浴衣掛け


「何が気に入らないのよ!こんなに可愛いのに」

癇癪を起こしたテマリは、大きく声を張り上げた。
何の騒ぎかと駆けつけたカンクロウは、睨み合うテマリと我愛羅の間に慌てて割ってはいる。
「何やってんだ」
「これよ、これ」
興奮冷めやらぬ様子のテマリは、一枚の紙切れをカンクロウに突きつけた。

『木ノ葉隠れの里 納涼花火大会』の宣伝のチラシ。
毎年8月の末に行われ、夏の終わりを締めくくるビッグイベントだ。
丁度木ノ葉隠れの里に滞在していることもあり、テマリは兄弟そろって参加するつもりだったのが、大会当日の今日になって我愛羅が急にごねだした。
発端は、テマリが花火大会用に夜なべをして作った浴衣にあった。

「俺はそんなものは着ない」
我愛羅は不機嫌そうに顔を背ける。
テマリの顔は一層強張ったが、カンクロウには弟の気持ちが分かる気がした。
テマリの手作りの浴衣には、“ハブとマングースと金魚の戦い”という奇妙な絵がプリントされていた。
この奇抜なデザインを可愛いと言ってのけるセンスがどうにも理解できない。

「まぁ、着たくなかったら着なければいいいし、肝心の花火大会には行く気があるのかよ」
「興味ない」
旋毛を曲げてしまった我愛羅は、部屋の隅でごろりと横になる
「もー、そんなこと言ってると本当に置いていくからね!」
テマリが怒鳴りつける隣りで、足下に置いてあるもう一つの浴衣、ウツボカズラとラフレシアの柄のものは自分用なのだろうかと冷や冷やするカンクロウだった。

 

 

 

 

「ねぇ、カカシ先生。あれ、砂の人達じゃない」
「本当だ」
サクラの指差す方向を見たカカシは、花火見物の客の中に知った顔を見付ける。
「・・・・どこで売ってるんだろう、あの浴衣」
「・・・・木ノ葉隠れでは見たことないわね」

カカシとサクラのみならず、周りにいる人々の目はインパクトのあるテマリとカンクロウの浴衣に釘付けだった。
おどろおどろしい植物と奇怪な顔をした深海魚の浴衣が並んでいると妙に目立つ。
もう暫く眺めていたい気持ちだったが、花火の会場に向かう人の波に紛れて、すぐに彼らの姿は見えなくなった。

「それより、みんなはもう集まったのか」
「ああ、うん。いのは少し遅れるから先に行ってもいいって言ってたし、あとは8班も10班も全部来てる。いないのは・・・・サスケくんだけね」
「しょーがないな、あいつは」
ため息をついたカカシはぼやくように言う。
サクラの誘いで同期の下忍達は揃って花火を見物をすることになったのだが、いい返事をしなかったのはサスケだけだった。
カカシは子供だけのグループの引率係だ。

 

「でも、ナルトもいないぞ」
「あの子が一つの場所でじっとしてるわけないじゃない。みんなが集まるまでの時間つぶしに、あそこの屋台で遊んでるわ」
言った直後に、屋台から出てきたナルトがサクラのいる方に向かって走ってきた。
両手には、射的で当てた景品と見られる熊のぬいぐるみを二つ持っている。

「サクラちゃん、これ、あげる」
満面の笑みで差し出されたぬいぐるみを、サクラは有り難く受け取る。
「あんた、こういうの得意なの?」
「ううん。外してばっかでむかついたから、30回連続してやった」
「・・・・馬鹿ね」
使った金を考えれば、このようなぬいぐるみは5つくらい買えそうだ。
だが、景品が取れるまでむきになって挑戦し続けるのは、諦めの悪いナルトらしかった。

「それで、これはヒナタの分!」
ナルトはもう一つのぬいぐるみを、後方にいたヒナタに放ってよこす。
「え、え、私に?」
「だって、射的やってる間中ずっとこっち見てただろ。俺が狙ってた熊が欲しかったのかと思って」
きょとんとした顔のナルトに、ヒナタの顔はみるみる赤くなる。
見ていたのはぬいぐるみではなくナルトなのだが、そんなことは言えない。

「あ、有難う。一生大事にするね」
「・・・いや、そんなたいしたもんじゃないし」
はにかみながら礼を言うヒナタに、ナルトはどこか嬉しそうだ。
ヒナタの気持ちを知るものは微笑ましくその光景を眺めていたが、当の本人達は全く気付いていなかった。

 

