marriage V


「サクラ、大丈夫か」

耳元で聴こえたその声に、サクラは目を覚ます。
風に背を押され、サクラはそのまま手摺りを越えて屋上から転落してしまった。
途中意識を失ったサクラは、いまだぼんやりとした瞳で首をめぐらす。
手には落下の原因となった風船の糸をしっかりと握り締めている。
そしてすぐ隣りには、心配そうな眼差しを向けるカカシの顔。
温かいと思ったらカカシ先生に抱えられていたのか、と思った瞬間、サクラは我に返った。

「放してよー!!カカシ先生の馬鹿―――!!!」
カカシの腕の中で暴れるサクラは少しでも自分の身をカカシから離そうと躍起になる。
いつもならサクラの力などではびくともしなカカシが、この時はそのままふらりと膝を突いた。
「え!?」
もちろんサクラから手は放さなかったが、カカシの顔は全く血の気が無い。
「せ、先生?」
さすがに心配になったサクラが顔を覗き込むと、カカシは力のない笑みを浮かべた。
「・・・・チャクラ使いすぎちゃった」
言葉と同時にカカシは倒れこみ、サクラは地に足をつけた。

慌てたサクラが窺うと、カカシの足は片一方が普通でない曲がり方をしている。
一目で骨折していると分かった。
見上げると、尋常ではない高さの百貨店の建物。
サクラは自分がカカシによって命が救われたのだということをやっと理解した。

あの時、落ちていくサクラを運良く捕まえたカカシだったが、地面はもうすぐ間近まで迫っていた。
サクラを強く抱きしめると、そのまま素早く印を組む。
いくらなんでも空中を浮遊する術は存在しない。
それは落下する速度を緩める術の印だった。
すでに地表に近かったこともあり、落下の衝撃を幾分和らげる効果しかなかったが、使わないよりは全然ましだった。
当然、二人分の体重の負担はダイレクトにカカシの足に伝わり、今、カカシは足の骨を折って地べたに転がっているという状況になったのだ。

 

「カカシ先生の馬鹿!どうして私のあとを追ったりしたのよ。先生まで死んでたかもしれないでしょ!!」
事態に気付き、カカシの側で座り込んだサクラは泣きながらカカシを批難する。
仰向きになったカカシは、怪我の痛みなど感じさせない笑顔をサクラに向けた。
「絶対助ける自信はあったけど、サクラと一緒なら死んでもいいかと思って」

嘘偽りのない、あけすけな言葉。
サクラは呆気に取られると、再び大粒の涙を流した。
「大馬鹿―――!!!」
サクラはカカシの身体に突っ伏すと、大声をあげて泣いた。
そんなに馬鹿馬鹿言わなくてもいいじゃないかと、カカシはちょっと心外な気持ちでサクラを見詰める。

暫くして、声の音量を下げたサクラが目を泣き腫らしながらカカシに問い掛ける。
「カカシ先生、紅先生が好きなの」
「俺が好きなのはサクラだけだよ」
カカシは苦笑しながら答える。
サクラにはカカシが嘘を言っているように見えない。
だが、サクラはイルカと共に見たのだ。

「でも、カカシ先生、紅先生と一緒に指輪買ってたじゃない」
辛い光景を思い出し、サクラの声がくぐもったものになる。
「やっぱり誤解してたかー」
カカシはゆっくりと身を起こし、サクラの頭をくしゃくしゃとなでる。
そして懐を探り、ラッピングされた包みを取り出す。
「ま、こうなったらしょうがないか」
包みをサクラの前に差し出したカカシは、明るい笑みを浮かべて言った。

「一週間早くなっちゃったけど、誕生日おめでとう」
目を見開いたサクラは、包みをカカシが交互に眺める。
驚きが大きすぎて声が出ない。
「男一人で装飾品売り場に行くのは恥ずかしかったから、無理言って紅についてきてもらったんだ。当日に渡してサクラを驚かせようと思ったんだけど」
心なしかカカシの頬が赤くなっている。
「受け取ってくれる?」

