愛されちゃってサクラ


「サクラちゃん、来週の日曜、暇?」

カカシの「任務終了」の言葉と同時に、ナルトは待ってましたとばかりにサクラに声をかける。
すでに自宅への道を歩き始めていたサクラは怪訝な顔で振り返った。
「何でよ」
「あのさ、これもらったんだってばよ」
ナルトはカラープリントされたチラシをサクラに手渡した。
サクラはまじまじとチラシに目を通す。

そこには、目立つ赤字で『移動遊園地が木ノ葉の里にやってくる!』と書かれていた。
移動遊園地というのは、その名のとおり、年に一度里にやってくる娯楽施設だ。
観覧車やメリーゴーラウンド、ジェットコースター等が、街の広場に簡易的に建設される。
まさに期間限定の遊園地。
里でこの移動遊園地が来るのを心待ちにしている子供は数え切れないことだろう。

「で、これが何なのよ」
チラシを片手に言うサクラに、ナルトはしどもどと言葉を続ける。
「あの、だから、その、これにサクラちゃんと一緒に行きたいなぁ、なんて思ったんだけど・・・」
「行ってやってもいいぞ」
唐突に割って入った声に、ナルトが「エ!?」っと首をめぐらせる。
いつもなら、任務終了と同時に姿を消すサスケが、ナルトの背後で腕組みをして立っていた。
その態度がナルトの目にはとてつもなく不遜に映る。

「だ、誰がお前なんかを誘っ」
「いやぁ、悪いなぁ。先生も一緒に行っていいの?」
「ああ!?」
いつの間にか、任務報告に向かったはずのカカシまで会話に参加している。
サクラの肩に馴れ馴れしく手を置いているカカシをナルトは視線で牽制するが、カカシの方はどこ吹く風といった様子だ。
余裕の笑顔でナルトを見下ろしている。
暫らく首を傾げて思案していたサクラは、掌を合わせてにっこりと笑った。

「じゃあ、皆で行きましょ」

 

 

当日は、日の光が眩しいくらいの快晴。
キャップを目深にかぶったナルトは待ち合わせ場所で、まだぶつぶつと不平を呟いていた。

「俺はサクラちゃんと二人きりで来ようと思ってたのに、どうしてこんなことに・・・」
「ナルトーー」
その弾んだ声にナルトは慌てて振り返る。
案の定、手を振りながら歩いてくるのはナルトの意中の少女、サクラだ。
綻びかけたナルトの表情は、サクラの傍らを歩く人物を視界に入れたことで凍りつく。

「えへへ。来る途中に会ったから、誘っちゃったー」
「久しぶりだな、ナルト!」
「・・・ハハ」
ナルトは引きつった笑みを浮かべて彼の笑顔に応えた。
平常時ならともかく、これ以上サクラと自分の間に入る人物を増やしたくないと考えるナルトにとって、全く招かざる客だった。

 

待ち合わせ時間ちょうどにサスケが現れ、担任のカカシが到着するのを待って彼らは移動を始めた。
出店の立ち並ぶ中道を、下忍達3人、その後ろをカカシ、そしてサクラの誘いに応じたイルカが並んで歩いている。

「中忍の仕事って結構暇なんですね。こんなところに来る時間があったら、もっと修行して早く上忍になった方がいいんじゃないですか」
「ええ、自分でもそう思いますが、サクラがどうしても来てくれってせがむもので」
カカシの刺のある言葉にやんわり返事を返すイルカだが、なにげに「サクラがどうしても」の部分が強調されている。
一瞬の沈黙のあと、カカシとイルカは互いに肩を叩いて笑いあった。
心中では、全く別の思いが渦巻いていたが。

「カカシ先生とイルカ先生、楽しそうに笑ってるね。何話してるんだろ」
「さあな」
ちらりと後ろを見て微笑むサクラに、サスケがそっけなく答える。
彼らには雑踏にかき消され、カカシ達の言葉は聞き取ることができない。
だがサスケには聞かずとも二人の会話の内容が分かるような気がした。
顔は笑顔だったが、カカシもイルカも目が全く笑っていなかった。

