているような気持ちになる。
都合良すぎないか?
「はい、はい。行ってらっしゃい。ちなみに、俺の魔法、12時になるときれちゃうから気をつけてな」
首をかしげているサスケの手に招待状を押し付けると、魔法使いはさっさと退散した。
「え、おい。12時って!?」
サスケが声を出したときには、すでに魔法使いの姿はどこにもなかった。

 

ダンスパーティーでの守備は上々だった。
会場入りしたとたんに、周囲の目がサスケに集中する。
全て計算どおりだ。
もちろん王子もサスケの姿を目に留めると
「あなたに会えて光栄です」
とのたまわった。
悔しそうにこちらを見ている義姉達の姿が視界に入り、サスケは内心ほくそ笑んだ。
魔法使いに金銀財宝を望まずにわざわざこの場に来たかいがあるというものだ。
あとは12時前に姿を消すだけだな。

靴の片方落とすかして、なにか目印になるものを残しておくか、などと考えていると、突然パーティーに乱入してきた者達がいた。
それは武装した兵士の集団。
あまりこの会場に似つかわしくない。
最初はパーティーの余興と思っていた者も、出席者の一人が斬られた時点で己の勘違いに気づいた。
「キャアアァァァーー!!」
どこかの婦人の叫び声を皮切に、パーティー会場は混乱の渦と化した。

王は開会の挨拶をした後、早々に退室している。
この部屋で一番身分の高い者。
狙いは王子か。
サスケは素早く考えをまとめると、隣りで呆然としている王子の手を取る。
「逃げるぞ」
「は?」
サスケはまだ情況を理解していない王子の手を引いて、侵入者が入ってきたのと反対側の出入り口へと駆け出した。
本来なら攻撃に転じたいところだが、いかんせん敵の数が多すぎる。
こうなるとドレスも動きを制限するだけの代物だ。

「王子が逃げたぞ。追えー!」
二人の姿を見咎めた侵入者の一人が大声をあげる。
サスケは自分の予測が当たっていたことを知る。
だからといって何も嬉しくはなかったが。

うまく会場の外に出られたものの、サスケは城には全く不案内だ。
すぐに自分がどこにいるかも分からなくなる。
「おい」
「はい?」
それまで黙ってサスケについてきた王子に声をかける。
「城の外に行くにはどうしたらいい」
「外ですか。この道を右にまがってつきあたりを左に。そのままいくと十字路になっているので、そこを曲がらずまっすぐ行ってそれから」
そうこうしている間に、侵入者の足音が近づいてくる。
「もういい。お前が先導してくれ」
サスケは王子の長口上にいらいらとしながら言う。
王子はきょとんとした顔をしたかと思うと、次には笑顔になった。
「はい」
狙われてるというのに、余裕の笑顔を浮かべる王子に、サスケは動揺する。
もしかして、こいつ頭弱いのか?

しかし、それは全くの逆だった。
かなり入り組んだ路をすいすいと進む王子のナビゲーションの完璧さにサスケは内心舌を巻く。
訊くと、王子はパーティー会場だった城のこの棟には初めて来たという。
最近増設されたこの棟の見取り図を建物が建つ前に一度だけ見たことがあり、それを覚えていたのだそうだ。
サスケは信じられないものを感じながらも、王子が嘘を言っているようにはどうしても見えなかった。
長い廊下を走り抜け、ようやく外へと続く門が見えてきた。

王子はつないでいた手を離すと、サスケに
「あなたは早くここから逃げてください」
と言った。
サスケは暫しあっけにとられる。
「お前、あいつらの狙いが自分だって分かってるんだろ」
「ええ。だから戻らないと。会場にいる人達が心配です。私が目的ですから殺されはしないまでも、人質になっているかもしれません」
サスケには王子の意図が全く見えない。
「じゃあ、どうしてここまで来たんだ」
「あなたが怪我するといけないから。私が一緒に行かなかったら、賊に立ち向かって行きそうな怖い顔してましたよ」
王子がそう言って笑った。

俺のため?

サスケは王子の言葉に冷水を浴びせられたかのようなショックを受けた。
不幸な境遇から抜け出すためとはいえ、自分は王子を利用しようとしていた。
王子を連れて逃げたのだって、身の危険を心配していたわけでもなく、ヘタに死なれたら計画が台無しになるから。
それなのに、王子はなによりもまず自分を逃がそうとここまで案内してくれたのだ。
そして、今、彼は残された人のために、あえて危険な場所へ戻ろうとしている。
王子に比べ、自分の事しか考えていなかったという思いから、サスケは穴があったら入りたいような気持ちになった。

「ここまで来ればもう大丈夫だと思いますが、気をつけて帰ってください」
王子は踵を返して走り出そうとする。
「待て!」
王子の前で猫をかぶることをすっかり忘れたサスケは、彼に怒鳴るようにして呼びかける。
「なんですか」
立ち止まった王子がサスケに優しい口調で訊ねる。

「・・・ありがとう」
他にも言いたい言葉があるような気がしたが、とっさに出てきたのは感謝の言葉だった。
王子は一瞬驚いたような顔をしたかと思うと、サスケに向かって微笑んだ。

「こちらこそありがとう。この城に住んでるとは言っても、あまり自由に行動はできないんです。つねに人の目がありますし。ずっとこの棟を視察したいと思っていたので、嬉しかったです。それに、今まで誰かと手を繋いで走ったりなんてしたことなかったから本当に楽しかった」
にわかに辺りが騒がしくなってきた。
追っ手の声はすぐ近くまで迫っている。
「さようなら」
それだけ言うと、王子は表情を険しいものに変えて建物の奥に姿を消した。

サスケは外に出ることも忘れ、そのまま王子の消えた方向を見つめつづけた。
「・・・さようなら、か」
そう呟いた瞬間、12時を知らせる鐘の音が城内に響いた。


あとがき??
これのどこがSSなんだーという長さになったので一旦切る。
次はサクラちゃんメイン。
今のままじゃ、王子が何考えてるが全く分からないし。(笑)

これを書いてるとき、偶然同じような設定の話の存在を知りました。
やはり、シンデレラ=サスケで、たぶん王子=サクラ。
あえて内容は見なかった。
話まで似てしまったらまずいし。
こりゃ、ヤバイなぁ、と思ったけど、すでに三分の二ほど書いていたので、もったいないので載せる事にした。
関係者の方、見ていたら申し訳ありません〜。
マネしようと思ったわけじゃないんです。(泣)
ぱくったとしたら、とあるGW本の設定の方だろうか。
シンデレラ=ヒイロ、王子=リリーナの本を読んで、なんとなくこの話が浮かんだ。
内容は全然違うけど。(笑)
おかげで、このサクラちゃん、愛しのリリーナ嬢がちょっと入っちゃってますわ。

ちなみに服装のイメージは、サクラちゃんは軍人さんの正装(白い礼服ね。まんまリリーナ嬢)みたいので、サスケは頭に昔のサクラちゃんのようなリボンつけてます。(笑)


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