たいせつ


サスケからの急な呼び出し。
珍しいその出来事にサクラが大急ぎで駆けつけると、サスケはすでにその場にやって来ていた。

「やる」
つっけんどんな物言いと、無造作に差し出された手。
サクラは自分に言われているのだとすぐには気づけなかった。
「え、私に?」
「持っていろ」

サクラがそれを受け取ったことを目端で確認すると、サスケは一切の質問を無視してすたすたと歩き始める。
サクラはただ唖然とその後ろ姿を見詰めた。
ほんの数秒の会合。
その日の任務を早めに切り上げて一目散にやって来たサクラに対して、あんまりといえばあんまりな対応だった。

 

 

「一体、何なのかしら・・・?」

自然、サクラの口からは疑問符がもれる。
掛け茶屋で団子をほおばりながら、サクラは飾り紐をかざし、先についている金属を目前で眺めていた。
数日前にサスケに渡された、紐を揺らすとカチリカチリと音を立てるそれ。
腰飾りと呼ばれ、刀などにつける小さな装飾品だ。
稚拙な細工で、サスケの身につけるものらしく二つの飾りにきちんと扇の印が入っている。
だが、刀を使うことのないサクラには無用のもの。

サスケの言葉は主に述語が抜けているので、サクラにはさっぱり分からなかった。
それでも、昔に比べるとだいぶマシになった方だ。
目線や僅かな表情の変化からその感情を読みとることが出来るようになったのは、サクラの努力の賜物と言っていい。
同じ班で常に行動を共にしていたことが大きく功を奏している。

だが、中忍になり、班が分かれてからというもの、以前のようにはいかなくなった。
サクラがサスケの休暇を見計らって押し掛けているために、周囲の人々には“二人は付き合っている”と思われていたが、本当にそうのかどうかはサクラにもよく分からない状況だった。

 

「よく食べたわねー」
聞き慣れた声に目線をあげると、いのがサクラの食べた団子の串を見て目を丸くしている。
道端にすだれをかけただけの簡単に造った茶屋には、人々が気軽に出入りしていた。
いのも、サクラがお茶をしているのを見かけて店に入ってきたのだろう。

サクラはいのの言葉に、はたと皿を見詰めた。
知らずに増えている団子の串。
考え事をしているうちにいつの間にやら団子を食べ進めていた事実に、サクラは青くなる。
「ダ、ダイエットしてたのに・・・」
「今更無駄じゃないの。おばさん、あんみつ二つお願いねー」
苦笑いすると、いのは手を挙げて店主に向かって合図する。
もちろん、二つというのは自分とサクラの分だ。

「ま、いいじゃない。彼氏は当分里にいないんだから」
落ち込むサクラに、いのは笑いながら言った。
「え?」
「何とぼけてるのよ。サスケくん、任務で里の外に出てるんでしょ。行商の人達の護衛だから、時間かかるわよー」
いのはサクラの隣りの椅子に腰掛け、運ばれてきたお茶をすする。

いのの話は、サクラにはまさに寝耳に水の話だった。
詳しく聞くたいと思ったが、当然サクラも知っているものを思っているいのには聞き難い。

「そ、そうよね」
サクラは自然を装いながら相づちを打つ。
「いの、その話サスケくんから聞いたの?」
「んーん」
いのは首を横に振ってサクラを見た。
「イルカ先生から聞いたのー」

 

 

「サ、サクラ、落ち着け!」
「いいから、白状するのよ!!!」
いのとの会話を早々に切り上げたサクラはさっそく真偽を確かめるためにイルカの自宅へ赴いていた。
扉を開けたイルカの姿を見るなり、サクラは厳しい調子で詰問していく。
「本当のことなの!」
「なんの話だ!?」
掴みがからんばかりに詰め寄るサクラに、イルカはすっかり呑まれている。

「サスケくんの今度の任務の話よ。行商に付いていくとかなんとか。本当なの?」
「ああ」
ようやくサクラの言いたいことを悟ったイルカは心なし表情を緩める。
「本当だ。火影様に聞いた話だから」

そのとき、丁度隣りの家から出てきた主婦が玄関先でもめる二人を興味深げに眺めた。
そこはかとなく、気まずい沈黙が続く。
このまま立ち話をしていたら、近所の者に何を言われるか分からない。
「まぁ、入れ。玄関じゃ何だし」
イルカはサクラを迎え入れると隣りの主婦に愛想笑いを返して扉を閉めた。

 

話を聞くと、サクラがサスケに呼び出されたあの日に彼が旅立ったのだと分かった。
なのに、、任務のことをちらりとも話さなかったサスケ。
任務内容を他に盛らすことはもともと厳禁なのだが、里を長期離れる任務となれば、話しておいても良いだろう。
一方的に自分が言い寄っているという自覚はあったが、サクラはさすがにショックだった。

 

「イルカ先生、私と結婚して!!」
リビングルームに入るなりサクラは開口一番に言う。
イルカは段差の全くない部屋で激しくつんのめった。
「な、な、な、何言ってるんだ!!」
動揺し真っ赤になるイルカに、サクラは向き直る。
「だって・・・」

サクラの瞳にはじわりと涙が滲んでいく。
「サスケくんってば何にも言ってくれないんだもん。だから当てつけに先生と結婚してやる。帰ってきてから後悔すればいいのよ!」
息巻くサクラだが、イルカの意志というものが全く無視されている事実に気付いていない。
涙を見せまいと目を擦るサクラに、イルカは苦笑いをして彼女の頭に手を置く。

「サスケはお前のこと大切に思ってるよ」
その優しい声音に、サクラは真っ赤な瞳でイルカを見上げた。
「同情してるの?」
「違うよ。それ、サスケにもらったんだろ」
イルカはサクラの身に付けている装飾具を指差す。
サスケに貰った腰飾り。
何となく手放せずにサクラはそれを首から下げていたのだ。

「・・・そうだけど」
飾りには扇の印が入っている。
サクラはイルカがそれを見て言ったのかと思った。
「それな、俺前に聞いたことがあるんだけど、サスケが父親にもらった形見だそうだぞ」
「・・・ええ!!」
サクラは仰天して胸元の装飾具に目を走らせた。

 

子供用の玩具のような細工。
それもそのはずで、サスケが幼い頃に父親に与えられたものだった。
その父親はサスケがまだ小さい時分に死んでいる。
作りがどうこうより、サスケにとって値のつけようがない一品に違いない。

「きっとあれだな。自分の大事にしているものを好きな人に渡すと、どんなに遠く離れてもまた会えるっておまじない。サクラは知らなかったか?」
イルカはサスケをフォローするように言葉を続けた。
その問いに首を振ると、サクラは再び装飾具に目を落とす。

サスケの大事な品。
サスケは「持っていろ」とだけ言った。
よけいな言葉は一切なしに。
だけれど、サスケにしてみれば精一杯の好意の表現だったのかもしれない。

なんて不器用な人なのだろう、とサクラは思った。

 

「あいつさ、口下手だし要領いい方じゃないから誤解されやすいんだよ。でも、もう少し付き合ってやってくれないかなぁ」
「・・・イルカ先生に言われなくても、分かってるわよ」
「そうか」
口を尖らせるサクラに、イルカは柔らかく微笑んだ。


あとがき??
元ネタは河村恵利先生の『昨日の花』。内容は全然違いますが。(笑)
サスサク話だというのに、サスケの登場があれだけとは・・・。すみません。
イルカ先生の役どころはカカシ先生でもOKなのですが、サスサク話にカカシ先生は極力出演させたくないのでパス。
うちのカカシ先生はサクラ好きーなので。


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