顔 T


「サスケって、何だか怖いよな」
「何でだよ」

偶然アカデミーの廊下で耳にした、男子生徒の会話。
サクラは無意識のうちに立ち止まって耳をそばだてた。

「あいつ、何かと目立つだろ。この間上級生達に目つけられて呼び出されたらしいんだよ」
初耳だ。
サクラはさりげなく彼らと距離を縮めて緊張気味に立ち聞きを続ける。
「へぇ。それで」
興味津々に訊き返す友人に、彼は声を潜めて耳打ちした。
「囲まれてもあいつは表情一つ変えなかったらしい。逆に返り討ちにしたってよ。結構人数いたのに、相手は全員病院送り」

重い沈黙が二人の間に続く。
普段クールなサスケを知っているだけに、彼らはその情景をありありと想像できた。
「・・・こえーな」
「だろ」

そして、彼らの会話はすぐに別の明るい話題に移った。
眉を寄せたサクラは、何故だか悲しい気持ちを抱えてその場をあとにした。

女子生徒からは絶大な人気のあるサスケ。
だが、それはアカデミーの生徒のごく一部でのこと。
同性のクラスメートからは、はっきりと敬遠されている。
彼の持つ孤高のイメージ。
それが女子を惹きつける要素なのだが、男子には逆に近寄りがたいものと映るらしい。
いつも一人のサスケの姿が頭をよぎる。
サクラはそれが他人事ながら、とても寂しく感じられた。

 

あくる日の男子と女子、合同の授業。

普段は黒板の真ん前を陣取るサクラは、その日、珍しく一番後ろの席についた。
その席からだと、教室の様子が一目で分かる。
サクラはさりげなくサスケの様子を窺った。
サクラの斜め前、窓際の席にいるサスケは、今日も一人でこの教室に現れた。
遠巻きに眺める女子達の視線など歯牙にもかけず、彼はただ、窓の外を見ている。
サクラの位置からは表情までは確認できないが、たぶんつまらなそうな顔をしているのだろう。
いつもと同じように。

疲れないだろうか。

ふと、そんなことを考えた。
サクラはサスケの表情といえば、しかめっつらか、怒った顔しか知らない。
何かにつけ、不機嫌そうだ。
はたから観察していても、彼が片意地を張って生きているのがよく分かる。
よけいな心配だと分かっているし、本人が知ればおおきなお世話だと思われるだろうが、サクラは危なっかしくて彼から目を離せない。
サスケはひどく不安定な場所にいるように思える。
世間では、まだ子供とされる年齢。
誰か、彼の支えになるような人はいるのだろうか。
笑顔を見せられる、心を許した人はいるのだろうか。

 

そのようなことをつらつらと考えていると、サクラの視線に気付いたのか、サスケが僅かに彼女の方へ顔を傾けた。
何だ、とばかりに睨まれる。
相変わらずの渋面にサクラは苦笑して手を振ったが、見事に無視された。

「春野さん、何か質問ですか?」
代わりに、担当の教師に声をかけられる。
サクラは今が授業中だということをすっかり失念していた。
慌てふためきながら、サクラは席から立ち上がる。
「あ、お、お手洗いに行って来ていいですか!」
思わず口から出たでまかせに、教室中がどっと沸いた。

教師は額に手を置きながら言った。
「春野さん、そのようなことはわざわざ手を上げて言わなくてもいいですから」
サクラはそのまま、すごすごと教室の扉へと向かう。
お手洗いに行きたいと言った手前、その場に留まることは出来ない。
何故、もっと気の利いた言い訳が出なかったのかと、サクラは赤面しながら歩いた。

教室から出る直前、サクラはちらりとサスケのいる方角を見る。
くすくす笑いの続く教室内で、彼の視線は再び窓の外へと向けられていた。

 

そして、その日の午後に事件は起こった。

 

上級生の男子生徒が何者かにアカデミーの階段から突き落とされたのだ。
その生徒は打ち所が悪く、意識不明の重体。
運が悪ければ、命を落とす危険もある。
前代未聞のその出来事に、アカデミー中の教師に緊急集合がかけられた。
その間、もちろん生徒達の授業は中断され、サクラは自習中の教室で落ち着かなく周囲を見回した。
サスケの姿がない。
サクラは妙な胸騒ぎを感じていた。

誰かが廊下を駆けて来る音が聞こえ、教室の扉がガラリと開く。
サクラはすぐさま振り返ったが、それはサスケではなかった。
サクラのクラスメートである他の男子生徒。
彼は血相を変えて、先ほど他のクラスの生徒から入手したばかりの情報を、仲間達に伝えた。

「目撃者が証言したらしい。上級生を階段から突き落とした犯人はサスケだとよ。奴は今、職員室にいるみたいだ」
「嘘!!」
サクラは弾かれたように大きく声を出す。
教室中の視線がサクラに集中した。
青ざめた顔をしたサクラは、震える声で続ける。
「サ、サスケくんはそんなことする人じゃないわ」

サクラの訴えもむなしく、彼女の意見に賛同する者は教室に、一人もいなかった。
日頃サスケに好印象を持っていた女子ですら、沈黙している。
被害者である生徒は、サスケに呼び出しをかけた上級生達の筆頭だった。
彼がサスケと犬猿の仲だったことは、周知のこと。

サクラのように真っ向から否定できるほど、彼らはサスケのことを知らなかった。


あとがき??
唐突にサクサス。前から書き始めていたけど、ずっと筆が止まっていたもの。
英さんのサイトのサスサク作品を見て感化され、ようやく執筆再開。(^_^;)
結構、シリアスですね。
前半はカカシ先生もナルトも登場せず、完全サクサス態勢。
後半は、彼らもちらっと出てくるかもしれません。
でも、次もサクサスというか、サスサクというか、そんな感じの話。


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