思考少年


前日、任務終了後にカカシから出された宿題。

数々の方程式を多様した難問だったが、下忍3人の中で唯一正解を出したのは、サスケだった。
「いやー、まさか正解者がいるとはね」
問題を出しておきながら、無責任にもカカシはそんなことを言った。
実を言うと、上忍試験の筆記に出るレベルの問題だったらしい。
中忍試験を間近に控え、下忍達がどこまでできるか、力量を試す宿題だったのだ。

 

「凄いね。頑張ったんだね、サスケくん」
サクラは素直に感心して、サスケを褒め称えた。
美辞麗句ではなく、心からの感嘆の声。
「・・・・」
サスケは無言でサクラから視線をそらした。
だが、僅かに頬をくずしていることから、喜んでいるのだと分かる。
カカシとサクラはにこにこと笑ってサスケを見ていた。

「ちっくしょー。俺だって頑張ったんだってばよ」
対して、サスケの傍らにいるナルトは悔しげに地面を蹴っている。
「まぁ、ナルトにしては、頑張ったわよね。途中までは当たってたもの。私だって間違えたんだから、そんなに落ち込まなくても大丈夫よ」
苦笑ぎみのサクラがフォローを入れても、まだナルトは地を見詰めている。
導き出した答えに、よほど自信があったらしい。
夜遅くまで机に向かい、参考書とにらめっこしたのだと本人も主張していた。
真っ赤な目をしていることから、それは真実のことなのだろう。

 

サクラはナルトの頭にぽんと手を置くと、優しく言った。
「よく頑張ったわよ。えらい、えらい」
サクラに頭を撫でられ、ナルトはとたんに相好を崩す。
「へへへ。そうかな」

単純にもすっかり機嫌をなおしたナルトに、サクラはすかさず釘をさした。
「でも、勉強は毎日続けないと駄目なのよ」
「え」
「付き合ってあげるから、今日は図書館で間違った部分を徹底的に復習しましょ」
「えええーー!!俺、今日はイルカ先生とラーメンを食べに・・・」
「問答無用よ」
サクラは抵抗するナルトを引きずって、歩き始める。
今日の任務はすでに終了し、あとは帰るのみなのだ。

「じゃあ、カカシ先生。また明日」
「おおー。気をつけて行けよー」
振り返ったサクラに、カカシも手を振って応える。
「さて、俺も任務の報告に行くかなぁ」

 

軽く伸びをしたカカシは、ふと、一人残ったサスケに目を向ける。
彼はある一点を凝視していた。
その視線の先には、騒がしい様子で遠ざかっていくナルトとサクラ。
何やらひらめいたカカシは、傍らにいるサスケを肘で突付いた。

「羨ましそうに眺めちゃってー。サスケもサクラに頭撫でてもらいたかったんだろ」
「ち、違う!」
したり顔でにやつくカカシの言葉を、サスケはすぐさま否定する。
「ふーん」
面白そうに笑うカカシから、サスケは不機嫌そうに顔を背けた。
まさか、図星だとは自分でも思いたくなかった。
だが、羨む気持ちが全くなかったかというと、完全に打ち消すことができない。

 

サスケが、最近になって気付いた感情。
他の誰でもない。
サクラに誉められると、どうしてか、とても温かい気持ちになるのだ。
理由は、分からない。
また、考えると非常に面白くない結論に達してしまうことが分かっていたから、サスケはわざと途中で思考を止めるようにしていた。

 

 

 

翌々日の7班の任務は、前日から引き続き、とあるお屋敷の草むしり。
昨日の過程でまだ三分の一も済んでいないことから、あともう一日はかかるかという作業。
そして、集合場所にはサスケとサクラのみで、ナルトの姿はなかった。

「ナルトはお休みなの?」
サクラは心配げに声を出す。
「ああ。風邪ひいて寝込んでるみたいよ。だから、今日はおまえ達だけで作業してくれ」
「え、カカシ先生は!?」
「俺ね、火影さまから所用を申し付けられてな。夕方までには帰ってくるから」
屋敷への道は、すでに承知している。
「しっかり仕事しろよ」
それだけ言い残し、カカシは姿を消した。

