冬の友達


「サスケくんの部屋って、綺麗だけど、何か足りない・・・・」

サスケの家に押しかけたサクラは、部屋を見回すなりポツリと呟いた。
「俺は部屋に物を置かない主義なんだ。気に入らないなら出てけ」
「うーん。何だろう。何が足りないんだろう」
サスケの言葉を無視し、サクラはひたすら考える。

一人用のテーブルに、小さなソファー、本棚、食器棚、箪笥、TV。
見事に必要最低限な物しかない。
家具も白か黒で統一され、温かみがまるでなかった。

「・・・あれかもしれない」
「何だ?」
「次に来るとき、持って来るわ」
サクラはにっこりと微笑んでサスケを見る。
それが何なのかは、持って来てのお楽しみ、ということらしかった。

 

 

「どうやって持ってきたんだ、それ・・・・」
「そんなのどうでもいいじゃない。さ、どいて、どいて!!!」
次に来訪したとき、サクラは約束どおりにあるものを持って来た。
玄関口でサスケを押しのけ、サクラが重そうに居間に運んだのは炬燵用具一式。
炬燵布団はサクラの背負う大きなリュックに入っている。

「ふー。あとは、コンセントを入れて・・・」
何とか居間の広い場所へ炬燵を設置したサクラは、一息ついてからコンセントの場所を捜し始める。
「お前、人の家に無断で物を持ち込むな!」
「ああ、心配しないで。うちにはもう一つあるから大丈夫なのよ」
人の話を聞いていないにもほどがあるが、サクラは平然とした顔だ。
「炬燵、あったかくて、気持ちいいよv」
「・・・・・」

 

数分後には、電源を入れた炬燵がサスケの家で始動していた。
丁寧にも、サクラは炬燵の上に籠に入った蜜柑まで設置している。
散々文句を言っていたサスケも、ちゃっかりと炬燵に入っていた。

実は、サスケが炬燵を利用したのはこれが初めてだった。
TVで見たり、人の話で聞いたことはある。
だが、幼い頃家族で住んでいた家には高級感溢れる家具だけで、炬燵というものは存在しなかった。
密かに炬燵を使ってみたいという気持ちはあったものの、一人になってからはそのようなことを考える余裕はなかった。

「やっぱり冬は炬燵よね〜」
炬燵でぬくまりながら、サクラは幸せそうに笑う。
「サスケくんも、そう思うでしょ」
「・・・そうだな」
珍しくサクラの意見を肯定したサスケは、十分に炬燵を堪能していた。

 

 

 

それからサクラが用意した鍋を食べて、TVを見ながら雑談をしていたのを覚えている。
そしてサスケが気付いたときは、すでに夜が明けたあとだった。
いつの間にやら、炬燵で眠りこけていたらしい。
目の前には、座布団を枕に同じくうたた寝をするサクラがいる。
半身を起こしたサスケは、日課となっていた鍛練を怠った事実に愕然となった。

だが、それも一瞬のことだ。
炬燵の温かみのせいで睡魔に襲われたサスケは、再びぱたりと横になる。
そのままになっている鍋の片付けも、鍛練も、あとでやればいい。
一日くらい、世情を忘れてのんびりした日があってもいいだろう。
今は、炬燵の導きに従うだけだ。

サスケの全ての思考能力は、こうして炬燵に奪われていった。

 

 

 

「あ、おはよー。ご飯、出来てるよ」
サスケが瞳を開けると、蜜柑を食べながらTVを見るサクラと目が合った。
慌てて起きると、一度目を覚ましてから半日は経過している。
いや、それよりも別に気になることがあった。

「お前の着てるそれは・・・・」
「ああ、ちょっと借りちゃった」
サクラは「エヘヘ」と笑って服の袖を伸ばす。
それは、サスケのパジャマだ。
「お風呂に入ったはいいけど、着替え持ってきてなくて」
「風呂も入ったのか!!!」
「サスケくんのシャンプー、うちで使ってるのと一緒だったのよ」
にこにこと笑うサクラは、籠を引き寄せサスケにも蜜柑を勧めた。

怒りを通り越して、呆れ返ったサスケが口を開く前にチャイムが鳴る。
「誰か、来たよ」
サクラは顎でしゃくって合図をした。
サスケはサクラを諌めるための出鼻をくじかれ、疲れた顔で炬燵から這い出た。

 

 

「誰だ!!」
苛立ちまぎれにサスケが玄関の扉を開けると、満面の笑みを浮かべる二人組みが立っていた。
「よーー!!遊びに来たぞー!!!」
「休日だってのに、部屋でごろごろしてたら駄目だってばよ」
今まで、一度もサスケの家に来たことのないカカシとナルトだ。
最悪なタイミングに、サスケは頭を抱えたくなる。

「な、何しに来た」
「別に用事なんてないよ。親睦を深めようと思ってさーー」
「サクラちゃんにも連絡入れたんだけど、いなくって」
「おい、勝手に入るな!!!」
サスケの制止などまるで耳に入っていないらしく、カカシとナルトは道すがら購入した菓子類の袋を片手にどたどたと部屋に入り込む。

