とんび


任務終了後、サクラにベタ惚れのリーが彼女を待ち伏せている姿はよく見られる光景だった。
その度にナルトと口論になるのだが、その日は意外なことに、リーが待っていたのはサクラではなくナルトだった。
不思議そうな顔をしながらもサクラは「じゃあね」と言って皆に手を振って家に帰っていく。

「でさ、でさ、サクラちゃんはそこで一個買ったみたいなんだよ」
「ふむふむ。その情報は確かなんですか」
「うん。ヒナタが一緒にその店に行ったって言ってたから」
「何の話だ」
ナルトとリーのひそひそ話に、サスケが横から口をはさむ。
「チョコ」
「チョコの話ですよ」
二人は全く同時に答えた。

明日は二月十四日。
外来もののバレンタインというイベントがこの木ノ葉の里に根付いてから随分たつ。
好きな男子にチョコを渡して愛を告白するというこの行事に浮き足立っているのは女子だけではなかった。

「そのチョコをサクラちゃんが誰に渡すつもりなのかってのが重要なんだよ」
ナルトは真剣そのものの表情で言う。
実はナルトはここ一週間、サクラの動向を探っていた。
自分の目の届かない場所には、ヒナタに頼んで張り込んでもらっている。
はっきり言ってストーカー以外の何者でもない。
だが、ナルト自身はその行為が危険なものだと全く気づいていなかった。
ナルトにとってサクラにチョコをもらえるかどうかは、生き死に関わるほど重要なことなのだ。

「くだらない。菓子のメーカーが売上げを増やすために考えたイベントだろ。そんなことに時間を費やしてる暇があったら修行を」
くどくどと二人を諭すサスケの声に、ナルトとリーは全く耳を貸す様子はない。
「やっぱり一番有力なのは」
「こいつだってばよ」
二人の視線がサスケに集中した。
「な、なんだよ」
焦るサスケに二人がかりで詰め寄る。
「お前は他の子から沢山もらえるからいいだろ。サクラちゃんが何言ってきても絶対に受け取るなよ」
「そうですよ。先ほどくだらないとか言ってましたし」
サスケに断られたサクラのチョコを貰おうと思っているあたり、情けない二人だった。
あわよくば、気落ちしたサクラを慰めていい雰囲気に持っていこうという考えがありありと分かる。

サスケはサスケで複雑な心境だった。
普段そっけなくしているものの、別にサクラが嫌いなわけではない。
それに自分が貰えるかもしれないものを人に譲るという行為がなんとなく嫌だった。

「おいおい。サクラがチョコを渡すのはサスケじゃなくて俺かもしれないだろ」
「カカシ先生」
唐突に背後から聞こえてきた声に、ナルトが驚いて振り返った。
どこで聞いていたのか、カカシは三人の話に聞き耳を立てていたらしい。
「それはないな」
「どうして分かる。女心と秋の空。サクラの気持ちがいつまでもお前に向いてると思ったら大違いだよ」
にやりと笑うカカシに、サスケはぐっと言葉につまる。
「そうそう。俺にチョコくれる可能性だってないわけじゃないんだってばよ」
「僕だってあきらめたわけじゃないですよ」
勢いづいたナルト達を交え、4人は様々な思いで視線を交差させた。

 

(サクラちゃんのチョコは絶対俺がゲットするってばよ)
(フッ。このメンバーなら余裕だな)
(サクラも大人の魅力にそろそろ気づくはず)
(体術ならサスケくんに負けませんよ)

そしてついに運命の日は訪れたのだった。

 

「・・・私に何か用ですか」
ぞろぞろと後ろをついて歩く4人にサクラは怪訝な顔で訊く。
「ああ。気にしないでよ」
「気にならないはずないと思いますけど」
手を振りながら言うカカシに、サクラは少々怒りの混じった返事をかえす。
「考えすぎだよ。たまたま歩く方向がいっしょだっただけで。なぁ」
「そうそう」
カカシの言葉に他の3人も示し合わせたかのように頷きあう。

