サンタにプレゼント 2


「カカシ先生、どう?」
「んー、もうちょっと」

後ろから小声でせかすサクラに、カカシも同じく小声で答える。
二人は最初の目的地である、サスケの家の前まで来ていた。
そして、当然のように扉の鍵は閉まっている。
サクラはポストに入れておけばいいくらいにしか考えていなかったのだが、カカシはきちんと枕もとにプレゼントを置くべきだと主張した。
理由は単純に、サスケのすまし顔に落書きでもしてやれ、という悪戯心。
サクラにしても、サスケが普段どのような部屋で生活しているのか、興味はある。
思惑は違えど、双方の合意により、こうして空き巣まがいの行為することとなった。

扉に顔を密着させて作業をしていたカカシの耳に、ガチャリという音が届く。

カカシはキーピックを片手にガッツポーズをした。
「開いたぞ!!」
「さすが先生!!!」
思わず出た声に、二人は互いにシーと口元に指をあてる。
気分はすっかり泥棒だ。
「じゃあ、潜入するからな」
カカシの言葉に、サクラはこくりと頷く。

カカシの後にサクラが続く形となり、カカシはゆっくりと扉を開いていった。
そして、一歩足を踏み入れた瞬間、何かがカカシの頭に落下する。
「か、カカシ先生!」
意表をつかれ、サクラは叫び声をあげた。
だが、心配するまでもなく、その物体の正体はすぐに明かされる。

電気のついた玄関先に、サスケが立っていた。
呆れ帰った顔で。
「・・・上忍のくせに、そんなベタなトラップに二度もひっかかるなよ」
明りの下、黒板消しを頭にのせ、粉で白くなったカカシがいた。

 

「で、何の用だ?」

腕組をして詰問するサスケを、カカシとサクラはじっと見つめた。
一度顔を見合わせると、二人は再び顔の向きをサスケに戻し、長い間彼を見詰め続ける。
「な、何だ」
ぶしつけな視線に居心地の悪さを感じたサスケは、身じろぎしながら声を出す。
「・・・・これ」
サクラは一言発すると、プレゼントである包みをサスケに押し付けた。
ギクシャクとした動作は、どこか機械的だ。
サスケが包みを受け取ったのを確認すると、サクラはそのまま猛ダッシュでカカシと共にその場から駆け去る。
その様子を不信に思ったサスケが声をかける暇もない。

「何だったんだ?」

サンタの真似事をしていたのは、その扮装から理解できる。
だが、自分を見る二人の顔は尋常じゃなかった。
まるで。
笑いをこらえているような。
サスケは自分の考えに、不愉快そうに眉をよせた。

 

サスケの家を遠くあとにして、大爆笑するカカシとサクラの声は、幸いにサスケには届いていなかった。
むせこんで気持ち悪くなった頃、カカシは目元の涙を拭いながらサクラに話し掛ける。
「み、見たか?」
「見たー、お、おかしいーー!!あの、サスケくんが、あんなパジャマで寝てるなんて」
サクラはいまだに腹を抱えながら言った。

ピンクの花柄模様。
サスケが着ていたのだ。
その柄のパジャマを。
真顔で。
なまじ、お笑い芸人のギャグよりパンチがきいていた。

普段クールなサスケが、あのような柄を好んで着ているなどと、誰が考えるだろうか。
もしかしたら、もっといろいろな柄のパジャマを持っているのかもしれない。
レースのついたものとか。
サクラは自分の想像に再び吹き出した。

「じゃあ、そろそろ次に行くか」
ようやく笑いを微笑に変えたカカシが、サスケの家でつけた粉を払いながら言う。
「うん」
サクラは大きく頷いてカカシを見上げた。

 

 

ナルトの家は、サスケの家に比べると、数段楽に忍び込めた。
サンタに備えてなのか、玄関の扉の鍵が開いていたのだから。
ナルトの枕もとに置かれた靴下の中に、サクラはプレゼントの包みをねじ込む。
手縫いで作ったらしい大きな靴下には『サンタ用!』と、デカデカと書かれている。

「・・・遅れてごめんね」

熟睡しているナルトの頭をなでながら小さく呟く。
剥がれていたナルトの掛け布団を元に戻すと、二人は早々に家をあとにした。

 

 

