強く儚い者たち C


その家に預けられた当初から、大した礼もできないというのに、サクラは下にも置かないもてなしを受けていた。

「困っているときはお互い様さ」
にこやかに言う主人に、サクラはなんて気持ちのいい人なのだろうと感心してしまった。
「遠慮無く沢山食べてね。自分の家と思っていいから」
夫人の方も、気を遣ってサクラにとてもよくしてくれる。
幼い娘は引っ込み思案な様子で、父の背中にかくれているが、はにかんだ笑みが可愛らしい。

これ以上ないくらい幸せ家族だとサクラはしみじみ思った。
和やかな雰囲気で食事が進むなか、サクラは不自然に思ったことがあった。
3人家族というのに、テーブルにはサクラの物を除き、4人分の食事が用意されている。
同じく空席も一つ。
だが、そのことについて家族は誰も口にしようとしない。

「・・・あの、誰か他にご家族の方がいるんですか?」
サクラが、そう訊ねた瞬間。
当の本人が食事の席に現れた。
松葉杖をついた、足の不自由な少年。
場の空気が瞬時に緊張したのをサクラは感じた。

「何で木ノ葉の忍がここで飯を食ってるんだ・・・・」

嫌悪感をあらわにした声音。
サクラは最初、何を言われているのか分からなかった。
呆然とするサクラに、少年は手直にあった木彫りの置物を投げつける。

「人殺し!!」

 

 

「人殺し?」
「そう、言われたんだってさ」
驚くナルトに、カカシが頷く。
「先の戦で、その少年の両親が殺されたんだって。木ノ葉の忍に」
「でも、その戦のときに俺達はまだ生まれてないし、サクラちゃんだって関係ないじゃん」
「そんなこと関係ないみたい。何か、世の中のものを全部憎んでるみたいな目してたよ」

先の大戦での話をされても、世代の違うナルト達には全くピンとこない。
だが、親類縁者を殺されている者からしてみれば、恨みはどうしても消えないのだろう。
そして、運の悪い事に、サクラが身を置く家にそうした人間が居た。

「じゃあ、あのおでこの痣は」
「何か、物を投げられたんだって。ひどいよねぇ。女の子の顔に」
サクラが額当てを外していたのは、額の傷を隠す意味の他に、木ノ葉の印の入ったものを見せて少年を刺激しないようにとの配慮があったのだろう。

「あの夫婦は気を遣ってサクラによくしてくれたけど、そんな奴が同じ家にいたんじゃ精神的にまいっちゃって当然かもね。サクラ、いろいろ考えちゃうタイプだから」
カカシはいったん言葉を切ると、皮肉げに頬を歪める。
「俺なら何言われても平気だけど・・・」
実際人を殺したことのあるカカシは、罵られることには慣れてしまっている。
サクラに申し訳ないという気持ちにすらなっていた。

「サクラちゃんがやったわけじゃないのに・・・」
「彼にとっては、忍ってだけで嫌悪の対象なんだよ」
カカシの言葉に、ナルトはやるせないというように俯いた。
話を聞いていたサスケも、思いつめたような顔をして黙り込んでいる。

 

少年の気持ちも分かる。
赤子の時分に両親を亡くし親戚の家をたらい回しにされ、ようやく親切な夫婦のもとへ引き取られたと思ったら、夫婦にはすぐに実子が誕生してしまった。
どこにいってもやっかいものだと思いこみ、部屋に引きこもる日々。
そこに、飛び込んできたサクラは格好のはけ口だったのだろう。
些細なことを気に病むサクラの性格は、苛めがいがあったはずだ。
同情はするが、だからといって、サクラへの仕打ちを納得できるはずもない。

「でも、もう時間切れだな」
雨は止んですでに何日も経つ。
先ほど様子を見に行ったところ、サクラの体調も十分に整っている。
あとは出発するのみだ。

「明日、この村を出るよ」

カカシは窓の外に目を向け、きっぱりと言った。


あとがき??
次で最期。何だかダラダラと続いてしまいましたね。うーん。悪い癖です。
ああ、分り難いですが、Bでサクラが天井を見ていたのは、そこにカカシ先生がいたからです。
先生、サクラが心配でずっとそこで様子見てたんですね。(ホロリ)


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