「・・・別にいいですけど。私これからちょっと行くところあるんで」
サクラは何を言っても無駄と思ったのか、彼らを気にせず歩き始める。
(行くところ?)
首をかしげながらも、4人も歩き出した。

しかし、彼らは揃って志半ばでサクラの元から去ることになるのをまだ知らなかった。

 

カカシ先生の場合

「おお、カカシ、お前のところの任務も早く終わったんだな」
10版の担任であるアスマが偶然通りかかり、カカシに声をかける。
だが、アスマの視線はカカシから、その隣りにいるサクラへと素早く移動した。
「この子がお前の班のくの一か。話に聞いてたよりずっと可愛いじゃないか」
「お前にはやらんぞ」
カカシがアスマとサクラの間に体を割り込ませて即座に言う。
「別にお前のものってわけじゃないんだろ」
「ハハハハハ」
「ハハハハハ」
上忍二人の笑い声が不気味に響く。

「カカシ先生、アスマ先生と仲良いんだね。上忍仲間だからかな」
「・・・・」
サクラがそばにいるサスケに明るい笑顔を向ける。
だが、サスケは無言の返事をかえすのみだ。
(どうすれば仲が良く見えるっていうんだ)
サスケには顔は笑っていても、二人が険悪な雰囲気なのだとはっきり分かる。
いや、サクラ以外の全員が同じ思いだろう。

「行くぞ」
どっちにしろこの場に長居は無用と思ったサスケはサクラに声をかけた。
「うん」
サクラ達は素直にサスケの後に続く。
しかし、いまだ睨み合いをしている間抜けな上忍二人はサクラがその場から去っていったことに気づかなかった。

カカシ先生、フェードアウト。

 

サスケの場合

「サスケくーーーーん」
「うわ」
サスケの背後に忍び寄ったいのがサスケに体当たりするように飛びつく。
「私のチョコ、受け取ってー」
(シカマル、今よ!)
いのは少し離れた場所にいたシカマルに視線で合図を送る。
「へいへい」
シカマルはいやいやながらも、いのに事前に頼まれていた通りサスケに影真似の術をかける。
惚れた弱みからかシカマルはいのには逆らえない。

「なにやってんだ、お前ら」
サスケは怒鳴ったが、影真似の術でマヌケな格好をさせられているため、全く迫力がない。
「ちょっとじっとしててねー。はい」
いのは鞄から取り出したチョコ、と思われる物体をサスケの口に押し込む。
「・・・・――!!」
声にならない叫びをあげたあと、サスケはガックリと意識を失った。
「あれ、おかしいわね。本に載っていたとおり作ったのに。蜥蜴のしっぽと蝙蝠の羽が古かったのかしら」
いのの言葉に、シカマルとサクラ達は背筋を寒くさせた。
(サスケ、生きているのか)

「い、行こうか」
ナルトの言葉にサクラとリーは静かに頷いた。

サスケ、フェードアウト。

 

ナルトの場合

「あ、ナルト、ちょっとあそこ見てみなさいよ」
「え、なに」
首を巡らせると、ヒナタが待ち伏せするかのように木の上から彼らを見下ろしているのが見えた。
「ほら、ヒナタ、せっかく買ったんだから」
サクラの言葉に後押しされ、ヒナタが枝から舞い降りる。
そして、ナルトの前まで来て立ち止まった。
「な、ナルトくん、これ」
ヒナタはピンク色の紙袋をナルトに手渡す。
ナルトは呆然とした顔でそれを眺めた。
「えーと。これもしかして」
「うん。チョコ」
生まれて初めてバレンタインにチョコを貰ってナルトは感激のあまり危うく倒れそうになった。
頬を染めて見詰め合うナルトとヒナタはすっかり二人の世界を作っている。

