カノン


晴天の日曜日。
穏やかな気候で、暑すぎず、寒すぎず。
絶好の行楽日和だ。

秋晴れの空の青に引かれたサスケは、散歩がてらに街の中をぶらついていた。
何か目的があるわけではなく、少しずつ変わっていく町並みや人々の様子を淡々と眺める。
知り合いの顔もちらほら見たが、声を掛けることはなかった。

 

街の中心にやってきたところで、缶飲料の自動販売機を見付けたサスケは足を止める。
喉の渇きを覚えたからだが、サスケがポケットから出した小銭は自販機に入れる前にポロリと落ちた。
転がる小銭を目で追いかけつつ、サスケはある一点で、視線を固定させる。
人混みの中に、見知った顔の二人連れ。
私服姿のカカシとサクラが、談笑しながら歩いていた。

サクラの鞄からは、巷で話題になっているアクション映画のパンフレットがはみ出している。
おそらく、二人で映画館から出てきたばかりなのだろう。
興奮した面持ちでカカシに話しかけるサクラは、映画批評に夢中のようだった。

いつの間に、休日一緒に過ごすような関係になったのか。
いくら考えても、サスケにその答えは分からない。
よほど熱心にその方角を見ていたのか、サスケは背後に近寄る気配にもまるで気づけなかった。

 

 

「拾わないの?」
からかうような声に、サスケは間髪を容れず振り返る。
そこに立っていたのは、口元に笑みを湛えて自分を見るナルト。
内心の動揺を見透かされたようで、サスケは不満げに顔をしかめた。

「・・・・何でここにいる」
「買い物だよ、買い物。そこから出てきたらお前がいて、何を見ているのかと思ったら、カカシ先生達がいた」
ナルトは片手に持った肉まんを頬張りながら答える。
手提げ袋には、すぐ近くにあるスーパーの店名が刻印がされていた。

「サスケ、サクラちゃんの作ってきた弁当一度も受け取ってないだろ。それを代わりに食べているのがカカシ先生。毎日弁当作ったお礼として、映画に誘われたってサクラちゃん言ってたよ」
口に入れた物を飲み込むと、ナルトは人波に紛れつつある二人の背中に目を向ける。
「それって、今日だったんだなぁ・・・」

 

ナルトの声音からは、焦りといったものは微塵も感じられない。
ごく、のんびりとした口調だ。
始終サクラを追いかけているナルトを知っているだけに、サスケにはそれが意外だった。

「・・・お前、それでいいのか。サクラを好きなんだろ」
「俺はサクラちゃんの応援団だもん。誰といても、幸せならいいよ。もちろん、その相手が俺なら言うことないけど」
サスケに目線を移すと、ナルトは意地の悪い笑みを浮かべる。
「お前は?どうなんだよ」
「・・・・」
「お前のことだから、死んでも言わないつもりだろ。でも、誰かに取られてから悔やんでもしょうがないんじゃない」

ナルトは足下にあった小銭を拾うと、サスケに差し出す。
いつになく大人びた言動と余裕のあるその笑みが、どうにも気に入らなかった。

「言われなくても、分かってる」
吐き捨てるように言うと、サスケは踵を返す。
小銭をそのままにしたのは、礼を言うのが癪だったのかもしれない。
遠ざかっていく背中を見つめながら、ナルトはくすくす笑いを続けていた。
「素直じゃない奴――」

 

 

 

翌日、任務の合間の昼休み。

ナルトの忠告は、サスケの頭の隅に残っていた。
いつもは断るサクラの弁当を、素直に受け取ったのもそのためだ。
だが、それからのことは全然考えていなかった。
それは、弁当を持つサスケを珍妙な表情で見つめるサクラにも言えること。

「ど、ど、ど、どうしたの、サスケくん!!?」
青ざめたサクラの言葉に、サスケはどう答えたらいいか分からない。
「そんなにお腹すいてるの?もしかして、財布を落としてお金がないとか??私、今持ち合わせがないんだけど、家に帰ったらいろいろ都合できると思うから。あ!!でも、帰ることには銀行はもう閉まってるかしら」
「・・・・」
サスケに弁当を作ってくるのはサクラにとってすでに習慣のようなもので、本当に受け取るとは夢にも思っていなかったのだろう。
必要以上にうろたえるサクラを前に、サスケは自分がどのように認識されているのかと、疑問に思う。
目の端に映るナルトが爆笑しているのも、全く面白くなかった。


あとがき??
このナルトの存在感はどうだろう・・・。
すみません。うちのサイトで一番愛を注がれているキャラなもので。
今さらですが、うちのナルトは原作とは別人です。全てに達観している人です。
か、カカシ先生、台詞なし。(涙)

カノンというのは、追想曲です。
サスケの背中を追いかけているサクラですが、その後ろにまたサスケがいたりして、追いかけっこは延々と続くのですね。
口下手なサスケと鈍いサクラでは、いつまでたっても埒が明かない気がします。
話の元ネタは『極上天使』、サスケのモデルはもちろん皇くんでした。


駄文に戻る