 

その後、彼らはいくつかのアトラクションに4回ずつ乗った。
この4という数字をサクラは不思議に思ったが、単純な計算だった。
二人並んで乗る物が殆どであったために、それぞれがサクラの隣りに座りたがったのだ。
園内には様々なアトラクションが用意されていたが、そのような無駄なことをしているおかげで体験できる物の数は極端に減る。
日も暮れ始め、そろそろ閉園時間という時刻。
アトラクションを楽しむにしても、あと一つが限界というぎりぎりの時間帯だ。

「次、あれに乗りましょうよ」

笑顔のサクラが一つのアトラクションを指差した。
園内の一番目立つ場所に高々とそびえる観覧車。
その場にいたサクラ以外の面々は、観覧車を見上げながら思った。

ついにこのときが来たか、と。

急ごしらえで建てられただけあって、観覧車の大きさはたいしたことはない。
日ごろ忍の任務をこなしている彼らにしてみれば、怖がるような高さではないだろう。
しかし、問題はそのようなことではなかった。
小さなゴンドラは二人の人間が向かい合わせの乗るのが精一杯のスペース。
つまり、ゴンドラが一周するまでの短い時間ながら、狭い空間でサクラと二人きり、という夢のようなシチュエーションなのだ。
刹那、様々な思惑をはらんだ視線が交差する。

動きを止めて視線を彷徨わせる彼らに、サクラは首をかしげて言った。
「皆、乗りたくないの?なら、私一人で行くけど」
「「「「ちょっと待った!!!」」」」
見事にはもった4人の声。
サクラは驚いて一歩後退りする。
「サクラ、俺達話し合わなければならない差し迫った問題ができたから、お前はそこで待ってろ。なっ!」
カカシは掌をかざして言うと、他の3人を連れてその場を離れる。
サクラはただぽかんとした顔で彼らの後ろ姿を見送った。

 

「大体、俺が最初にサクラちゃんを誘ったんだから、俺に正当な権利があるはずだってばよ」
ナルトの必死の主張だったが、そう簡単に聞き遂げられるはずはない。
カカシはナルトの頭を軽く小突いた。
「そんなこと、関係ないだろ。問題はサクラが誰と観覧車に乗りたいと思っているかだ。あのとき、サクラは俺の方を見て観覧車を指差したぞ」
「それこそ関係ないことだ。サクラが観覧車に乗りたいと言ったときに、たまたま、お前が真横にいただけの話だろう」
「そうですよ。大体、あなたとサクラが観覧車に二人きりだなんて、考えるだけで怖いです」
サスケの意見にイルカも賛同し、ナルトもしきりに顔を縦に動かしている。
「・・・何よ、皆して俺のことそういう目で見てたわけ。ショックだなー」
カカシがわざとらしく傷ついた、というような表情をして掌で面を覆う。
そんなカカシを無視して、ナルトは決定的な案を提示した。

「公平に、じゃんけんにするってばよ!」

厳正なる勝負の結果、見事勝利したのは、言い出しの元のナルトだった。
ナルトが飛び上がって喜んだのは言うまでもない。
負けた者も悔しげではあるが、ナルトが相手なら何か間違いがあるはずもないという安堵の表情が見え隠れしている。
「サクラちゃん!!」
ナルトが満面の笑みで振り返る。
しかし、サクラが立っていたはずの場所に彼女の姿はなかった。
「あ、あれ?」
慌てて目を凝らすが、陰も形も無い。
代わってその場にいたのは、見慣れた二人組み。
「よぅ」
シカマルとチョウジが揃ってナルト達に向かって手を上げていた。

「何でお前らがいるんだってばよ」
駆け寄ったナルトは、訝しげに訊く。
「いのがどうしても来たいって言うもんだからな」
シカマルが頭をかきながら面倒くさそうに答えた。
だが、その言葉とは裏腹に、いのの姿はどこにも見えない。
ナルトは嫌な予感がしつつも、質問を続けた。

