デル


「ストーカー!?」
「そうなの」
目を丸くするイルカに、サクラは重々しく頷く。
その真剣な眼差しに、イルカは思わず苦笑いして彼女の頭に手を置いた。
「考えすぎじゃないのかー」
「絶対そうよ!」
まともに取り合わず歩き出したイルカを追いかけ、サクラはなおも言い募る。
アカデミーの校門でイルカが出てくるのをずっと待っていたのだ。
そう簡単に引き下がれない。

「ずっと誰かに付けられてるような気がするし、最近うちの近所で痴漢が出たのよ。もう、私怖くて」
「それは、用心した方がいいと思うけど、どうしてわざわざ俺のところに来るんだ。カカシさんに言えばいいじゃないか」
イルカが何気なく言った言葉に、サクラはぴたりと足を止める。
怪訝に思ったイルカが振り向くと、サクラは目元を赤くしてイルカを見詰めていた。
「・・・・迷惑?」
今にも泣き出しそうなその声音に、イルカは慌てて返事をする。

「そ、そうじゃないけど、俺と違ってカカシさんとは毎日顔合わせてるだろう」
「カカシ先生にも相談したけど、何とかしてやるって言うだけで何もしてくれないんだもの」
「・・・そうなのか」
彼のことを生徒を第一に考える教師と思っていただけに、イルカは妙なことだと感じた。
だが、そうなると自分が出て行かざる得ない。
真相はどうあれ、サクラが不安に思っているのは事実だ。

 

 

 

さっそく翌日から、イルカはサクラの尾行を始めた。
同じようにサクラを付けている者がいれば、すぐに分かるはずだ。

「大事な有給を使ってまで何をやってるんだか・・・」
ぼやくように言いながらも、イルカには自分を頼ってきた元生徒を邪険に扱うことなど出来ない。
今日一日様子を見て、何もないようならもう一度サクラを説得しようと考えていた。
朝、サクラが任務に向かい、その帰りに寄り道をして、町の店を回るところまでを見守る。
気配はきちんと消しているつもりなのに、サクラは時折イルカのいる方角を見て小さく手を振ってみせた。
いつの間にそんなに敏感になったのかと、イルカは密かに感心する。

 

そうこうするうちに、サクラは何事もなく自宅の前までやって来る。
サクラの姿が扉の向こうに消えやはり思い過ごしだったのかと思ったとき、イルカはその人物に気付いた。
サクラの家の見える電信柱の陰。
こそこそと挙動不審なその人は、イルカもよく見知った少年だ。

「・・・何やってるんだ、お前は」
「い、イルカ先生!」
背後からそっと近づいたイルカに、ナルトはギョッとして振り返った。

 

 

「桜愛会―!?」
「そう。“サクラちゃんを愛でよう会”の略」
すでに行きつけとなっている一楽でラーメンをすすりながらナルトは事情を説明する。
「年会費を払うと毎月サクラちゃんの来月の予定が載った会報や、その月のベストショット写真が貰えるの。今なら入会金無料でこんな特典が付いてくるよ。イルカ先生もどう?」
ナルトは宣伝よろしく詳しい説明書をイルカに手渡す。

主な会員の名前が記載されているリストに目を通し、イルカは震える声で訊ねる。
「・・・カカシさんが会長で、お前が営業部長?」
「そうだよ」
よくよく見ると、イルカの知己の忍者のほとんどがメンバーだ。
中には、里の長の名前までVIPとして写真付きで掲載されている。
イルカは眩暈を起こしそうになり額に手を当てた。
里の未来に、大きな不安を感じる。

「先月の“桜愛通信”の特集は凄かったんだよ。サクラちゃんのご両親の協力もあって、赤ん坊の時のサクラちゃんの写真が載ったの。めっちゃ可愛かったんだから〜。あ、今も可愛いけどね」
「・・・・」
イルカはリストを手にしたまま、声も出ない。
両親まで、こんなとんでもない会に手を貸しているとは。
「でも、最近サクラちゃんも察しが良くなって来ちゃって。今までは下忍と中忍の人達がサクラちゃんの護衛のために交代で張ってたんだけど、今度からは特別上忍を付けなきゃ駄目だなぁってカカシ先生と話してたんだ。ちなみに、今日は俺が担当だったの」
「・・・・へぇ」
熱弁するナルトを横目に、イルカは気の抜けた声を出す。
もっと他に大事な仕事があるだろう、と思いつつ、会に多大な資金援助をしているVIPの名前を見たあとのイルカには何も言うことが出来なかった。

 

 

 

「イルカ先生、どうだった?」

数日後、サクラはさっそくイルカに真相を聞きに現れた。
「ああ、先生がよく言っておいたから、もうストーカーは出ないと思うぞ。疑って悪かったな」
イルカはサクラの動向を見張る忍者が特別上忍に変わるというナルトの言葉を思い出しながら言う。
何も知らないサクラが可哀相に思えたが、会の存在を口外しないと約束した。
「そっか。有難うね、先生」
イルカの言葉を信じ、サクラは嬉しそうに笑った。

自分の傍らにいるサクラを見ながら、イルカは心底不思議に思う。
見れば見るほど、普通の少女だ。
あれほどの人数の会員を惹きつけるものがどこにあるのだろうか。

 

「それでイルカ先生、ストーカーって誰だったの?」
「え、それは・・・」
答えに窮したイルカは、視線を泳がせながら頭をかく。
「本人も反省してるみたいだから、まぁ、名前を言うのは勘弁してくれよ。なっ」
「・・・・」
不自然に焦るイルカを、サクラは無言で見詰めている。
なかなか返ってこない返事にイルカが緊張していると、サクラはふいに表情を和らげた。

「イルカ先生って、優しいよね」
「え、そうか?」
「うん。いっつも自分のことじゃなくて、人の心配ばかりしてる。今回の私のことだけじゃなくて、困ってる人を放っておけないんでしょ」
戸惑うイルカを見上げ、サクラはにっこりと微笑んだ。
「私ね、イルカ先生のそういうところ大好きよ」
「す、好きって・・・」
サクラの口から出た「好き」の言葉に、イルカは一層あたふたとした。
サクラはイルカから視線を逸らし、独り言のように呟く。
「あの日ね、イルカ先生が私のあとを付けて来て、私のことだけを見てくれてるのかと思ったら、何だかすごくドキドキしたんだ」

言葉を紡ぐのと同時に走り出したサクラは、数メートル行ったところで振り返る。
「バイバイ」
小首を傾げて手を振る動作がひどく可愛く見えて。
彼女が去ったあとは、何故か取り残されたような気持ちになる。
イルカは赤い顔のまま長い間その場所に立ち尽くしていた。

 

 

翌月の“桜愛通信”。
新入会員NO.389にはしっかりとイルカの名前が記されていたという。


あとがき??
何故サクイル(イルサク)・・・・。
読者の代理でイルカ先生を登場させたら、イルサクになってしまいました。すみません!!(>×<)
この人、ナルトの未来予想図なだけあって書きやすい・・・。
サクラの天然お色気の術炸裂って感じの話でした。
私なら「大好きv」なんて言われたら家にお持ち帰りしちゃいます!

・ サクラちゃん木の葉の里のアイドル!!
・ 皆からモテモテ〜のサクラちゃん。
・ カカシ先生はサクラちゃん親衛隊長。

が、お題だったのですが、クリアしているでしょうか。(汗)

26000HIT、ケイ太様、有難うございました。


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