空の色
夕暮れの公園。
日が沈み始め視界がおぼつかなくなると、遊んでいた子供達は、一人、また一人と帰っていく。
迎えに来た母親に、子供は皆、満面の笑顔で応えている。
そうして、公園には砂場で遊ぶ数人の子供だけが残された。「お母さん」
駆け出した少年を目で追い、幼い頃のナルトは顔を動かした。
彼がいなくなると、いよいよ公園に残された子供はナルトだけになる。
どんなに時間が遅くなろうと、ナルトには迎えに来る家族は一人もいない。
そして、家に帰ってもナルトは一人だ。羨ましそうに見つめるその視線に気付いたのか、母子はナルトを振り返った。
「気味の悪い眼」
母親は蔑むような目でナルトを見遣る。
彼女と手を繋ぐ少年も不快そうに眉を寄せた。
「こっち見るなよ」冷たい声音を耳にして、ナルトは何も言えずにただ俯くことしかできない。
それは毎日繰り返される光景。
仲良く歩く親子連れを見るたびに、ナルトの胸は悲しみで潰れそうになる。
滅多に公園に行くこともなくなり、年を重ねても、この感覚だけは、絶対に慣れることはない。
誰でもいい。
自分を迎えに来てくれる暖かな手があれば。
ほんの少し、救われるのに。
「ナルト!!」
大声で呼ばれ、ナルトは弾けるように半身を起こす。
すると、眼前には腰に手を当てて立つサクラの姿。
「家にいないと思ったら、こんなところで居眠りしてたのね」
つい先ほどまで夢の世界にいたナルトは、覚醒を促すために顔を二、三度強く叩いた。
過去の幻影に捕らわれていては、到底笑えない。「ごめん。もうそんな時間?」
今日にかぎり、二人は一緒に任務の集合場所に向かう約束をしていた。
仕事が午後からなこともあり、忘れっぽいナルトを迎えに行くようカカシに言われたためだ。
そして、サクラはナルトの家のすぐ近くにある公園で、ベンチで寝そべるナルトを見つけた。
ナルトが嫌な過去の夢を見たのは、場所が公園だったからかもしれない。「何か、いい天気だったからうとうとしちゃって・・・」
「まぁ、分かるけどね」
ナルトの声にいささか覇気がないことに、サクラは全く気付かない。
サクラが天を仰ぐと、ぬけるような青空が広がっていた。
雲ひとつ無い空は、見ていて気持ちがいい。
「綺麗な空。私、色の中で青が一番好き」
「へぇ」
同じように空を見上げていたナルトが、ふとサクラに顔を向けると、彼女はナルトを見つめていた。
真っ直ぐ自分を見据えるサクラに、ナルトは落ち着かない気持ちになる。
「え、何?」
ナルトが戸惑い気味に訊ねると、サクラは柔らかく微笑んだ。「ナルトの眼も綺麗ね」
すぐ近くまで歩み寄り、サクラはナルトの顔を覗き込むようにして見る。
「今日の空の色みたい」サクラの優しい香りが鼻について、ナルトは僅かに顔を赤らめる。
朗らかに笑うサクラは、今まで見た中で一番綺麗に見えた。
「行こう」
言うが早いか、サクラはナルトの手を引いて歩き出す。
たぶん、サクラは無意識でやったこと。
だけれど、ナルトは心底嬉しそうに微笑んだ。サクラが好きだと言った青。
それが、自分のなかにあることが、たまらなく嬉しい。
何のためらいもなく自分の手を握る彼女の存在が、奇跡のようだ。
昔は、気味が悪いと言われた眼。
今は、サクラが綺麗だと言ってくれる眼。
ナルトがあの夢を見ることは、もう二度となかった。
あとがき??
定期的に可哀相なナルトを書きたくなるらしいです。(汗)
眼の話は、藤原薫先生の『思考少年』「ハウス」から。