サスケの憂鬱


任務終了後、カカシから呼び出しの声がかかった。
「私も行く」とごねるサクラに、カカシは「駄目。絶対サスケ一人で来いよ。西の森の一本杉の前だからな」と念を押して言った。
わざわざ一人呼び出すくらいだから、よほど大事な話なのかと緊張する。
やがて現れたその人物はおもむろに口を開くと、とんでもない事を言った。

「俺さ、お前のこと好きなんだけど」
「・・・・・・ハァ??」

あまりに予想外な言葉が第一声だったので、つい間の抜けた返事をかえしてしまった。
その後、俺は猛烈な勢いで後退りし、後ろにあった木の幹にかなり強く体をぶつけた。
枝から羽ばたいたカラスが大きな鳴き声をあげて飛び去っていく。
顔から血の気が引いていくのが自分でも分かった。

「おおおお、お前なに言って」
「おいおい、人の話は最後まで聞きなさいって。お前もナルトも同じように可愛くて好きわけよ。部下としてね」
誤解とわかり胸をなでおろしながらも、動揺ぶりをカカシに見られて気恥ずかしいものを感じた俺は顔を背けながら言った。
「それがどうした」

「でな、7班の皆それぞれ大事なんだけど、その中でも女の子のサクラは別格。そこで折り入って頼みがあるんだけど、今度ある中忍選抜試験にお前達を推薦してやるから、試験中、俺のかわりにサクラを守ってやってくれないか」
「・・・分かった」
お前に言われるまでもないと思いつつも、中忍選抜試験推薦の話が流れると困るので口には出さない。
カカシは俺のいるところまで歩いてくると、いつもサクラやナルトにするように俺の頭をクシャクシャと撫でた。
「よしよし。お前なら了解してくれると思ったよ。ナルトじゃまだ頼りないんでな。サクラに怪我があった場合は・・・分かってるよなぁ」
見上げたカカシの顔は笑ってる。
だけれど、その眼は恐ろしく凄みをきかせたものだった。

 

「サスケくん!」
次の日の任務帰りサクラに呼び止められる。
いつものことだ。
振り返ると、そこには珍しく神妙な顔をしたサクラがいた。
瞳にはうっすらと涙を浮かべている。
「私、見ちゃったの。昨日」
「昨日・・・」
サクラを守る云々の話を本人に聞かれていたのかと思うと顔が赤らむ。
「あ、あれは」
「言わなくてもいいわ。ショックだったけど、私認められるように努力するから」
「は?」
どうも会話がかみ合っていないような気がする。
そのまま「頑張ってねー」という言葉を残して、ハンカチで涙をふきつつサクラは去っていった。
「なんだったんだ?」
俺は首を傾げつつ、帰り道を歩き始めた。

しかし、サクラの理解不能な行動は、今回の事件の始まりにすぎなかった。

 

「サスケ、話はサクラちゃんから聞いたってばよ」
暫く歩くと、今度はナルトが話し掛けてきた。
草陰から突然現れたところをみると、待ち伏せしていたのだろうか。
「俺、そういうことよく分からないけど、応援してるよ。サクラちゃんのことは俺に任せるってばよ」
「なんの話だ」
俺は眉を寄せて訊ねたが、サクラ同様、ナルトも全く人の話を聞く様子はなかった。
「で、全然気づかなかったけど、いつからだったんだよ」
「だから、なにがだ」
「すっとぼけやがって」
ナルトが笑顔で俺の背中をバシバシと叩く。
おい、いつからお前こんな馴れ馴れしい態度をとるようになったんだ。
抗議しようとしたときには、ナルトはすでに木の上だった。
「俺、これから行くとこあるから。じゃーなー」
ナルトは猿のように、木々を伝ってを移動していく。
ち、逃げられた。

 

「サスケーーーーー!!」
今度はこいつか。
ナルトのみならず、行く先々で、顔見知りから「話は聞いた」「大変だな」と声をかけられた。
駆け寄ってきたアカデミーの元担任、イルカを俺はうんざりした目で見つめる。
「サスケ、ナルトから話は聞いた。辛いことがあったら、何でも先生に相談しろよ。先生はサスケの味方だからな」
いい加減イライラしてくる。
話に聞いた話に聞いたって、本当に一体皆なにを聞いたっていうんだ。
「おい」
「どうした、さっそく相談か」
踵を返したイルカを呼び止める。
「一体なんの話なんだ。俺はなんのことだか全然分からない」
「えっ。じゃあ、あの話は嘘なのか!?」
イルカは驚きの声をあげて俺を見た。

「カカシ先生がお前に愛の告白をして、お前がそれに応えたって話」
卒倒しそうになったが、なんとかこらえる。
否定の言葉を言う前に倒れるわけにはいかない。
「・・・それは、大嘘だ」
思ったよりも低い声がでて、イルカもその声に少しびびったようだった。

「なんだ。カカシ先生ならと思って、ちょっと信じちゃったよ。すまないな」
イルカはそういって頭をかいて笑った。
俺の目には「ちょっと」どころじゃないように見えたが。

話の出所はきっとサクラだ。
昨日のカカシと俺の会話、最初の部分だけ聞いて早とちりしたにちがいない。

「じゃあ、お前が妊娠三ヶ月で、つわりに苦しんでるっていうのも嘘なんだよなぁ。これは他の奴から聞いたんだけど」
イルカが俺の顔色を窺うようにして言った。
噂にかなり尾ひれがついている・・・。
俺のこめかみが波打つのをイルカは怯えた瞳で見ていた。

 

ちょっと待て。
じゃあ、これまで会った連中の不可解な言動は。

 

・・・なんで誰一人疑わず、噂話を信じているんだ。

俺は震える声で呟いた。
「・・・馬鹿ばっか」

木の葉の忍びの未来を本気で愁う俺だった。


あとがき??
サスケくん、初めての一人称―。
最初に書きかけてから、随分間をあけて書き上げたので、何を思ってサスケ話を書こうと思ったのか思い出せない。
うーん。カカサスが書きたかったのか??これって、ギャグなの?
さりげなくカカサクが入っているあたり、私らしい。(笑)

サブタイトルはサスケの受難。


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