ここでナルトあたりなら、監視役がいないのをいいことにサボることを提案しただろう。
しかし、残ったのは真面目なサスケとサクラだ。
サクラは用意されていた籠の一つをサスケに手渡す。
「じゃあ、行こうか」
「・・・ああ」
サスケは何故か緊張ぎみに籠を受け取る。
7班で活動をして初めて、サクラと二人きりの情況での任務だということを意識せずにいられなかった。

 

屋敷につくなり珍しくも寡黙に作業を続けていたサクラは、サスケのもとへとやってくる。
「サスケくん」
「なんだ」
座り込んで作業をしていたサスケは、声だけで答える。
「ナルトのことなんだけど」

その名前に、サスケは僅かに眉を寄せてサクラを振り仰いだ。
サクラがいやに無口だった理由がはっきりとする。
「ナルトって一人暮らしだし、ちょっと心配なんだ。私、様子見てくるからサスケくん一人で続けててくれる?」
「・・・・」
「すぐに戻ってくるから」
言いながら、サクラはすでに軍手を外して準備は万端だ。
立ち上がり、腕についた細かい草を払うサスケにサクラはにっこりと笑いかけた。

「サスケくんは一人でも、大丈夫よね」

当然のことのように、サクラはあっさりと言う。
サクラのその問いに、サスケは黙して答えなかった。
だが、それはいつものことだ。
了承を得たとばかりに、サクラは踵を返す。

と、サクラの足が、唐突に止まった。
サクラの意思ではなく、何かの力によって足を進めることが出来なくなったからだ。
驚いて振り返るサクラの目に、彼女の服の裾を掴み、俯くサスケの姿。
たぶん、自分でも無意識の行為。

「サスケくん?」
「な、なんでもない」
訝るサクラに、サスケは慌てて手を離した。
そして、サクラから逃れるように、顔をそらす。

 

どうしてか、嫌な感じがしたのだ。
サクラがナルトのところに行ってしまうことが。
それ以上に。
一人、この場に残されることが。
だから、「大丈夫」かと問われた言葉に、とっさに答えることができなかった。
幼い子供じゃあるまし、と思いながらも、サスケは自分の心に陰を指した感情を必死に否定しようとしていた。

“寂しい”などという気持ちを。
誰にも頼らず、常に強くあろうと心がける自分が、持つはずがないのだから。

 

「サスケくん」
サクラは柔和な声で呼びかける。
「一緒に行こうか」
俯いたままのサスケに、サクラは手を差し出した。
いつもの、見ていると心が温かくなる微笑を浮かべて。

「俺は一人で大丈夫だ」
「うん。分かってる」
サクラは頷いて素直にサスケの言葉を肯定する。
「でも、私がサスケくんと一緒がいいの。行ってくれる?」
サスケの気持ちを傷つけないよう、サクラはやんわりと言った。
沈黙が続いたが、サクラはそのまま手を伸ばしている。

暫し逡巡したサスケは、やがてゆっくりと手を出し、差し出されたサクラの掌に自らの手を重ねる。
サクラは嬉しそうに微笑んでサスケの手を握り返した。
サクラの顔を見ながら、サスケはおずおずとした声を出す。

 

「掴まっていていいか?」

ずっと。
この、優しい手に。

「うん」
サクラに、サスケの言葉の真意を読み取れるはずもなく。
ナルトの家に行くまでのことと思ったサクラは、易々と頷いた。


あとがき??
サスサクを書くと、別人度が更にアップするので嫌なのですよ。
でも、嫌いじゃないですよ。
さびしんぼうなサスケ。
サクラってば、とってもやっかいなものを手なずけてしまったようです。
責任とらなきゃね。(笑)

ただ、サクラを引き止めるサスケが書きたかった話。
お母さんなサクラと、駄々っ子サスケ。

タイトルは、藤原薫先生の作品vv
うちのサイト名、これにしようかとも思っていたのよ。


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