強く儚い者たち @


雨が、降り続いていた。

厚い雲が立ち込め、昼なお暗いその部屋で7班の面々は丸1日ぶりに顔を合わせた。
この家にやってくるまでの数メートルを歩いただけで濡れ鼠だ。
下忍らの服は絞れるくらいに湿っている。
バケツをひっくり返したかのような雨音に、自然、彼らの声音は大きくなっていた。

 

「お前ら、世話になってる家で迷惑かけてないだろうな」
「・・・カカシ先生、何で俺の方見て言うの?」
「一番心配だから」
頬を緩ませてのカカシの返答に、ナルトはキーと声をあげる。

7班は今、木ノ葉の里を遠く離れた村で立ち往生していた。
里の外での任務を終え、帰途についたとたんに降り始めた大雨。
それは近年まれに見る集中豪雨だった。
無理をすれば帰れないことはなかったが、幸いにも近くに村があることを知ったカカシは、雨をやり過ごすことを選んだ。
訪れる者の少ないその村では宿と呼ばれる施設はなく、7班のメンバーはそれぞれ個別に村の一般家庭で世話になっている。

 

木ノ葉の里には、任務で外に出る際に記入することが義務付けられている外勤簿がある。
そこには大まかに任務内容と帰る日付を書くのだが、今現在、記した日数をゆうにオーバーしている情況だ。
しかも、雨足は強まる一方で、大川の氾濫で近隣の村々には川止めの触が出ている。
ここまで長雨となることが分かっていたら、カカシの判断も変わっていたことだろう。
川の水かさは一層深くなり、帰郷できる見通しは全く立たない。

「この村に寄ったのは間違いだったかもな。無理して山越えをすれば良かったか・・・」

窓の外を見やり、カカシはため息混じりに呟いた。

 

 

情報交換のためにカカシが世話になっている家に集まった彼らだが、この天候では出発は無理だとはっきりしている。
椅子に座って向かい合っているものの、顔には覇気がなく、口数も少ない。
皆のそうした暗い気持ちを吹き飛ばすように、ナルトは騒がしくサクラに話し掛けた。

「ねぇねぇ、サクラちゃん、何で額当てしてないの」
ナルトの問い掛けに、サクラは何故か緊張した面持ちでナルトを見る。
「・・・ちょっと汚れたから外してるのよ」
曖昧な返事。
だが、ナルトはあまり気にせず相づちを打った。
「ふーん。でもおでこの隠れたサクラちゃんって、初めてみるかも」
しげしげと眺めるナルトの視線を避けるように、サクラはさりげなく俯く。

 

サクラは普段額当てをヘアバンドのようにして付けているが、今はそれがなく、前髪が下りていた。
ただそれだけで、がらりと雰囲気が変わる。
いつもの活発なサクラらしくなく、どこか物静かなイメージ。
「そうだなぁ。前髪おろしてるサクラも可愛いけど、目に悪そうだな」
サクラの傍らにいるカカシは笑いながら言うと、彼女の視界の邪魔になる前髪をさらりとかきあげる動作をする。

間髪入れずに。
サクラはカカシのその手をはたいた。

自分でも無意識の行動だったのか、サクラははっと我に返る。
目を丸くするカカシに、サクラは慌てて頭を下げた。
「あ、ご、ごめんなさい」

皆の視線が集中する中、追求を避けるように、サクラはおもむろに椅子から立ち上がった。
「あの、私夕食の用意を手伝う約束したから、もう帰る。じゃあね」
口速に言うと、サクラは駆け足で出入り口の扉へ向かう。
ぱたぱたと廊下を小走りで行くサクラの足音はすぐに雨音にかき消された。

 

「・・・おい」
「見たよ」
サスケの声にカカシは一言返す。
ナルトも急に不安げな顔をしてカカシを見詰めた。

一瞬のことだったが、彼らにははっきりと見えた。
サクラの額の赤黒い痣。
まるで、誰かに殴られたような。
サクラが前髪を下ろしていたのは、おそらくそれを皆に隠すためだったのだろう。

 

「この村に寄ったのは間違いだったかもな・・・」

じめじめと湿気を含んだ空気が肌に纏わりつく感じがする。
その日2度目に呟かれたカカシの言葉は、いやに苦々しい響きを持っていた。


あとがき??
これだけでは、何が何だか分からないような気が・・・。まずい。
あんまり深いこと考えてないです。
なんと言うか、全体的に「サクラがあぁぁーー」って感じの話。(?)たぶん。
たまにこういうのが書きたくなる。
いろいろと痛いです。


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