サクラの家の前まで戻ってくると、時計はすでに朝といっていい時刻を示している。
「先生、ごめんなさい。すっかり突き合わせちゃって」
「いや、全然かまわないよ。楽しかったし」
カカシは言葉のとおりの明るい笑顔でサクラに言った。

サクラは下方を見やりながら声を出す。
「この衣装、ちゃんとクリーニングして返さないと」
「ああ、いいよ。あげる。サクラにクリスマスプレゼント」
サクラは、驚いたようにカカシを見た。

サクラはてっきり貸衣装屋でレンタルしてきたのものだと思っていたのだ。
だが、ブーツから衣装一式にいたるまで、カカシが自腹で買ってきたものだったらしい。
それにしても、衣装はサイズを測ったようにサクラの身体にぴったりだった。
サクラはつい不信げにカカシを見詰めたが、カカシは気にするそらはない。

「・・・有難う」
一応、感謝の言葉を述べるサクラに、カカシは頷きながら手を差し出す。
「何?」
「プレゼント、俺の分は」
声を弾ませるカカシは、期待に満ちた瞳をサクラに向けている。
当然、あるはずだろうという口調。
サクラは半眼でカカシを見据えて言った。

「・・・サンタクロースがプレゼントを配るのは、子供にだけよ」

 

その場にしょんぼりと座り込んでいじけているカカシを横目に、サクラは苦笑する。
少々意地悪だっただろうか。
「カカシ先生―」
笑いを含む声で、サクラはカカシの首元にふわりとマフラーを巻きつける。
真っ赤なマフラーはサクラのお手製だ。

「え!?」
物を確かめるように首に手をやるカカシに、サクラは少しばかり屈んで顔を近づける。
「有難うね」
頬に掠めるようなキス。
呆けたようにサクラを見るカカシに、彼女は柔らかく微笑んだ。

 

 

「ついにうちにもサンタが来たんだってばよー!!」
「・・・良かったな」

7班の集合場所にて、ナルトはサンタのプレゼントであるオレンジ色のマフラーを首にしっかり巻きつけて意気揚揚と言った。
対するサスケの首にも、見慣れない藍色のマフラーが巻かれている。
「あれ、お前それもしかして、サンタに?」
「・・・マヌケなサンタの二人組に渡された」
そのサスケの返答に、傍らで聞き耳を立てていたカカシとサクラはぎくりとする。

「え、お前、サンタの顔見たのかよ!!くー、いいなぁ。俺も起きて待ってようと思ったのに、つい寝ちゃったんだってばよ」
ナルトは心底悔しそうに地団駄を踏む。
暫らく歯噛みしていたナルトは、思いついたようにサスケに問い掛けた。

「サンタって、二人組だったのか。どんな様子だった?」

サスケはちらっとカカシ達の方へ視線を走らせる。
カカシとサクラは冷や汗をかきながら、硬直するのみだ。
ここで、サスケは馬鹿正直な回答をすれば、サクラの気持ちも、昨夜の苦労も水の泡だ。
だが、サスケの性格を考えると、協力しろと言っても、無理なように思える。

 

カカシとサクラがはらはらと成り行きを見守る中、サスケはさらりと答えた。

「・・・別に。普通だった」

カカシとサクラは思わず目をむいてサスケを見る。
サスケはそっぽを向いているので、表情は分からない。
「そっか、普通かぁ」
ナルトは満足そうに頷いて言った。
彼の頭には、赤と白の衣装を身に纏った白い髭の老人という、オーソドックスなサンタクロース像が頭に浮かんでいることだろう。

視線を合わせたカカシとサクラは、なんとなしに、嬉しそうに微笑んだ。


あとがき??
ラストのあたりとか、くらもち先生の『千花ちゃんちはふつう』みたいですね。(笑)
サスケくん、パジャマシリーズはこれからも続けていきたいと思っています。(←?)
きっと、ライパクの東堂院のように、趣味の悪い柄のパジャマをいろいろ持っているのでしょう。
何でサスケの家に黒板消しがあるんだとかは、言っては駄目なのだ。
幸せなら、いいのだ。(私が)

しかし、7班の話と言っておきながら、どうしてもカカサクを絡ませるあたり、やっぱり私は(以下略)。
タイトルを見るかぎり、どうやら最初からカカサクでいく気だったらしいですね。知らなかった。
サンタが来るのが24日の夜だったのか、25日の夜だったのか、よく覚えていない。
遠い昔すぎて、忘れたっす。(汗)


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