「あ、サスケ」
「え!!!?」
移動を始めようとした矢先、チョウジの声に反応したサクラは、すぐに振り返る。
人混みの中、仏頂面で歩いてくるのは、確かにサスケだ。
そして、彼の手を引いているのは、浴衣姿のいの。

「い、いの、何で」
「サスケくんが花火大会になんて来るわけないでしょ。迎えに行くつもりだったから、遅れるって言ったのよ」
からからと笑ういのに、サクラは目を丸くした。
「どうやって、サスケくんを家から連れ出したのよ」
サスケを横目で見ながら、サクラはこそこそといのの耳元で囁く。
「家の前でサスケくんの名前を大声で連呼してたらすぐ出てきてくれた」
「・・・・・」
強引ないのならではの手段だった。

 

 

こうして何とかメンバーが揃い、彼らはぞろぞろと花火の会場へと向かった。
その道すがら、サクラはそっとカカシに近づく。

「先生、私さ、正直言うと意外だったんだ」
「何が?」
「カカシ先生、こういう人が沢山集まるところって苦手じゃない。何で引率を引き受けてくれたの」
「あーー」
サクラの疑問に、カカシは何故か笑顔になる。
「サクラの浴衣姿が見たいなぁと思って。その緑の浴衣、似合ってるね」

頬を染めたサクラは、傍らにあるカカシの手をぎゅっと握る。
着付けをした母が褒めてくれたときの、何十倍も嬉しい気持ちだった。

 

 

 

 

木ノ葉隠れの里の花火大会は、派手な宣伝の通り、見事なものだった。
打ち上げられた花火が、途中で色を変え、形を変え、観客の目を楽しませる。
鮮やかな空の花に、テマリとカンクロウはすっかり魅せられていた。
あまりの人の多さに、会場に来るまでにかなり体力を消耗したが、その疲れも吹き飛んでしまう。

 

花火大会も佳境に入った頃、ふとテマリの頭をよぎったのは、弟の我愛羅のこと。
一人寂しく、宿に残っている彼のことを思うと、胸が痛くなる。
沈んだ表情のテマリが、少しばかり面を伏せたときだった。

彼女の視界の隅に入った、ハブとマングースと金魚。
「あ!!」と声を上げたテマリに釣られて、カンクロウも顔を横に向ける。
だが、テマリが瞬きをした瞬間に、ハブとマングースと金魚はどこかに消えてしまっていた。

「何だよ」
「い、今、我愛羅の浴衣が見えた気が・・・・」
「気のせいだろー。人が沢山いるし、見間違えたんだよ」
「でも」
言い募ろうとしたテマリだったが、ほんの一瞬のことで、あれが我愛羅だったかどうかは自信がなかった。

 

 

花火終了後、宿までの道を歩きながら、テマリは目撃した我愛羅のことを考えていた。
テマリが見る限り、同じ柄の浴衣を着ている者は花火会場にいなかった。
だが、あれだけ嫌がっていた我愛羅が浴衣を着て花火を見に来たとは思えない。

悶々と悩んだテマリは、宿に戻るなり我愛羅の部屋へと直行した。
扉を開くと、出かけるときに見たのと同じ位置で我愛羅が横になっている。

拍子抜けしたテマリがその場に座り込むと、後ろにいるカンクロウが、何かを目で訴えているのが見えた。
その視線の先には、れいのハブとマングースと金魚の柄の浴衣。
下手な畳み方をされたそれは、誰かが一度袖を通した証拠だ。

何となく顔が綻んでしまったテマリだったが、気難しい弟の神経を逆撫でしないよう、笑い声を立てることはなかった。


あとがき??

ウツボカズラ・・・食虫植物
ラフレシア・・・大きいものだと1m以上になる、異臭を放つジャングルの花
深海魚・・・水深200m以深の海中に住む魚。チョウチンアンコウ、ハダカイワシ、等々
ハブ・・・猛毒を持つ蛇
マングース・・・ネコイタチ
金魚・・・観賞用淡水魚

 

・メインとシメが我テマ
・ナルヒナ・カカサクがいて、あといのサス
etc...たくさんのCPが出演する夏祭り(花火)
・ラブラブSSをお願いします☆

とのリクでしたが、我愛羅くんが苦手なために、あまり登場させられませんでした。
どうも、彼はサスケと性格がかぶるので。(^_^;)
通常サクラ受以外のリクは受け付けていないのですが、一応、おっしゃったカップリングはほぼ書いたつもりです。
でも、沢山のカップリングが出てくると話が途切れて不自然な流れになってしまうため、あまりラブラブにできませんでした。
長い間お待たせして、すみませんでした。

110600HIT4869様、有難うございました。


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