「行きましょうか」
リーとサクラは、ナルト達に気づかれないようにそっとその場を退散した。

ナルト、フェードアウト。

 

リーくんの場合

「リー、こんなところでなに油売ってるのよ」
「テンテン」
ずっと捜していたらしく、軽く息を弾ませながら走りよってきたテンテンは、リーの腕を強く引っ張る。
「今日はガイ先生が新しい術を教えてくれるって言ったでしょ。もうネジも集合してるわよ」
「で、でも、今日はちょっと用事が」
「駄目駄目。ガイ先生が絶対に今日やるって言ってたわ」
ガイの名前が出てきたことで、リーは多少怯んだようだ。
「でも」
「来なかったらもうガイ先生、リーのこと見捨てるかもしれないわよ」
泣きそうな顔のリーはそのままテンテンに引きずられるようにして去っていった。
「サクラさーん。また会いに行きますー」
悲しげな声を出すリーにサクラは手を振った。
「またね」
そうした二人のやりとりをテンテンが険しい表情で見ていたことは言うまでもない。

リーくん、フェードアウト。

 

そしてサクラは一人になった。

最終的にサクラが向かった先はアカデミーの職員室。
「イルカ先生―v」
「サクラ」
他の教師が帰った後、一人テストの採点をしていたイルカは扉を開けて入ってきたサクラに手を上げて応える。
「エヘヘ。持ってきたよ」
小走りでイルカの席にやって来たサクラは、可愛らしくラッピングされた小箱を取り出す。
それはナルトがたった一つサクラが買ったと言っていたチョコの包みだった。
「毎年、悪いなぁ」
「なに言ってるのよ。イルカ先生には私以外にチョコくれる人なんていないでしょ」

照れ笑いを浮かべるイルカと後ろ手を組んで微笑むサクラ。
はたから見ると、まるで恋人同士のように良い雰囲気だ。
「これ、もうちょっとで終わるから待ってろ。一緒にラーメン食べて帰ろうな」
「もー、イルカ先生ったら。たまにはラーメンじゃないもの食べに行こうよ」
サクラはイルカの背中に抱きついて甘えた声を出す。

 

職員室の扉の隙間から紅が冷ややかな眼差しを向けていることにサクラは全く気づいていなかった。


あとがき??
た、楽しい。今までにないくらいに筆が走る走る。
よっぽど楽しかったのかリク貰ったその日に書き終えたよ。(注:私は遅筆です)
登場人物が多いと、自然、長い文になってしまうなぁ。
よく見ると凄いカップリングの量だ。
カカサク、サスサク、ナルサク、リーサク、アスサク、いのサス、シカいの、ナルヒナ、テンリー、イルサク、紅イル。(汗)

サクラがもてもて、ちがう、サクラが皆に愛されてて幸せな話というリクエストを見たとき、何故か真っ先にオチはイルカ先生、と決めてました。
なんだろう。密かに好きだったのかしら。イルサク。
でもイル紅も好きなのさ。
今回はごめんなさい、紅先生。
ついイレギュラーのアスマ先生まで登場させちゃったです。
7班の誰かがサクラ持って行っちゃったら後々角が立つかなぁと思いまして。
カカシ先生には女を絡ませなかったあたり、カカサク人間。(笑)
すでに終了したバレンタインネタで申し訳ない。
あ、タイトル。とんびはイルカ先生です。油揚げがサクラちゃん。(^▽^)

全く余談だけど、あの後カカシ先生は「あんたがしっかり捕まえておかないからいけないのよー!!」と紅先生に殴られてる気がする。(キャラ変わってまんがな)
どうしよう。別の店とかいってイルカ先生がサクラをいかがわしい店に連れて行ったら。オロオロ。(無駄な心配)

ちょっと思ったけど、“サクラが皆に愛されてて幸せな話”の“幸せ”ってのは誰の事だろう。サクラ?読者?私??(笑)

888&掲示板222HIT、叶様、有難うございました。


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