先生


「困るんですよね、こういうことされちゃ。うちも商売だし」
「申し訳ありませんでした」
怒り心頭といった様子の店主に、大蛇丸は静かに頭を下げる。
その足下には、顔面を強打され、鼻から血を出した幼い少女が立っていた。

大蛇丸の生徒であるアンコが、この駄菓子屋で万引きをしたのだ。
最初は家の方に連絡がいったが、彼女の家の電話には誰もでなかった。
よって、担任である大蛇丸が身元引受人として呼び出された。
大蛇丸が駄菓子屋についた時には、アンコはすでに店主に酷く殴られた後だった。

 

「もう帰っても、よろしいですか」
ひとしきり、店主の愚痴を聞いた後、大蛇丸はぽつりと言う。
言葉少なだが、大蛇丸の体からにじみ出る威圧感に、店主は瞬時にして呑まれた。

「・・・あ、ああ。もう二度とこんなことしないように、よく言ってくださいよ」
「はい」
涼しげな笑みを浮かべると、大蛇丸はアンコの背を叩く。
何か悪態をつきたいところだったが、いかつい体格の店主を一睨みするだけで、アンコは店の外へと歩き出した。

 

 

「早く帰りなさい」
表に出るとすぐに、大蛇丸はアンコから手を放す。
「・・・怒らないの」
「何で私が怒らなくちゃならないのよ」
逆に訊ねられ、アンコは言葉につまった。

人様の物を盗むのは、悪いことだ。
今までも、何度か同じようなことをして、親にこっぴどく叱られた。
だが、教師という立場にありながら、大蛇丸にはそのような素振りはない。

 

「だって、私は、泥棒したんだし・・・・」
「それだけ殴られれば、清算したのと同じでしょ。おつりが欲しいくらいね」

言いながら、大蛇丸はアンコの顔がよく見えるようしゃがみ込む。
腫れ上がったアンコの顔は、いつもの倍ほどになっていた。
普通の子供なら泣き叫んでいるところだが、アンコは涙一つ見せない。

「手を出して。両方」
おずおずと手を差し出したアンコに、大蛇丸はもう片方の手を指差す。
そうして、大蛇丸は両のポケットから出したものをばらばらとアンコの掌の上に落とした。
「あげる」

 

それは、まさしく先ほどの駄菓子屋にあった商品。
アンコが盗んで、店主に奪われた菓子だ。
担任の鮮やかな手並みに、アンコは開いた口が塞がらない。

「今度はもっと上手くやりなさいよね」

呆然とするアンコの頭に手を置くと、大蛇丸はにっこりと笑って言った。

 

 

 

 

「えらくなつかれたようですね」
仮面を付けた男の言葉に、大蛇丸は引きつったような笑い声をもらす。
「可愛いわよ。馬鹿だけど」

きょろきょろと辺りを見回すアンコは、大蛇丸を探して歩いていた。
遙か頭上、木の上から彼が自分を見ていることに気付かずに。
密談をするのに打ってつけ場所と思い、この使われていない演習場に赴いたというのに、アンコは大蛇丸のあとをつけてきたようだった。
他の生徒達と違い、アンコは大蛇丸を恐れない。
逆に、アウトロー的立場にいる大蛇丸を尊敬しているように見えた。

 

「じゃあ、お願いね」
「はい」
密書を手渡した忍びが消えるのと同時に、大蛇丸は下方をうろついているアンコへと顔を向ける。
「アンコ」

それほど大きな声ではないのに、アンコはすぐに反応して振り返った。
とたんに顔を綻ばせたアンコを見て、大蛇丸は手招きをする。
「おいで」

背が高く、足場となる適当な枝の少ない木はなかなか登りにくいものだったが、アンコはチャクラを使い、何とか大蛇丸が腰掛ける枝までやってくる。
そして、当然のように大蛇丸の膝の上に飛び乗った。
「えへへ。先生、捕まえた!」

嬉しそうに笑うアンコの頭を、大蛇丸が無造作に撫でる。
常人より体温の低い大蛇丸に触れると、ひんやりと冷たい感触が伝わってくるが、それがアンコには心地よかった。
親でも、友達でもなく、彼と一緒にいるときが、一番心が満たされる。
任務のときは厳しく、優しい言葉をかけてくれることは稀だが、それでもアンコは大蛇丸を心から慕っていた。

 

 

「先生、これ、あげる」
「・・・またやったの」
「うん。でも、今度は上手くやったよ。見つからなかったもん」
大蛇丸にあめ玉を一つ渡しながら、アンコは得意げに言う。
また、というのは当然、万引きのことだ。
アンコは他にも無銭飲食やスリまがいのことなどいろいろ悪事を働いていたが、大蛇丸に叱られたことはなかった。

「あんた、悪いことが好きなの」
「別に、好きってわけじゃないけど・・・」
少しは気が咎めるのか、アンコはもじもじと言いにくそうにする。
「何か、普通じゃつまらないから」

 

暫くの間、何かを思案していたかと思うと、大蛇丸は膝に乗っていたアンコを自分の隣りへと移動させた。

「今日から、新しい術を教えてあげる。そして、私の仕事を手伝ってもらうわ」
瞳をまっすぐに見据えられたアンコは、驚きに目を見開く。
仕事というのは、おそらく任務以外の、大蛇丸の私用だ。

「それって、悪いことなの」
「嫌?」
「ううん。やる。先生のためなら、何でもやるよ!」
瞳を輝かせるアンコに、大蛇丸も頬を緩ませる。
目の前にいるのはもう生徒ではなく、新たに手に入った手駒だ。
どんなに役立たずでも、仕込めば多少は使い物になる。

「良い子ね」
大蛇丸はアンコの頭を優しく撫でる。
続く「馬鹿だけど」の言葉は、大蛇丸の口から出ることはなかった。


あとがき??
アンコさんちは、父は飲んだくれで、母は家を出ていったという設定。
よって、非行少女をやっていたようです。自分を見て欲しくて。
大蛇丸は、音忍があんなに慕っていたんだから、ちょっとは優しいところもあったのかなぁと。全て、計算ずくだとしても。
何か、ロリっぽいんだけど大蛇丸がオカマ口調だからわけの分からない話になってしまったよ。
この二人はベタベタしてるのが好きです。

アンコさんは捨て駒にされる前まで、いや、捨て駒にされた後も、ずっと大蛇丸のこと好きだったと思うんですけど。
だからこそ、置いて行かれたのを怒ってる。大蛇丸を殺そうとするのは、里のためではなく、私怨です。
すみませんね、オリジナルで。(笑)
最初で最後のオロアン。楽しんで書けました。


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