お日様の当たる場所


今日の授業は、チャクラのコントロールについてだった。
使う道具は、木偶人形。
特異な力を持った職人が作ったもので、人形はチャクラに反応して動くようになっている。
つまり、うまくチャクラを練れる者が扱わなければ、人形は思うように動かない。
詳しい説明の後、一人一人に人形が配られ、生徒達はそれぞれの机の上で悪戦苦闘していた。

お手本の教師の人形は、彼が手を翳すとすぐに動き出した。
30センチほどの人形は教壇の上で一回転をして、生徒達に一礼をする。
その動きはスムーズで、人形が意思を持っているように、実になめらかだ。
だが、生徒達の扱う人形は立ち上がってもどこかギクシャクとして、急に走り出したり、手足が左右逆に動いたり、逆立ち状態になったり。
彼らが人形をきちんと動かせるようになったのは、授業も後半になってからだった。

 

「お前の人形、全然動かないな」

最初から器用に人形を動かしていたヒナタの耳に、あまり気持ちの良くない声が届く。
振り向くと、後ろの席にいる少年が、人形を動かそうと必死になっているのが見えた。
だが、彼の熱意とは逆に人形の方はぴくりとも動かない。

「忍者としての才能がないんだよ。今日中に自主退学した方がいいんじゃないか」

意地悪な声に、周りの男子生徒がどっと沸く。
何となく嫌な気持ちになったヒナタだったが、口には出さなかった。
口べたな自分が、うまく少年の心情をフォロー出来るとは思わなかったから。

 

 

あの少年のことは知っている。
名前は、うずまきナルト。
ヒナタが気付くと、いつも一人でいる子だ。

 

「あの子、親がいないんですって」
「だからあんなに乱暴で行儀が悪いのね」
「うちのママもね、何であんな子がアカデミーにいるのかしらっていつも言ってる」

ナルトを遠巻きに眺め、ヒナタの友達の少女はくすくす笑いで囁き合う。
たぶん、他のクラスメートも皆同じように思っている。
だから、誰も彼に近づかない。

友達の言葉に曖昧に応えながら、ヒナタは不思議に思う。
どうして、彼女達は笑ってそんなことを言えるのだろう。
ひとりぼっちの彼は、いつでも寂しそうな目をしているのに。
ぽつんと佇む彼の姿は、何となく、家族に顧みられなくなった惨めな自分と重なって見えた。

 

 

 

その日の放課後、ヒナタはアカデミーの中庭に向かって歩いていた。
図書館の二階の窓からちらりと見えた、金の髪。
遠目にはっきりと判断できないが、おそらくナルトだ。
中庭で一体何をしているのか、とても気になる。

 

「えいっ!くそっ」
近くまで行くと、何事か発破を掛ける声が聞こえてきた。
木陰からこっそりと覗くと、芝生の上で一生懸命に人形に向かうナルトがいる。
おそらく、授業で使った人形を借りてきたのだろう。

「何で動かねーんだよーー」
泣きの入った声で言うと、ナルトはその場でごろりと横になる。
手に持っていた人形も放り出してしまった。

 

そのまま暫くの間見守っていたヒナタだったが、ナルトが起き出す気配はない。
眠ってしまったのかと、恐る恐る顔を出すと、ナルトはすぐさまヒナタの方へ顔を向けた。

「誰だ、お前」
「ひ、日向ヒナタ。同じクラスの」
「ふーん・・・」
もじもじと答えるヒナタをつまらなそうに見ると、ナルトは視線を上空へと移した。
雲一つない空は、ぬけるような青さだ。
居残り勉強さえなければ、アカデミーなどに長居はせずに遊びに行っている。

ヒナタの方はというと、所在なげな様子で、ナルトの半径3メートルをうろうろと歩いていた。
同じクラス、今日などすぐ近くの席にいたのにまるで存在を知られていなかったのが悲しい。
とはいえ、このまま黙って去るのも妙な気がする。

 

「・・・おい、お前」
「は、はい」
「同じクラスなら、今日の授業も出てたよな」
「うん」
ヒナタが答えるなり、ナルトはがばりと半身を起こす。

「お前、今、暇か?」
「え、う、うん」
「じゃあ、ちょっと手伝ってくんない?俺さ、どうもチャクラのコントロールってやつが上手くできないんだ」

 

 

 

結局、ナルトが人形を動かせるようになったのは、日が暮れ始めた頃だった。
校舎にはもう人気がなく、そろそろ人形も返却しなければならない。

「もっとくるくる回したりとか、出来るかと思ったのに・・・」
「でも、ちゃんと歩いてる」
今まで付きっきりでアドバイスをしていたヒナタは、我が事のように喜ぶ。
手を叩くヒナタに、すねた顔をしていたナルトも少しだけ笑顔を見せた。

「ナルトくんは、凄いね」
「何だよ、急に。すぐに動かせたお前の方が凄いだろ」
首を振ったヒナタは、何も言わずに、ただ微笑を返した。
器用な人、不器用な人。
それぞれいるが、後々になって実になるのは、努力をしながら少しずつ覚えていった人の方のような気がする。
今の、ナルトのように。

 

「変な奴。お前の名前、ヒナタだっけか」
「うん」
「良い名前だな。お日様の当たる場所だ」

そう言って笑うナルトの髪は、夕日を浴びてきらきらと輝いて見える。
彼はどんなときも笑顔で、前に進むことを恐れない。
周りに馬鹿にされても諦めずに立ち向かい、成し遂げてしまうその姿に、少なからず感動する。
今日一日彼を見ていて、ヒナタは自然と、自分も頑張ろうという気持ちになった。

笑顔のナルトを見詰めながら、自分が日の当たる場所なら、ナルトは太陽の光そのものではないかとヒナタは思った。


あとがき??
たぶん最初で最後のナルヒナというか、ヒナナル。
書けて良かったです。
うちのナルト、「〜だってばよ!」はあんまり言わないです。(^_^;)つ、使いにくいんだもん。
すみませんね、別人で。
ヒナタちゃんはナルトを好きだと自覚する前だから普通に喋れてるみたいです。


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