強く儚い者たち B


雨は降り続いている。
時たま小降りになるものの、一進一退の情況だ。
川止めの触はいまだ解除されていない。

 

熱を出したサクラの見舞いに、ナルトはサスケと連れだってやってきた。

「迷惑かけて、ごめんね・・・」
「そんなこと気にしなくていいよ」
弱々しい声を出すサクラに、ナルトは沈痛な面もちで返事をする。
喋ることも億劫なのか、サクラはすぐに瞼を閉じる。

サクラが寝込んでから、すでに三日が経過していた。
サクラの額に当てられた氷嚢は、氷片の部分を小さくしている。
先ほど変えたばかりだということを思えば、サクラの熱はよほど高いものだ。

ナルトは枕元に置かれた水差しを見ながら問い掛ける。
「水、飲む?」
かすかに首を振るサクラに、ナルトはそのまま押し黙った。
重湯はおろか、水分の補給すら拒むサクラ。
面やつれした顔は、そのまま呼吸が止まっても、おかしくないような。

 

見舞いに来たといっても格別することはなく、沈黙のまま時だけが過ぎていく。
身動き一つしないサクラは起きているのか、眠っているのか。

このままそばにいても、できることはない。
分かっていても、離れがたく。
「何か、して欲しいことはあるか」
反応を返して欲しくて、サスケはサクラに声をかけた。

ゆっくりと開かれた瞳は、不安げな表情のサスケやナルトではなく、ただ天井を見上げている。
やがて、発せられた言葉。

「先生に、これ以上動かないように伝えて」

小さいながらも、はっきりとした口調の声。
「・・・分かってるよ」
サクラの視線の先をたどりながら、サスケは答えた。

ナルトやサスケは頻繁にサクラの様子を見に来るが、担任のカカシは全く姿を見せない。
だが、サクラの口からカカシの所在を訊ねる言葉はついぞ出なかった。

 

 

夜半になり、長らく降り続いていた雨が唐突に止んだ。
久々に静かな夜が訪れ、窓の外では夜行性の鳥や虫の鳴き声が響いている。

時計の針が深夜の2時を指した頃、襖は静かに開かれた。
畳敷きの和室には、中央に布団が一つ敷かれていた。
その中にいるのは、眠るサクラ。
熱がひいたからか氷嚢は枕辺の洗面器に置かれていたが、部屋には病人の臭いが色濃く残っている。
目を閉じるサクラは、死人のように見えた。

忍び足で近づくと、彼はサクラの顔を覗き込む。
白い顔は、呼吸をしているかも定かではない。
彼は屈むと無防備に晒されたその細い首に、手を伸ばす。

触れると、幾分体温は低いものの確かに生きている温かみがあった。
思わず、ほっと息を付きそうになった彼はそのまま吐息を飲み込んだ。

僅かに頭を振ると、手元の首を厳しい目で見詰める。
ほんの少しの力を加えただけで。
簡単に息の根を止められるであろう、サクラの頼りなげな首を。

 

「あんたも人殺しになるつもりなの」

 

ふいに聞こえた第三者の呼びかけに、彼はとっさに手を引く。
振り向くと、腕組みをして彼の行動を傍観するカカシがいる。
サクラのいる部屋に侵入した者の正体は、彼女より2,3年上の少年だ。

手にした松葉杖で、少年は器用に立ち上がった。
「いつからいた」
「ずっと」
睨め付ける少年に、カカシはあっさりと返す。
「君がこの前の廊下で行ったり来たりとしてたときから、ずーっと見てたよ」

言いながら、カカシは面白そうに少年を見やる。
その、どこか人を食ったような笑いに、少年は頭に血を上らせた。
「早くこの家から、村から出ていけ!」
高圧的に言い放ち、少年は荒々しく襖を開けて和室から退散した。
遠ざかっていく杖をつく足音に、カカシは耳を傾ける。

 

静寂が戻ると、カカシはてくてくとサクラの元へと歩み寄った。
いつの間にか目を開け、サクラはカカシを見詰めている。

カカシは枕辺に座り込み、憮然とした面もちで言った。
「あのまま黙って殺されてあげるつもりだったの」
どこか、怒ったような声の問い掛け。

「違う。けど・・・・」
続く言葉は、なかなかサクラの口から出てこない。
カカシから目をそらすと、サクラは小さく呟いた。
「何だか哀しくて」

サクラは掛け布団で顔を覆っている。
だが、その嗚咽は隠しようもない。
小さくため息をつくと、カカシは掛け布団の上からサクラの頭を軽く叩いた。


あとがき??
3だというのに、この分かりづらさは一体・・・・。
ああ、まだるっこしいー!!
次でたぶんはっきりする、かな。思ったよりも長いぞ。あああ。

しかし、続き当分先、かな。


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