強く儚い者たち D
「サクラ、あの少年の部屋の扉、ぶち破ったんだって?」
「・・・耳が早いわね」
膝を抱えて座るサクラは、背後の人物を振り返ることなく答える。月夜の晩。
屋根の上で反省しているサクラに、カカシはにやにや笑いで近づいた。「今までしおらしくしてたのに、派手なことやるねぇ」
「ちゃんと、扉代は弁償したわよ」
「そうじゃなくて、どうしてそんな強硬手段にでたのよ」
カカシの問い掛けに、サクラは僅かに目線を下げる。
乱暴なやり方は、およそサクラらしくない。
サクラ自身、それは十分承知している。「だって、部屋に引きこもって全然出てこないんだもの。明日には出発するわけだし、話を聞いて貰いたかったの」
いったん言葉を切り、サクラは傍らのカカシを見上げた。
「先生、私、間違ってるかな」
首を傾けるカカシに、サクラは話を続ける。
「前の戦のことは何とも言えない。争うには、どちらも言い分があるんだし、あの男の子の両親が何をしたのかも分からないから。でも、あの子の行動は違うと思う」
生い立ちがどうあれ、彼は今、真から彼を思う家族に引き取られている。
サクラには彼らが少年を邪険にしているとは、どうしても思えない。
家族を遠ざけ、家庭内の調和を乱しているのは彼の方だ。
過去を恨むばかりでは、前に進めない。
このまま閉じこもっていても、皆が不幸になるだけだ。「それを、あの少年に言ったの?」
「・・・うん」
サクラはカカシを見上げたまま頷く。
「私、間違ってるのかな」
サクラは再度、疑問形の言葉を繰り返す。
肯定も否定もせず。
カカシはただ一言、口にした。
「サクラはサクラの思うとおりにすればいいよ」
会話を終え、カカシは踵を返して寝床に戻ろうとしたが、サクラは動かなかった。
「風邪ひくぞ」
初夏とはいえ、夜にはまだ冷たい風が吹く。
忠告するカカシの声が聞こえたのか、そうでないのか。
サクラはただ、厳しい顔つきで虚空を見詰めている。
「サクラ」
咎めるような声で呼びかけても、なおサクラは反応しない。諦めたカカシが立ち去ろうとしたときに、サクラは独り言のように呟いた。
「私、忍の仕事に誇りを持ってる。日々鍛錬を怠らないのも、里を守ったり、困ってる人の役に立ちたいからだし、下忍の取るに足らない任務でも、私達は命をかけて真剣に任務をこなしてるつもり。でも、それをあんな風に言われるのは・・・・」
そのまま、サクラは口をつぐんだ。
唇をきつく噛みしめ、沈黙するサクラはそれ以上語るつもりはないらしい。
続く言葉は、カカシが代弁して声に出した。
「辛いねぇ」
黙り込んだまま、サクラは頭上の月へと目を向ける。
大部分が欠けた弓形の月は、どこか寂しげな趣がある。サクラは泣いていなかった。
だけれど。
どうしてかカカシにはその横顔が、泣き顔よりも悲しげに見えた。
翌朝。
快晴の空の下、7班は予定通りに帰路についた。すっかり親しくなった村の人間はあらかた、村の入口付近まで見送りをしてくれた。
だが、気持ちのいい天候に反し、サクラは暗い表情で俯いている。
話によると、やはりあの少年は朝の食事の席に姿を見せなかったらしい。
昨夜のサクラの行動を怒っているのかもしれない。
ナルト達も、何となしに憂鬱な気分になる。カカシが村長他一同に一通り感謝の言葉を伝えると、7班の面々は街道への道を歩き始めた。
「サクラ」
首を回らせたカカシがサクラの頭を軽く小突く。
顔を上げると、カカシはにこにこと明るい笑みを浮かべていた。
「あれ、見てみな」
指を差された方角を、サクラは怪訝な表情で振り返る。随分と歩んでいたようで、すでに小さく見える村民達の姿。
その中に。
人陰に隠れるようにして、あの少年の姿があった。
彼は松葉杖の代わりに、家族の幼い少女の手を握ってこちらを見ている。「・・・足、歩けるようになったんだ」
感嘆の声をもらすサクラに、カカシは目を細める。
少年が人の気を引くためにわざわざ足が不自由なふりをしていたことは、カカシはその不自然な歩き方からすぐに察した。
支えが必要だった人間が、昨日今日で、突然歩けるようになるはずもない。
だが、素直に感動しているサクラには黙っておく。
そうした卑屈な思いは、理解出来ない方がいいに決まっている。
「お前が何か言ったのか?」
サクラに聞こえないように耳打ちするサスケに、カカシはにんまりとする。
「これ以上がたがた言うなら、歩けないふりをしてるその役立たずの足を切り落とすって言った」
「・・・・それは脅しっていうんじゃないか?」
「やだなぁ。穏便に頼んだんだよ」
へらへらと笑うカカシに、サスケは呆れかえる。多少の口添えはあったが、少年が見送りに来たのは自らの意志だ。
彼は自分の足で立つことを決心した。
そのきっかけとなったのは、サクラだ。
すぐには無理かもしれないが、彼の中の忍に対する偏見を拭うことができるかもしれない。
そろそろと歩き出したカカシの袖を引き、サクラは真剣な眼差しで語りかける。
「先生、有難うね。いろいろ」
「何のこと?」
肩をすくめたカカシは明後日の方角を見ながらうそぶく。
頬を緩めたサクラは、前方を見詰め、もう一度だけ感謝の言葉を述べた。そのときのサクラの笑顔は、この村に来て初めての晴れやかなものだった。
あとがき??
雷波少年の企画、「ラストツアー」(アジアを旅して歌を作る)の中で、日本人のカズが現地の中国や韓国の人達にきつい言葉を言われているのを見て、書こうかと思った話。
特にメッセージ性はないつもりですが、何となくやりきれなかったので。
カズに冷たかったあの韓国人のおじいさんが、最後にコンサート会場に歌を聴きに来てくれたのには、ちょっと涙でした。
私達には、もっと心の交流が必要だね。タイトルは言わずと知れた、Cocco。忍者を指してます。
私の忍者イメージ。
カカシ先生が見守ってくれているから、サクラ達下忍も安心して自由に動けるって感じなんですけど。分かりにくい・・・。
しかし、なんとも私らしい生ぬるさを残した話だと思いました。(←感想?)続きを待っていてくださる方がいると発覚しなければ、丸ごと削除していたかもしれません。
というか、完結しなかった。
もう後先考えず続きものを書くのはやめます・・・。(泣)七転八倒。