先に手を離したのは、ボクの方だった。


成績優秀で、何をやらせても並以上の成果を出す兄。
幼い自分にとって、何でも出来る兄は神にも等しい存在だった。
兄に姿を見付ければ始終ついて歩き、何かと兄のマネをする。
5つも年の離れた弟は、おそらく邪魔以外の何ものでもない存在だったろうに、兄はいつでも自分に優しく接してくれた。

大袈裟に笑うことはなく、兄はいつも静かな微笑を自分に向ける。
その兄が、全く笑わなくなったのは。
自分を疎むようになったのは、いつからだったか。

 

 

 

「今日は、どんな任務だったの!!」

期待を込めて訊ねる自分に、兄は困ったような顔をして自分を見詰める。
異例の出世をした兄が、火影直属の精鋭部隊に入ったことは、一族の自慢の種だった。
そのことを、自分も我がことのように喜んだし、兄も当然誇らしく思っていると信じて疑わなかった。

「今日は、掃除の任務だよ」
「えー、昨日もそんなこと言ってたじゃないか」
「・・・うん」
「年末の大掃除じゃないし。今、引越しの多い時期だったっけ?」

首を傾げる自分の頭を、兄はいつものように撫でてくれた。
暖かな掌の感触が嬉しくて、顔が自然と綻ぶ。

 

兄の顔を見上げようとした、そのとき。
鼻についた、錆びた鉄のような匂い。
ほんの微かなものだけれど、確かに、兄の体から香るそれ。
分かった瞬間に、自分は思わず兄の手を払いのけていた。

 

「血の、匂いがする」

このとき自分は初めて、兄に対して、怯えた眼差しを向けた。
怖かったのは兄ではない。
子供の自分には、血、そのものが恐怖の対象だった。
だけれど、兄にそのことは伝わらなかったのだろう。

 

凍りついた兄の顔を、自分は一生忘れない。

 

 

以来、兄は自分のことを、遠ざけるようになった。
とくに、自分が触れようとすると、兄は飛び退くようにして体を引く。
やがて兄は自分だけでなく、家族を、近づくもの全てを避けるようになった。

何か、考え事をしていることが多くなったと思った矢先。
おとずれた、一族の悲劇。

 

 

あのときのことが、全てとはいえない。
でも、兄が心を閉ざすきっかけを作ったのは、確かに自分だった。

自分が兄を追うのは、復讐のため。
そして。

贖罪のため。


あとがき??
最初で最後のサスケ+イタチ話。
元ネタは、『KAMUI』かなぁ。
イタチ兄が暗部に入ったのって、いくつのときなんですかね。
13歳で分隊長だから、10、11歳くらいかな。

掃除屋ってのは、殺し屋のこと。
だから、イタチ兄は遠まわしに任務内容を掃除と言ったのです。
そして、兄にはそうした仕事は向いていなかった。
心の拠り所に拒まれたと思った彼は、何か別のところに救いを求めたのかもしれない。
贖罪ってのは、一族に対してでもあるし、兄に対してでもある。
オリジナルですみません。


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