サクラの人形


「ナルト!あんたまた家の鍵無くしたんですってね!!」
「・・・うん」
サクラの怒声に、ナルトはしょんぼりと俯く。
うっかり者のナルトは、よく物を無くす。
何処に落としたのか、鍵を無くしたのは今月で二度目だ。

「もう鍵は付け替えたんでしょ」
「うん、これ」
「あんた、こんな小さいキーホルダー付けてるから駄目なのよ!もっと目立つもの付けておきなさない」
断定的に言うと、サクラはナルトの手から鍵を奪い取り、自分が持ってきた、何か大きな物を取り付けた。
鍵をナルトの手に戻したサクラは、満足そうに頷く。
「完璧」

ナルトは目を丸くして手の内にある鍵を見つめた。
ナルトの鍵に新たに付けられたのは、ナルトを模した小さな人形。
手のひら大で、鍵に人形が付いたというより、人形に鍵を付けたという感じだ。
確かに、これなら落ちてもすぐに分かるだろうし、拾った者も一目で誰が落としたのか分かる。

 

「うわー、これ、俺――!!?」
「あんた以外、誰なのよ。私の手作りなんだから、無くさないように注意しなさいよ」
「有難うー!」
人形を片手に、ナルトは瞳を輝かせてサクラに礼を言った。
ここまで喜ばれれば、サクラとしても本望だろう。

「どれどれ。俺にも見せてよ」
「ん」
俺が手を差し出すと、ナルトは人形付の鍵を上に乗せた。
縫い目は粗いが、ナルトの特徴はきちんと掴んでいて、なかなかよく出来た人形だ。
「俺にはないの?」
もちろん、期待していたわけでなく、冗談のつもりで言ったのだけれど、サクラはすぐに鞄を探り出した。

「先生のもあるわよ!欲しければ、あげる」
自分の人形を押しつけたサクラの指先は、所々絆創膏が貼られていた。
最近、随分眠そうだと思っていたが、これが原因で夜更かしをしていたのだ。
「・・・俺、もっと格好良いと思うんだけど。これ、ちょっと足短くない?」
「丁度良いでしょ」
少しばかり不満を漏らすと、サクラは笑いながら言った。

サクラが鞄を開いた際に、ちらりと黒髪の人形が見えた。
おそらく、不公平にならないようナルトとサスケ、両方の人形を作ったのだろう。
それに自分も混じっていたことが、ちょっと嬉しかった。

 

「サスケくんも欲しい?」
「いらん」
笑顔で問い掛けるサクラに、サスケは即答する。
だけれど、サクラもそこは慣れたもの。

「ごめんねー。サスケくん人形は、私専用なの。だから、サスケくんにはサクラ人形をあげるね」
「いらんと言っているだろうが!!!」
サスケの背後に回ったサクラは、サスケが背負う鞄に自分に似せて作った人形をくくりつける。
サスケの鞄で揺れるにこにこ顔のサクラ人形は、サクラの心情そのものようだ。

「おい、捨てるぞ!!」
「人形のスカートめくっちゃ嫌だからね」
人の話を聞いていないのにもほどがあるが、サクラはサスケの怒声などまるで気にしていない。
すっかり腹を立てているサスケを横目に、これはサクラに軍配が上がったかなぁと思ってしまった。

 

 

 

サクラへの感謝の気持ちを含めて、任務の帰りに下忍達を連れて“一楽”へ寄った。

サクラのラーメン代は、俺とナルトが分担して払う。
俺がナルトの分も全部払うと言ったのに、ナルトが聞かなかったからだ。
妙なところで、意地が働いているらしい。
ちなみに、サスケの奴は俺達と馴れ合うのが嫌らしく、とっとと帰ってしまった。
全く、あいつの協調性のなさも、何とかならないものか。

 

「サクラちゃん、俺一生大事にするよ!」
別れ際、サクラに対して力説するナルトに、彼女はくすくす笑いで応える。
「そんな、大袈裟なこと言わなくてもいいわよ」
「うん。でも、本当に大事にする。もう鍵は無くさない」
「約束ね」
にっこりと微笑んだサクラに釣られて、ナルトも嬉しげに笑う。

手を振りながら去るナルトを見届けると、サクラは俺の方へ顔を向けた。
「先生も、大事にしてよね。三日間、徹夜して作ったんだから」
「んー、でも俺の顔はもうちょっとシャープじゃない?」
「まだ言ってる」
頬を膨らませたサクラに、俺は笑い声を立てた。
「嘘、嘘。有難うな、サクラ」
サクラの頭を乱暴に撫でると、彼女は迷惑そうな顔をしたが、口元は僅かに綻んでいた。

 

 

俺がそれを見付けたのは、サクラと別れて数歩行ったところだ。
ゴミの収集場所にある、ポリバケツの上。
ピンクの色の人形が、ぽつんと置かれている。
見覚えのあるその人形を摘み上げると、間違いなくサクラ人形だった。
少し泥の付いた頭部を叩くと、俺の口からは自然とため息がもれた。

「まさか、本当に捨てるとはね・・・」

サクラに人形を無理に渡され、顔をしかめていたサスケが思い出される。
確かに、サスケの家の道筋はこの方角だ。
不器用なサクラが徹夜して作ったことを知っているだけに、にこにこ顔のサクラ人形が、俺の目に妙に寂しく映る。

 

これは、サクラには言えないなぁと思って頭をかいていると、薄暗い道を向こうから歩いてくる人影があった。
側にある電灯を頼りに目を凝らすと、それは少年だと分かる。
自分の生徒の。

「サスケ?」

自分のすぐ足下まで来たサスケは、じっと俺を凝視した。
そして、俺が持っていたサクラ人形を有無を言わせず奪い取る。
呆然とする俺を一睨みしたサスケは、無言のまま、もと来た道を戻っていった。
言葉もなくその後ろ姿を見送った俺は、数秒経過して、ようやく状況を理解した。

「落とした、のか?」

捨てたのではなく。
そうして、のこのこと人形を探しにやって来たところを自分に見られて、照れていたのかもしれない。
あの突っ張った行動は。

 

 

「・・・・何か、可愛いよなぁ」

全てを悟った俺は、何だか笑ってしまった。
7班全員分の人形を手作りしたサクラも。
サクラに人形を貰って満面の笑みを浮かべるナルトも。
人形を探しに戻ってきたサスケも。
それぞれ、みんな可愛い。

サスケの消えた道を眺めながら、自分が気付かないだけで、十分に協調性のある班なのかもしれないと思った。


あとがき??
以前扉絵で、サクラが人形を作っていたので。
それとは別の人形なのですが。
リクはカカシ視点のナルト→サクラ←サスケだったのですが、微妙な感じが・・・・。

くじら様、92892HIT、有難うございました。


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