「あれ、ナルトに先生。どうしたの〜」
居間にやってきた二人に、サクラはのんびりと声をかけた。
パジャマ姿でくつろぐサクラはすっかりサスケの部屋に同化している。
あんぐりと口を開け、二人はサクラを視界に入れたときの姿勢のまま固まった。

 

「何でサスケの部屋にサクラちゃんがパジャマ姿で!!?」
一瞬の沈黙のあと、二人はあからさまに動揺して騒ぎ出す。
「・・・・え、同棲!?」
「違う!!!!寄生だ!!」
とんだ誤解に、サスケもつい声を荒げる。

「どっちでもいいじゃない。二人共、早く炬燵に入りなさいよ」
「よくない!!!!!」
「ま、何にせよ全員集まったなー。宴会始めるぞ」
カカシはすでに炬燵に入っている。
「おい、コップどこだよ」
ジュースの入った袋を掲げ、ナルトは傍らにいるサスケに訊ねた。

 

 

 

3時間後には、整然としていたサスケの部屋は菓子の袋や、何かの雑誌や蜜柑の皮が散乱し、見事にゴミためと化していた。

「おーい、誰か酒買って来いーー」
「ちょっと、未成年の私たちにお酒は買えないのよ。先生が買い物行って来てよ」
「そーそー、ジュースもなくなったしさー。あ、苺味のポッキーも忘れないでね」
「お前ら、年長者に働かせるつもりかよ」
3人は誰も炬燵から出る気がないらしく、醜い争いを始めている。
木枯らしが吹く外と、炬燵のぬくもりでは、誰でも残る方を選ぶだろう。

 

サスケは悟った。

このままだと、来客用の布団がないこの家でも、3人は寝泊りができる。
そして、この連鎖は延々と続く。

炬燵だ。
全ては炬燵が元凶だ。
ひとたびこれに入ると、人間は思考能力が鈍り、外に出ることが困難になる。
何の攻撃性もない、平和の象徴のような物体が、人々にこれほどの影響を与えるとは。
生き地獄だ。

 

「・・・俺が金を出す」
サスケが取り出したのは、木ノ葉で一番価値のある紙幣だった。
3人の目が輝いたのを、サスケは見逃さない。
「だから、皆で買い物をして来てくれ」

 

 

 

荷物を片手にサクラ達が出かけるなり、サスケは炬燵を家の外に放り出した。
玄関の扉の鍵を閉めると、散らかり放題の部屋を片付けだす。
騙して悪いとは思うが、もともとここはサスケの家だ。
家に入れる人間を選ぶ権利は彼にある。
サスケの家に入れなければ、彼らは炬燵ごとナルトかカカシの家に移動するはずだ。

サスケが一通りゴミをまとめ晴れ晴れとした笑みを浮かべたときに、鍵を閉めたはずの扉が開かれる音がした。

「な、鍵を持って外に出てよかっただろー!」
「人が買い物に行ってる間に締め出そうなんて、嫌な奴だってばよ」
「まぁまぁ。入れたんだから、いいじゃないの」
カカシは外に出ていた炬燵を再び居間へと運んだ。
「さあ、宴会の再開だ!TVつけろ、TV。『お色気くの一忍法帳』、毎週観てるんだ」
「先生ってば、あんなエッチな番組観てるの」
購入した物を炬燵の上に並べ、3人は再び盛り上がる。

「8班と10班の奴らも呼ぼうか」
「いいわねv」
「そうなると炬燵が狭くなるなぁ。新しく大きいのを買うか」
家の本来の住人はすっかり蚊帳の外で、どんどん話は進んでいく。

 

「・・・・お願いだ。帰ってくれ」

泣き出しそうなサスケの懇願の声に、サクラ達は全く無反応だった。


あとがき??
二ノ宮知子先生の『のだめ カンタービレ』
Lesson9をそのまんま模してみました。
千秋先輩がサスケ、のだめがサクラ、峰くんと真澄ちゃんがカカシ先生とナルト。
サスケの千秋先輩、何でこんなにはまってるんだ。(笑)
原作の方はさらに続いてオチまでついてるんだけど、ここまでにしてみました。
皆さん、のだめ、面白いですよ!お薦め!!

またのだめネタでNARUTOやりたいですね。
指揮者を目指す天才肌のクールな千秋先輩はサスケ。
千秋先輩に恋するピアノの上手なお天気少女のだめはサクラ。
のだめの親友で明るくお馬鹿なコンサートマスター峰くんはナルト。
ただのエロオヤジかと思いきや、世界的に名前を知られた指揮者のミルヒ先生はカカシ先生。(のだめは彼のお気に入りの生徒vよって千秋先輩を敵視)
は、はまる・・・・・。

楽しかったです。不幸なサスケ。皆に愛されているがゆえの悲劇。(笑)
炬燵でぬくまるサスケとサクラの姿を想像すると、何だか可愛いな。
炬燵というと四方から入れるわけですが、位置を順番に記すと、@ナルト、Aサスケとサクラ、Bカカシ先生、CTVが置かれている台、という感じ。
ちなみに、タイトルが指しているのは、炬燵と7班のメンバー。
個人的に『お色気くの一忍法帳』が気になります。

ああ、炬燵の魔力は永久(とわ)に続く・・・・・。


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