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その日、サクラはある人物をつけていた。
前を歩いているのは、どう見ても恋人同士、そしてお似合いの一組のカップル。
女の方はちょっと人目を惹く美女。
先ほどから何人もの男性が振り返って彼女を見ている。
その度にサクラは歯がみしながら彼らを睨んだ。

私という可愛い彼女がいながら、白昼堂々紅先生と腕組んで歩くなんて、いい度胸してるじゃないの。
なによ、カカシ先生ったらでれでれしちゃって。

サクラは握りこぶしを作りながらも、飛び出していきたい気持ちを押さえるのに一苦労だった。
そして、こんなことならすぐに声をかければ良かったと後悔していた。
だが最初に彼らを見つけたとき、とっさに足が動かなかったのだ。
並んで立つ姿があまりに自然だったから。
かといって見過ごすこともできずに、サクラはこうして二人のあとをついてきてしまった。

サクラがイライラする気持ちで前方の二人を見詰めていると、同じようにカカシ達のあとをつける人物がいるのに気付いた。
向こうの方はサクラほど気持ちに余裕がないのか、サクラの存在に全く気付いていない。
サクラはカカシ達を見失わないように注意しながらも、その人物をしげしげと眺めた。
この暑いのにトレンチコートを着て黒いサングラスと帽子、口元をマスクで覆って人相を隠している。
そのような人間が電信柱の影でこそこそしていれば、よけいに目立つ。
サクラはあきれ果てた様子でため息をつくと、その人にスタスタと近づいた。

「イルカ先生、それでもアカデミーの先生なんですか」
サクラが声をかけると、その人はギョッとした顔で振り向く。
「サクラ!?」
「それ、取ったほうがいいですよ。絶対」
サクラが帽子やマスクを指差して言う。
彼はしぶしぶという風に下手な変装をといた。
「なんでばれたんだ?」
不思議そうな顔をするイルカに、サクラは再び大きなため息をつく。
「ナルトとイルカ先生ってよく似てますよね」
マヌケなところが、と続く言葉はさすがに口に出せず、サクラは口をつぐむ。
イルカが紅を好きだという噂は、アカデミーにある池の鯉でも知っているほど周知のことだった。

何はともあれ、尾行者は二人に増えた。
隠れているつもりだろうか、商店の飾り棚のあるガラスに映った追跡者の影に紅は微笑する。
「笑ったら悪いだろ」
「だって、可笑しいじゃないの」
紅はさも楽しげに笑って言った。
カカシは後ろの二人を気にしながら紅に訊ねる。
「大体なんでイルカ先生がお前をつけてるわけ」
「私が言ったから」

 

先週、任務報告に向かった帰り道、紅の前にいかにも待ち伏せしていました、という風のイルカが緊張ぎみの面持ちで現れた。
「こ、こんにちは。こんなところで会うなんて、奇遇ですね」
「・・・そうですね」
苦笑しながらも、紅は真っ赤な顔をしているイルカを見詰める。
当り障りのない会話を少々繰り返したあと、イルカはついに思い切って本題に入った。
「今度の休みに二人でどこかに出掛けませんか」
ありったけの勇気を振り絞って紅を誘ったわけだが、残念なことに紅から色よい返事はかえってこなかった。
「すみません。その日はちょっと用事があるので」
肩を落としたイルカに紅はニッコリ笑って続けた。
「カカシとデートなんです」

 

「・・・紅先生がそう言ったの」
「そうだよ」
サクラの声のトーンが落ちていることに気付かず、イルカはあっさりと頷いた。
「あの二人が付き合ってるなんて全然知らなかったよ。ところで、サクラはなんで二人をつけてるんだ?」
「ただの好奇心よ」
青ざめた顔をしているサクラを見て、イルカは心配そうに声をかける。
「お前顔色悪いぞ。帰ったほうがいいんじゃないか」
「平気」
こうなったら成り行きを見届けるまで帰るものかとサクラは決心する。
まだカカシの口から決定的な言葉を聞いたわけではない。
それまでは先生のことを信じなければと思いつつ、サクラは自分が不安定な足場によろめきながら立っているような錯覚に陥っていた。

 

いろいろな店を冷やかしながら歩いていたカカシと紅が最終的にたどり着いたのは、とある有名百貨店。
最初からその場所に行くのが目的だったのか、店内に入った二人は一直線にアクセサリー売り場に向かい、店員と長々と話し込んでいる。
やがて何か購入したのか、店員がニコニコとラッピングした包みをカカシに渡しているのが見えた。
それを遠めで見ながら、サクラは何故か胸騒ぎを感じる。
店員との会話のあと、カカシが本当に嬉しそうに笑っていたから。

「あのな、サクラ。聞いてきたぞ」
蒼白のサクラに代わり、店員に話を聞いてきたイルカは言いにくそうに口篭もる。
鈍いイルカもサクラがカカシ達のあとをつけていた意味に、さすがに気付き始めたのだろう。
「・・・なんだって」
ひたと見据えるサクラの視線に、イルカは素直に聞いたままの言葉を口にした。
「二人で婚約指輪を買いに来たんだって」
予想通りの答えに、サクラは声をつまらせる。
足元をふらつかせたサクラはイルカにつかまって何とか立っている状況だ。

「サクラ、おい、大丈夫か?」
耳鳴りとともに聴こえてきたイルカの声を、サクラはひどく耳障りだと感じた。


あとがき??
3月あたりに書き始めた話。6月には完成していたんですけど、諸事情からアップをひかえてました。
しかし、ここ最近更新できるブツがなかったので、日の目を見ました。
内容的には・・・どう続くのかあらかた分かっちゃいますよね。(笑)
書いてるうちに、カカ紅になって慌てた作品。


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