遙かなる 4


「10班は、先生が焼き肉食べに連れてってくれるらしいぜー」
赤丸を頭にのせたキバは、いかにも不満げに言う。
「いーよなー。うちはせいぜいかき氷どまりだよな」
「で、でも、紅先生は私達のことよく考えてくれる先生だし」
「そんなことは分かってるんだよ」
キバにじろりと睨まれ、ヒナタは押し黙る。

「ヒナタにあたるな。他の班のことは関係ないだろ」
「分かってるけどよー」
「7班は担任が毎回5時間は遅刻してくるらしい。それよりはましだろう」
「・・・・・まぁ、それはそうだな」
シノの言い分に、思案顔のキバは小さく頷く。
キバの心情を表すように、頭の上にいる赤丸がにこにこ顔になり、隣りにいるヒナタはほっと息を付いた。

「そういえば、お前の従兄の班はどうなんだ?」
「え」
「みんなでどっか食べに行くとか、遊びに行くとか、聞いたことあるか」
「・・・んー」
キバの唐突な問い掛けに、ヒナタは唸り声をあげながら考える。

まず、ネジの姿を頭に浮かべたが、彼は難しい顔をしているばかりで、表情といえば微かに口元を緩ませる程度だ。
もちろん、日々の生活について楽しく語ることなど皆無。
ヒナタは初めて、家の外でのネジについて、何も知らないことに気付いた。

 

 

「おいおい、大丈夫かよ」
「あんまり考えると、知恵熱が出るぞ。もうやめろ」
頭を抱えたまま苦しげな声をあげ続けるヒナタに、キバもシノも慌て始める。
そうして、歩きながら話していた三人組が里の繁華街に入ったときだった。

「あ、噂をすれば影!」
キバの声に、シノとヒナタは同時に振り返る。
言葉のとおり、ちょうど甘味処の店先から出てきたのはネジだ。
彼とはおよそ縁遠いと思われた場所から登場したのも驚いたが、ある少女と二人で連れ立っていたのはさらに衝撃的だった。

「・・・・同じ班の女子だな」
「そういえば、一緒に体術の特訓をしてるって聞いたことあるぞ。付き合ってるのか」
言いながら、キバは首を傾げた。
「でも、あの能面顔が女の子と仲良くお喋りなんて、想像できねーなー。な、ヒナタ」

からからと笑うキバは傍らのヒナタへと顔を向ける。
てっきり自分の軽口に笑顔を見せていると思ったのだが、ヒナタは真顔だった。
むしろ、泣きそうになっている。

「ごめんなさい。私、帰る」
踵を返したヒナタは、目の端を微かに赤くして走り出した。
目を丸くしたキバは、唖然とした表情のまま小さくなっていくヒナタの後ろ姿を見つめる。
「え、あいつ、ナルトのこと好きなんだよな?!」
「・・・・人の心は誰にも分からないさ」
静かな声で呟くと、混乱するキバを一人残し、シノは自分の家の方角へと歩き始めた。

 

 

 

皆と別れて2キロほど離れた地点で、ヒナタはようやく足を止める。
後ろを振り返っても、知り合いは誰もいない。
ヒナタは目尻に浮かんだ涙を、ごしごしと袖口で拭った。

ただ、ネジが笑っていただけだ。
自分が今まで見たこともない、楽しげな表情で。
それが泣くほどショックだとは、ヒナタは自分でも不思議だった。

 

 

「ヒナタ様」

聞き覚えのある、厳しい声音で名前を呼ばれる。
軽く目を見開いたヒナタだったが、その眼前にはいつの間に現れたのか、彼女の従兄が立っていた。

「どうかされましたか」
「え?」
「泣いてる」
じっと見据えてくるネジに、ヒナタは慌てて顔を背ける。

「・・・私達に気付いていたの」
「ええ」
「私、ネジ兄さんが甘い物が好きだなんて、知りませんでした」
「ああ、あれはテンテンの付き添いです。特訓に付き合ってもらったから、お礼にごちそうしたんです」
「いつも、彼女と鍛錬してるって、本当ですか」
「テンテンの武器攻撃は体術が主体の日向の家では見られないものですから」

ヒナタの質問に、ネジはすぐに返事を返してくる。
まだ何か言いたげな顔で見つめてくるヒナタに、ネジは少しだけ表情を和らげる。

 

「テンテンは大切な仲間ですよ。あなたにも、同じ班の仲間がいるでしょう。彼らと一緒です」
「じ、じゃあ、私のことはどう思いますか」
「あたなは面倒な人です」
思わず訊ねたヒナタに、ネジはきっぱりと答えた。
何の思惑もなく、素直に口からでた言葉だったが、ヒナタの衝撃は立ち直れないほど強い。

「小さいときからどこか抜けていて、少し目を離せば川に落ちるし、ドブにはまるし、崖から落ちるし、一緒にいて気が休まるときがない。大変世話がかかる」
「す、すみません・・・・」
「でも、俺は一度も迷惑だと思ったことはないです」
意気消沈して頭を下げるヒナタに対し、ネジは続けて言った。
「ヒナタ様はヒナタ様なりに頑張って、一生懸命に努力しているのを知っていますから。何かあれば必ずヒナタ様を助けます。だから、あまり心配かけないでください」

ヒナタが顔を上げると、ネジはいつもの、優しい眼差しを向けていた。
テンテンに向けていたような笑顔ではないが、見ていると、不思議と安心できる。
小さい頃から、見守っていてくれた瞳だ。

 

意を決したヒナタは、小さな握り拳を作り、ネジに向き直った。

「ネジ兄さん!今度、私とも甘味処に一緒に行ってくれますか」
「構いませんよ」
いつになく熱の入るヒナタの申し出を、ネジはあっさりと了承する。
テンテンに密かに対抗しての発言だとは、知る由もなかった。


あとがき??
何か、妙なノリで嫌な。一気に俗っぽくなっちゃいましたね。初めてのヒナタちゃん視点。
精進せねば。ネジヒナ!
たとえマイナーでも、大好きだ!!ネジくんは7班のメンバーの次に大好きキャラクターなので。(理由は不明)
ネジくんのお相手がサクラではなくヒナタちゃんなのは、ネジヒナ好きーの友達の影響か。
それとも、血縁ネタ好きのせいか。結婚してくれないだろうか。(マジマジに)

8班って初めて書いたけれど、書きやすいですね。それぞれのキャラがちゃんとしてて。
気分を変えて、キバヒナとかシノヒナを書いてもいいかもしれない。機会があれば。(片思いで)


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