猫、はじめました。


(1匹目)

 

猫を、飼い始めました。
髪と瞳が黒くて、人見知りの激しい雄の仔猫です。
名前はサスケくん。

2丁目のうちはさんちで生まれた猫で、その愛くるしい外見から引き取りたいという人達は沢山いました。
その中から、飼い主の権利を勝ち取った私は、一生分の運を使い果たしたかもしれません。
おかげで、親友のいのとも喧嘩をしてしまいましたが、いいのです。
私は絶対、この仔猫が欲しかったのですから。

 

 

「おいでー」
手招きをしても、仔猫はつんとした顔で通り過ぎようとします。
そんなときは実力行使です。
がばりと抱きつくと、最初は暴れますが、次第に大人しくなっていきます。
ふてくされた顔をしているのは、きっと照れているだけです。
そうに決まっています。
証拠に、仔猫が私に噛み付いたり、爪を出したりしたことはありませんから。

「今日は腕によりを掛けて作ったのよ。食べてねv」
私は既製のキャットフードなどに頼らず、自分で仔猫の餌を作っています。
偉いです。
だけれど、仔猫はいつでも私の作ったものに見向きもしません。
無理に食べさせようとすると、家の外に逃げ出したまま半日は帰ってきてくれないので、結局仔猫のご飯は放置されたままです。
乾いてしまった餌を片付けるときの寂しさといったら、ありません。

 

 

「あんたね、猫に調理済みの熱い餌食べさせようとしても、無理なのよ。猫舌なんだから」

家に遊びに来たいのの言葉に、私は稲妻にうたれたようなショックをうけました。
そうです。
ペットというものを飼ったことがないので、すっかり失念していました。
猫は猫舌。
熱い物は苦手と相場が決まっているのです。

「ど、どうしよう」
「今さら、どうしようもないわよ」
慌てる私に、いのはさらりと言います。

どうやら、いのの情報によると、仔猫は方々に食事をくれる別宅を持っていたようです。
ふらりといなくなるときは、そうした家々で食事をしているのでしょう。
あれだけキュートな見掛けならば、通りすがりの人でも何か食べ物をあげたくなります。

 

旦那に浮気をされた女房のような気持ちでうなだれていると、いのが優しく肩を叩きました。

「大丈夫だってば。あの猫、ちゃんとこの家に帰ってくるんでしょ」
「・・・うん。どこに行っても夕方の5時には帰ってくる」
「あの猫ね、他から餌をもらっても、絶対長居はしないのよ。必ずここに帰ってくるの。あんたのこと、ちょっとは気に入ってるんじゃないの」
その瞬間、微笑むいのの顔が菩薩様のように見えました。

「じゃあ、私の作った山葵とハチミツ入りの鯛焼き風ブーフストロガノフが不味かったから、食べなかったわけじゃないのね!」
「・・・・・」
いのが何やら渋い顔をしていましたが、もうそんなことはどうでもよく思えました。
私のお料理の腕が悪いせいじゃなかったことがわかり、気持ちは晴れ晴れとしています。

 

明日からはよーーく冷ましてから食べさせてあげるから。
待っててね、サスケくんvv

 

 

 

(2匹目)

 

「サクラ、土産だぞーーー」

金曜日の深夜、酔っ払って私の部屋に入ってきたパパは、明かりを付け、ベッドで寝ていた私を揺り起こしました。
これには、一緒に寝ていた仔猫も驚いたようで、パパに向かって唸り声をあげています。
「ちょっと、パパ。何時だと思ってるのよーー」
半身を起こした私も目を擦りながら抗議しましたが、へらへらと笑うパパはまるで気にしていませんでした。
これだから酔っ払いは嫌です。

「そう言うなってー。パパ、せっかくサクラに土産持ってきたんだからぁ」
「え、それって・・・」
どこで拾ってきたのか、パパが手に持っていたのは、薄汚い野良猫。
髪は金で、目は綺麗な青の仔猫です。

一見して、雄猫でしょうか。
顔は、あまり利発そうではないです。
サスケくんとは大違い。

 

「うちにはもうサスケくんがいるでしょ」
「一匹や二匹、変わらないってーー」
「ちょ、ちょっと!」
野良猫を放ってよこしたパパに、私は慌ててそれをキャッチします。
私の腕の中に収まった野良猫は、ひしっと私に抱きつきました。

不思議なもので、一度ぬくもりを感じてしまうと、手放すのは難しいのです。
自分に向かって擦り寄ってくる野良猫が、段々可愛く思えてきました。

 

「どうしよう・・・」
首を傾げて思案していると、それまで黙って傍観していた仔猫が近づいてきました。
そして、私が何か言葉をかける間もなく、仔猫は私が抱えている野良猫をバリバリと引っかきました。
私はただ呆然としてその情景を眺めます。
愛想のない猫ですが、普段大人しい仔猫がそんな乱暴な真似をしたのは初めてなのです。

