ペチカ


「何で急に部屋の掃除なんて始めたんだ」

涼やかな声音に、サスケはぎくりとして振り返る。
扉の前に立っているのは、彼の兄のイタチだ。
イタチは穏やかな笑顔で弟を見つめているのだが、相対するサスケの方はいやに緊張していた。
笑顔のときの彼が一番怖いことを、身をもって知っていたからだ。

 

「秘密の匂いがする」
「・・・・」
「何を隠してるのかな」
「か、隠し事なんかしていない」

目線をそらしたサスケに、イタチの笑みがさらに深いものに変わる。
すなわち、危険信号。

「じゃあ、買い物に行ってきてくれ。ここに書いてあるから」
走り書きしたメモを押しつけるイタチをサスケは睨み付ける。
「今日は演習場に行くって言っていただろ。何でいるんだ」
「その予定だったんだけど、弟くんが何だかそわそわした感じだったから誰か来たりするのかと思ってね」
「・・・」

舌打ちしたいところを、サスケは何とかこらえる。
兄にかなわないと思ってしまうのは、こういうときだ。
どんなときも、するどく、抜け目がない。

 

「いってらっしゃい」

イタチはわざわざサスケが通りやすいように道を空けて言う。
人が来ることを分かっていてやっているのだったら、相当質が悪かった。

 

 

家を出たサスケと入れ違いにやってきたのは、初夏を感じさせるデザインのワンピースを着たサクラだ。
来る途中に買ってきたのか、ゼリーの詰め合わせの袋を手に持っている。
呼び鈴を鳴らす前に、二階の窓から顔を出したイタチに気付いたサクラは嬉しそうに顔を綻ばせる。

「こんにちは」
「サスケなら、いないよ」
訊ねる前に言われ、サクラは眉を寄せた。
「え、でも・・・・」
「約束してた?」
「・・・はい」

イタチの問いかけに、サクラはしょんぼりと肩を落として答える。
元は、サクラが無理に取り付けた約束だっただけに、忘れられても仕方がないと思った。

「鍵、あけるからあがって待ってたら?」
イタチは玄関の扉を指差しながら言う。
ありがたいその申し出に、サクラの顔がぱっと明るくなった。
「有難うございます!!お姉さん!」

 

 

 

「ご、ご、ごめんなさい!!!!」
居間に通されたサクラは、イタチに対して平謝りをする。
顔が似ていることからサスケの家族だとすぐ分かったが、サクラはイタチを一目見て、女性だと思い込んでしまった。
女にしては低めの声だと思ったが、彼ほどの美形なら少しも不自然ではない。

「気にしてないから。お茶、どうぞ」
イタチはさして怒った様子もなく、サクラに席につくよう勧める。
女顔のせいで、幼いころから少女に間違えられていた彼にしてみれば、たいしたことではない。
さすがに、最近ではそうした勘違いも少なくなったのだが。

 

「君はサスケの彼女?」
「め、滅相もない!!私は取り巻きの一人です!!!」
手を横に振りながら力強く言ったあと、サクラは小さな声で付け加えた。
「そうなら、いいなって、思いますけど・・・」
正直に本音をもらすサクラに、イタチは頬を緩ませる。

「弟はよくもてるみたいでね。君みたいな子がたまに家の前をうろうろしてるんだ」
「え!!?」
「でも、中にまで招かれたのは君だけだから、期待していいと思うよ」
思いがけない言葉に、サクラはごくりとつばを飲み込んでイタチを見上げる。
彼はごく真面目な表情だ。

「あの、本当ですか」
「ああ」
思わず身を乗り出したサクラの手をイタチが掴む。
「弟とオレの好みはよく似てるから、大丈夫だよ」
「・・・は?」

 

首を傾げた直後、サクラは後ろに体を引っ張られ、イタチの手が外れた。
振り向いたサクラの背後には、何やら不機嫌な様子のサスケがいる。

「買ってきたぞ!!『ペチカ』の半額ピロシキ30個!!!」
「ご苦労様」
差し出された重い紙袋を、イタチは悪びれもせずに受け取る。
サクラが登場したことで、また新たに弟をからかう材料ができた。
そして、サクラ自身にも興味がある。

嬉しそうに微笑んだイタチに、サスケは背筋が凍りついたような気がした。


あとがき??
もしイタチが一族を滅ぼさなかったらこんな未来だったのでは、というパラレル話。
兄、別人ですみません!(^_^;)
イタサクサス。リクエストは、クリアしてますでしょうか??

ちなみの、うちの三人。
イタチ・・・サスケ→可愛い弟くん、サクラ→可愛い妹くん。
サスケ・・・イタチ&サクラ→嫌いじゃない、というか好きだけど苦手。
サクラ・・・イタチ→優しいお兄さんv、サスケ→大好きvvv

思えば、誰もいない家にサクラを呼んで、サスケは何をするつもりだったんでしょうね。
・・・・・。
いや、きっと変なこと(?)は考えてないですよ!(汗)お子様だから!!
ちなみにイタチ兄は弟いじめが好きです。性格ひねくれてるので、好きなものほどいじめたくなるんです。
というわけで、サクラもその対象だったりします。前途多難な二人・・・。(笑)
タイトルはとくに意味はないです。響きが可愛かったので。
ピロシキは、『こいつら100%伝説』で極丸さんが買いに行かされたもの。(忍者漫画繋がり?)

80000HIT、吹雪セツナ様、有難うございました。


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