面影


カカシが彼とプライベートな時間に会うのは、久しぶりだった。
教師だった彼の元で働いたのはそう長いことではなく、カカシは早々に中忍になり、彼は里の長たる地位に上り詰めた。
カカシは彼の直属の部隊に所属しているとはいえ、公的な話以外の会話は滅多に無い。
突然の呼び出しに、カカシは嬉しさよりも先に、胸騒ぎを覚えていた。

 

「よぉ」
遅れて来たカカシに、彼は片手を上げて合図をする。
懐っこい笑顔を浮かべる彼は、年もまだ若く、火影と呼ばれる身分には到底見えない。
だけれど、彼の実力をカカシはよく知っている。
いざ戦いとなれば、その表情は一変するのだ。
それを分かっているからこそ、彼が笑っていると不思議と安心する。

「それ、何?」
歩み寄るカカシが指差したのは、彼が腕に抱く赤子。
金の髪の赤子はすやすやと寝息を立てていた。
彼はにっこりと笑い、カカシの問いに答える。
「俺の子」
瞬間、目を丸くするカカシを、彼は面白そうに見つめた。

「そんな話は聞いたことないけど・・・」
「だって、誰にも話してないもん」
えへへっと、悪戯な笑みを浮かべて彼は言う。
「ちょっと訳ありでね。公に出すわけにいかないんだ」

赤子を抱えなおすと、彼は人気のない道を選んで歩き出す。
「少し、歩こうか」

 

 

「カカシ、もうすぐこの里を大きな天災が襲う。そのあと、この子を頼みたいんだ」
カカシが見上げると、彼は真顔で赤子を見つめている。
その言葉が意味することに、カカシは不安を通り越し、怒りすら感じた。

「・・・何で、そんなこと言うんだよ」
「もしもの話だよ」
くすりと笑うと、彼はカカシの頭に手を置く。
「俺は、この里が、ここに住む人たちが好きなんだ。何よりも大事だと思ってる。だから、何があっても絶対に守りたいんだ」
「・・・・」

カカシには、彼の言っていることがまるで理解できなかった。
彼が何故突然、そのような話をするのか。
子供を自分に任せるなどと言うのか。
分かるのは、今日の彼は何か決意した者の瞳をしているということだ。

 

「お前も、その大事な一人だよ」

思い出したかのように言うと、彼はカカシに向かって微笑む。
その時の、彼の優しい笑みを、カカシは一生忘れることはなかった。

 

 

 

彼が言葉の通り、里を守り英雄として死んだのは、それから間もなくのことだった。
今、カカシの傍らには、あのとき彼に託された忘れ形見、ナルトがいる。
ナルトの担当の上忍に選ばれたのは、何かの導きによるものだろうか。

 

「人って簡単に死んじゃうんだね・・・・」
戦いの末に死んだ忍者の墓を見つめ、ナルトは切なげな表情をする。
今まで、人の死とは無縁の生活をしていたナルトにとって、墓にいる人間が親しい者でなくても、十分に衝撃的だった。

「カカシ先生。俺さ、絶対絶対死にたくないけど、もしそういうときがあるとしたら、大事な人を守って死にたいな」
「大事な人?」
「うん」
訊き返したカカシに、ナルトは重々しく頷く。
「イルカ先生とサクラちゃん、あと憎らしいけどサスケ」
一度言葉を切ると、ナルトはカカシを見上げてにっこりと微笑む。

「カカシ先生も、大事な一人だよ」

 

屈託なく笑うナルトの顔が、カカシの目に、いつか見た彼と重なった。

「・・・馬鹿だな」
声を詰まらせたカカシは、うめくように言う。
天を仰ぎ、滲みそうになる涙を、カカシは何とか堪えた。

「二度も死なれてたまるかっての」

 

「え?」
振り返ったナルトの額を、カカシは思い切り小突く。
「そういう偉そうなことは、俺より強くなってから言え」
「何だよー」

むくれるナルトに、カカシは苦笑してその頭を撫でる。
陽だまりを吸い込み、ナルトの金の髪は太陽そのもののように温かく感じられた。


あとがき??
最初で最後の四カカナル!(笑)
楽しかったので、満足。有難う、有難う。(←?)書こうかなぁと思い始めて、30分で完成!
設定めちゃめちゃなので、深いこと考えないように。


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