サクラはまだ呆然とした表情で動きを止めている。
カカシは困ったようにサクラに呼びかけた。
「サクラ」
「・・・・それ、どういう意味」
サクラはカカシの瞳を見詰めて呟いた。
イルカはカカシ達が婚約指輪を買いに来たのだと言っていた。
だけれど、この指輪は紅ではなく、サクラのためのものだとカカシは言う。
サクラの頭の中は軽いパニック状態だ。

戸惑いぎみの視線を向けるサクラに、照れくさそうに頭をかきながらカカシは想いを告げる。
「サクラが16歳になったら結婚しようって言ってるの」
サクラは目と口を大きく開く。
嬉しくないと言ったら嘘だ。
だけれど、胸にあるわだかまりが素直にサクラを喜ばせてはくれない。
「でも、私全然カカシ先生につりあわないよ」
俯いたサクラは、小さな声で続ける。
「紅先生なら同じ上忍同士だし、カカシ先生とお似合いだと思う。私はいつ中忍になれるかも分からないし・・・」
瞳を潤ませるサクラに、カカシは急に真顔になった。
怒りとも思える表情でサクラを見据える。

「つりあうってどういうこと?」
強い声音に、サクラは怯えたような顔で押し黙る。
「今日、サクラ達が俺達のあとをつけて来てるの、知ってたんだ。サクラが出てきてくれたら紅に彼女だって紹介しようと思ってたのに、しそこねちゃった」
「だって・・・」
サクラに反論する間も与えず、カカシはきっぱりと言い切る。
「周りがどう思うかより、二人の気持ちが通じ合っているかどうかが大事なんじゃないの。違う?」
サクラは唇を噛み締めると、堪えきれずに涙をこぼした。

「カカシ先生、ごめんなさい」

 

「あら、見せ付けてくれるわね。人目も気にせず」
「・・・そうですね」
紅の言葉に、イルカは赤面して頷いた。
屋上からサクラ達の元へと直行した紅とイルカは、一部始終を目撃していた。
当然、紅達以外にも、二人の周りには人だかりが出来ている。
しかし、カカシとサクラには周囲の人々が全く目に入っていないようで、すっかり二人の世界を作っていた。

「カカシ先生とは本当に何でもなかったんですね」
紅の言葉を信じきれずにいたイルカは安堵の笑顔を見せた。
そして、紅に向き直ると、イルカは威を決して告白した。
「実は前から紅先生のことが好きだったんです!」

「知ってます」とは言えずに、紅は一応驚いた表情を作る。
知ってはいても、実際に相手の口から聞きたいというのが女心。
わざわざカカシを当て馬として利用したかいがあったというものだ。
だが、「好き」の後は、「お付き合い」の言葉が出ると思って期待していた紅の予想は大きく外れることになる。

「私も好きですよ」
紅が答えると、イルカは緊張気味の顔を一気に綻ばせた。
そして。
「俺が上忍になれたら、結婚してください!!」
今度こそ紅は心から驚きの表情を見せた。

「好き」の次が「結婚」。
なんて短絡的なのだろうか。
でも、そういうところがまた擦れていないイルカの可愛いところだ。

噴き出したい気持ちを抑えて、紅は微笑を浮かべた。
「いいですけど、私がお婆さんになる前に上忍になってくださいね」
紅の返答に喜んだイルカは、奥手の彼にしては珍しく、その場で紅を抱きしめた。
二人の隣りにいた親子連れが目を丸くして彼らを見ている。
人目を気にしていないことでは、カカシ達のことを言えない二人だった。


あとがき??
なっが!!長すぎや。(全部とおして)
紅イルをめざしてイル紅になって、カカ紅と見せかけてカカサクな話でした。
イル紅書けたから満足だわ。
当分ダブルカップリングの話は書かないっす。
最初はもっとラブラブだったんですけどね。人目もはばからずチューしてたり。
でも、耐えられないのでやめた。(私が)
十分ラブラブという感じもしますが・・・。

アップを長い間控えていたのは、単に文章のまとまりが悪くて納得いかなかったからです。
でも手直ししたおかげで少しマシになった。(これで精一杯(汗))


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