「で、いのは?」
「サクラと観覧車に乗りに行った。サクラの奴、お前らがいつまでたっても戻ってこないって怒ってたぞ」
瞬間、がっくりと肩を落としたナルトと、含み笑いをもらす後ろの三人。
シカマルとチョウジは訳が分からないというように顔を見合わせた。

 

結局、観覧車から戻ってきた後も、園内にいる間中いのがサクラにべったりと引っ付いて離れず、ナルトはサクラと二人で話せる時間というものが全く持てずに一日が終了した。
閉園の音楽が場内に流れ、来場者がぞろぞろと出口へと向かって歩いている。
7班+αも、それぞれ別れの挨拶を交わし、帰路につく。

 

「・・・二人で来る予定だったのになぁ」
ナルトは未練がましく呟いた。
うなだれたナルトは小さくため息をつく。
移動遊園地が再びやってくるのは、来年。
手元にあった移動遊園地のチラシを、ナルトはくしゃりと丸めてポケットに詰め込んだ。
そのとき。

「ナルト!」

背後からかけられた大きな声。
それは、紛れもなくサクラの声だ。
はじかれるように振り向いたナルト目掛けて、何かが放り投げられる。
思わず掴んだナルトは、手にした小さな包みと、数メートル先に立つサクラを交互に見た。

「それ、あげる」
「へ?」
間の抜けた声を出すナルトに、サクラがにっこりと笑いかける。
混乱するナルトはあたふたとしながら訊ねた。
「あ、開けていい?」
頷くサクラを確認したあと、ナルトはせわしなく紙の包みを開く。
中からはラーメンに添える具である、“ナルト”の形をアレンジした可愛らしいキーホルダーが出てきた。
目を丸くしているナルトに、サクラはふふっと笑う。

「今日、出店で見つけたのよ。それ見たらね、ナルトの顔が頭に浮かんで、つい買っちゃった」
「・・・サクラちゃん」
「今日は誘ってくれて有難う。すごく楽しかった」

微笑みながら言うサクラに、ナルトの胸が熱くなる。
気の回らない自分に、いつの間にやら土産を購入してくれていたサクラの気持ちがとても嬉しかった。
その場の勢いで、ナルトは思い切って声を出す。

「ま、また一緒に遊びに行こう!」

一瞬の間。
夕日に照らされ、サクラの髪がオレンジ色に染まっている。
その顔は嫌そうな表情ではないように思える。
緊張するナルトには長い時間が経過したように思えたが、サクラが口をつぐんでいたのはほんの数秒のこと。

「うん」
こぼれるような笑顔で頷くサクラに、ナルトも心底嬉しげな笑み返した。


あとがき??
ORIGNさんのリクエストは、
・ サクラモテモテ
・ ひとり訳が分かってないサクラとくるくるする周囲という構図
だったのですが、いかがでしょうか。(^▽^;)

モテモテサクラの、もてる範囲が分からずちょっと迷いました。
一応、7班内+イルカ先生+いの、ということで。(笑)
いつの間にかナルサクになってしまって。(汗汗)
どうしてナルサクになったのか、自分でもよく分かりません。はて??

ふざけたタイトルですみません。(^_^;)
ジョナサン・デミ監督の映画『愛されちゃってマフィア』のもじり。(未見)
いつかサクラモテモテ話を書くときに使いたいと思っていたんです。
インパクトありすぎの邦題。原題は何だったんだろう。

移動遊園地は、オランダにいたときに一度行く機会があったのですが、別件で行けず、今思えば惜しいことをしました。
ジェットコースターが気になる。
ヨーロッパではよく見かけるものなんでしょうかね。
中学生のデートコース=グループデートで遊園地、の発想はやはり古いか。(笑)
サクラモテモテ、滅多に書かない題材なので、とても楽しかったです。

ORIGN様、18000HIT、有難うございました。


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