正しい未来 T


「ナルトの兄ちゃん、こっち向いて」

覚えのある声に振り向くと、木ノ葉丸がナルトに向かってカメラを構えていた。
とっさにピースサインをするのと同時に、シャッターが切られる。
「・・・何だよ、お前。突然」
ナルトは文句を言いながら木ノ葉丸に近づく。
買い物帰りに路地を歩いていたナルトは普段着で、周りの風景も特に変わったものはない。
このようなところで写真を撮っても、無意味のように感じた。
「まぁ、見てなって」
木ノ葉丸はカメラを片手ににぃっと笑う。

木ノ葉丸の持っているカメラは旧式のポラロイドカメラだった。
カメラから出てきた黒い写真を、木ノ葉丸は興味深げに眺めている。
徐々に鮮明になっていく画像には、ポーズをとるナルトの姿が写し出されるはずだ。
「全く、何が面白いんだか・・・」
子供の遊びに付き合っているつもりで、ナルトも辛抱強くその場に留まっている。

 

「・・・・・・誰、これ」

写真を見たナルトの第一声がそれだ。
くっきりとした写真にはナルトの姿は写っていなかった。
変わりに写っているのは一人の青年。
ナルトの知らない顔で、その背景もこの付近では見慣れない新しい建物だ。

「お前、俺のこと撮ったんじゃないの?」
「ナルトの兄ちゃんを撮ったんだよ」
怪訝な顔で訊ねるナルトに、木ノ葉丸ははっきりと答える。
訳が分からず首を傾げるナルトに、木ノ葉丸はくすくすと笑い声を立てる。
「これはねぇ、じーちゃんの部屋からこっそり持ち出してきたものなんだ。水晶玉と並んで大事にされている代物らしくって、未来を写すカメラなんだよ」
「えええ!!」
仰天して目を見開くナルトに、木ノ葉丸は得意げに続ける。
「だから、この写真に写ってるのは未来のナルトの兄ちゃんなんだ」
「マジ!!?」
ナルトは木ノ葉丸の手元の写真をしげしげと見詰める。
レンズに向かうその青年は確かにナルトと同じ金髪で青い瞳だ。
木ノ葉丸の話が確かなら、今から4,5年後の姿だろうか。

「へぇ。ちゃんと昇進してるんだ。結構格好良いんじゃないの」
木ノ葉丸は感心したように言う。
写真のナルトは上級忍者の服装をしている。
順調に火影への道を進んでいる証拠だ。
カメラに向かって思わずピースサインをした今のナルトと違い、きりりとした顔で佇む彼はなかなかの男前に見える。
「普段からこれくらいしっかりした顔してればまあまあ見れるのに」
「・・・・」
褒めているのか貶しているのか分からない木ノ葉丸の言葉に、ナルトは複雑な表情になった。

「じゃあ、お前のことも撮ってやるよ」
ナルトは木ノ葉丸からカメラを受け取り、彼の姿を撮影する。
木ノ葉丸が何か細工して悪戯をしているのかと半信半疑だったナルトだが、木ノ葉丸を撮ったはずの写真にはやはり未来の彼が写っていた。
木ノ葉のマークの入った額当てを付けた木ノ葉丸少年は、下忍になったばかりの頃だろうか。
「お、俺もちゃんと忍者になってるよ!」
木ノ葉丸は写真を片手に飛び上がっている。
ナルトはまだ信じられないといった気持ちでカメラと写真を交互に眺めていた。

 

 

「というわけで、これは未来の姿が写るカメラなんだ」

翌朝、ナルトはカメラを掲げサスケとサクラに鼻高々に告げる。
“未来を写すカメラ”と聞いてうさんくさいという顔つきだった二人も、ナルトを写したという写真を見るとようやく納得したようだ。
未来の写真のナルトは、確かにこれは彼なのだと思わせる面影をしっかりと残していた。
親類縁者のいないナルトのことを考えると、話を信じるより仕方ない。
それに、里の長である火影ならばそのような絡繰りのカメラを持っていたところでおかしくはなかった。

「でも、何でナルトがそれを持ってるのよ」
「サクラちゃんのことも写してあげようと思って借りてきたんだ」
本当は渋る木ノ葉丸から無理矢理拝借してきたのだが、そのことは黙っておく。
「じゃあ、サクラちゃんそこに立ってよ」
「え、サ、サスケくんを最初に撮ってあげたら?」
サクラに話を振られ、サスケは驚いて顔を上げた。
「俺はいい」
「・・・・お前、怖いんじゃないのか」
即座に断るサスケに、ナルトはにやにやと笑いながら言う。
当然、そのようなことを言われて自尊心の強いサスケが黙っていられるはずはない。

 

サスケを撮影した写真を手に、サクラは真剣な眼差しで告げる。
「・・・ナルト、これちょうだい」
写真はサクラのお眼鏡にかなうサスケが写っていたらしい。
ナルトは面白くなさそうな顔をしていたが、サスケは心なし満足げな笑みを浮かべている。

「それじゃ、次はサクラちゃんね」
「え、ちょっと待ってよ。心の準備が・・・」
サクラが言い終わる前にナルトはシャッターを切る。
わくわく顔のナルトの隣りで、サクラは眉をひそめて写真から目をそらしていた。
別に奇妙なカメラが怖かったのではなく、未来の自分がものすごく太っていたり、ものすごく変な顔になっていたりしたらどうしようという思いからだ。

「・・・・・・」

サクラはびくびくとしながらナルトの反応を待っていたのだが、ナルトは写真を見詰めたままは黙りこくっている。
その不自然に長い沈黙はサクラの不安を増長させた。
「・・・ちょっと、何やってるのよ。早く見せなさいよ!」
しびれを切らしたサクラはナルトから写真をかすめ取ろうと手を伸ばす。
だが、すんでの所でナルトはそれをポケットへとしまい込んだ。

「駄目」
真顔のナルトはサクラを見据えてはっきりと言う。
いつになく頑なな物言いに、サクラの表情も段々と怒りから訝しげなものに変わっていく。

 

「おいおい。何をもめてるんだ」
そのとき丁度都合良くカカシが現れ、ナルトはさっとカメラを後ろに隠した。
元々木ノ葉丸が火影の部屋から持ち出したカメラだ。
カカシがカメラのことを知っているかどうか分からないが、ばれれば小言を言われるのは確実だろう。

「仲良くしろよー。じゃあ、任務に向かうぞ」
さして気にした風でもないカカシに、ナルトはホッと息を付く。
傍らでサクラがナルトに厳しい視線を向けていたが、ナルトは素知らぬ顔で通した。
写真を、サクラに見せることはどうしてかはばかられたからだ。
誰にも見られないよう、ナルトはポケットに忍ばせた写真を握りしめる。

 

サクラを写したはずの写真。
そこにサクラの姿はなく、彼女のいた場所にはただ黒い影が写っている。
背景はしっかりとしているのに、写真に人物らしきものは全く写っていない。

まるで、未来の世界がサクラの存在を否定しているように。

 

不吉なものを撮影してしまったという気持ちから、ナルトの顔色は一日中冴えないものだった。


あとがき??
ドラえもーん。(のび太声)
ドラグッズみたいですよねぇ。未来を写すカメラ。確かあったと思う。
たけしにも出てきたような。(笑)

・・・・あれ、もしかしてこの話、暗い?


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