当然のように、野良猫は毛を逆立て、二匹の猫は喧嘩を始めました。
「きゃー!!やめてーーー!」
見る間に散らかっていく部屋に私は悲鳴をあげます。
必死に止めましたが、二匹は互いにずたぼろになるまで牽制し合いました。

 

割れた鏡や花瓶、破けたクッションやカーテン。
座り込む私の膝に、戦いの勝者となった仔猫がのってきました。
脱力してしまった私は、もうぐうの音も出ません。
明日、この部屋をどうやって片付けよう。

罪のない顔で伸びをする仔猫をしかる気持ちには、どうしてもなりませんでした。
うちの大事なサスケくんは、何で急にあんな癇癪を起こしたのでしょう。
全く、わけが分かりません。
次の朝、パパはこのときのことを全く覚えていないのだから、嫌になります。

 

 

結局、うちに居着いてしまった野良猫は、ナルトという名前を付けました。
不思議なことに、この野良の好物はラーメンなのです。(ただし、猫舌なので冷ましたもの)
パパが面白がってやったラーメンを、野良は非常に美味しそうに食べ、それ以来ラーメン以外食べなくなってしまいました。
パパはよけいなことばかりしてくれます。
野良の名前、シナチクよりは、ナルトの方が、可愛いわよね。

 

 

 

(3匹目)

 

木曜日の古紙回収の日。
家で纏めた古雑誌の束を持って収集場所に行くと、一匹の猫が高く詰まれた雑誌の隙間に挟まっていました。
抜け出せずに困っているのかと思うと、そうではありません。
猫は、なんと紐の緩んだ雑誌類から一冊選び出して、器用にページをめくって読んでいたのです。
しかも、それは私が口にするのもはばかれる、いかがわしい本です。

「エッチ猫ねー」
呆れて言うと、猫は私の言葉が分かったように振り向きました。
髪は白銀とありふれていましたが、目は左右違った色合いの変わった猫です。
どこか眠そうな目で私を見上げていたかと思うと、猫はにっこりと笑いました。
いえ、猫がにこにこと笑うはずがないと思われるでしょうが、確かに、その猫は嬉しそうに笑ったのです。

 

「や、ちょっと、駄目だってば!!しっ、しっ」
私がいくら追い払おうとしても、猫は私の後ろをついて歩いてきます。
「うちにはもう、サスケくんとナルトがいるんだから!!あんたは飼えないのよ!」
厳しい口調で言っても、全然駄目です。
どこふく風といった様子で私の言葉を受け流すと、猫は私に抱きついてきました。

だから、困るのです。
このようになつかれると、手放せなくなってしまいます。
私が動物好きなのを知っての所業でしょうか。
このまま流されてもよいのでしょうか。

 

 

私が見知らぬ猫を連れて帰ると、当然のように、仔猫と元野良猫は嫌そうな顔をしました。
たぶん、縄張りだとか、そういう関係があるのでしょう。
二匹は私にべったりとくっついた猫を威嚇していましたが、猫は全く動じませんでした。
その顔には、余裕の笑みすらあるように思えます。
野良が初めてうちにやってきたときの惨状が思い出され、私はずっとはらはらし通しです。

結局、猫達の喧嘩は避けられないのかと思われたそのとき、信じられないことが起こりました。
私が猫を地に付けたとたん、飛び掛ってきた子猫二匹を、猫はあっさりとのしてしまったのです。
これには、私も開いた口がふさがりませんでした。
何がどうなったのか、肉眼ではとらえられない早業です。

猫がいやに堂々としていたわけが、ようやく分かりました。
もはや大人と子供の猫の差、というレベルの問題ではありません。
私には、猫の背中に「喧嘩上等」の文字が見えるようでした。

 

 

新たに飼うことになった猫には、先生という名前が付きました。
サスケくんとナルトが喧嘩しているときには、必ず仲裁に入って、教育的指導をしてくれるからです。
人間の私では、こう上手くはいかないことでしょう。
仔猫達も、先生には一目置いているようで、逆らうことはありません。

いのが猫を三匹飼い始めたという噂を聞いた私は、さっそくいのの花屋に向かう準備をします。
食いしん坊な仔猫と、いつも寝てばかりいる仔猫、そして、タバコを咥えている変わった猫。
会うのがとっても楽しみです。


あとがき??
猫耳のサスケを書きたかった。それだけ。
しかし書き綴っていたら、いつの間にかこんなに長々しく。ナルトとカカシ先生まで登場して。
暇つぶしストーリーです。
この変な一人称は、嶽本野ばら先生の『下妻物語』の影響もあるような気がする・・・。
いや、それよりも『きみはペット』だろうか。

ここに出てくる猫達は外見も寿命も食べるものも、普通の人間と変わりません。
ただ、耳と尻尾が付いているだけ。
だけれど、サクラ達人間は、彼らをきちんと猫と認識しています。不思議。
可愛がって育てると人間になることもあるので、元ペットを伴侶にしている人は沢山いるらしいです。(←プランツ・ドール的)
いいのか、それで。


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