無意味の意味


 「ピクニックに行きましょう!」

それはサクラの一言から始まった。
サクラは次の休みに7班の皆でピクニックに行く計画を立てたのだ。
ご丁寧に『旅のしおり』と書かれた冊子まで用意してある。
「はい、これ」
サクラは冊子を配り終えると満足そうに微笑んだ。
「集合は9時よ。遅れた人は罰金だからね」

突然のことに唖然としていた一同はサスケの言葉で我に返る。
「俺は行かないぞ」
厳しい声音で言ったのだが、サスケの冷たい態度に慣れているサクラは動じない。
「何で」
意外そうな顔をするサクラをサスケは軽く睨むようにして見る。
「今は遊んでる場合じゃないだろう。もっと自分の技術を磨くために」
「いいじゃん。一日くらい」
長くなりそうなサスケの口上をカカシが遮る。
「そーだってばよ。せっかくサクラちゃんがこんなに準備してくれたのに」
サクラ自作の冊子に目を通していたナルトは、きっちりとタイムスケジュールが決められているページを広げてサスケに抗議する。
二人の非難の目にたじろいだサスケは、カカシのとどめの言葉に反論できなくなった。
「上忍命令」
にっこりと笑うカカシと不機嫌そうなサスケ。
サクラとナルトは互いに目を合わせて笑った。

 

その日は朝から快晴。
アウトドアには絶好の日よりだ。

「わぁー。凄い!」
「ね、いいところでしょ」
感嘆の声をあげるナルトに、サクラは相槌をうつ。

眼前に広がる花畑。
色とりどりの花が咲き乱れている。
側にある小川のせせらぎが耳に心地いい。
ナルトはさっそくレンゲの花に近づいてその匂いを確かめていていた。

サクラな小さな花を摘み取ると、手早く編みこみを作りナルトに見せる。
「これはね、こうして繋げていって首飾りとか、冠とか作れるのよ」
サクラの手元を見たナルトは興味を示した。
「へー。俺もやるってばよ」
見よう見真似でサクラと同じように花を編んでいく。
そして、ナルトが自分よりも綺麗に花を編めたことに、サクラは動揺を隠せず目を瞬かせる。
そのうち誰が一番早く花を編めるかという競争になった。

意外なことに、7班の中で誰よりも上手く花を編んだのはサスケだった。
「なんで、なんでー」
サクラは目を丸くしてサスケを見ている。
元々手先は器用な方だったが、幼い頃母に教えてもらったことがあるのが原因だ。
競争をしようと言い出したものの、いいところ無しの自分にサクラはがっくりと肩を落としている。

「女の子の私が一番下手だなんて、ショックだわ」
しょんぼりとするサクラの頭にふわりと何かがかぶさる。
驚いたサクラが頭に手をやると、花で作った冠がのっている。
「やる」
サクラの傍らには頬を染めてそっぽを向いているサスケ。
驚いた顔でサスケを見詰めていたサクラは、すぐに嬉しそうに顔を綻ばせた。

結構やるなぁと口笛を吹いたカカシの横で、ナルトが悔しそうにサスケを睨んでいる。
「ぬけがけしやがって。俺だって負けねーぞ」
嫉妬のこもった視線を、サスケはもちろん歯牙にもかけない。

 

日が高くなり、皆の腹がすく頃にようやく昼食タイム。
サクラはちゃんと昼食用の食材を用意してきたが、さらに魚を加えて調理しようということになった。
折りよく小川を少し下ればすぐに本流となる。

だが、釣り糸をたらしてもなかなか魚はかからない。
業を煮やしたナルトが川に飛び込んで魚を素手で捕まえようと躍起になっている。
「馬鹿。お前、それじゃよけい魚が逃げるぞ」
呆れたように言うカカシに、ナルトはむきになって魚を追いかけていた。
その様子を笑って見ていたサクラは、木陰で座りながら自分達を眺めているサスケに気付いて歩み寄る。

「疲れた?」
「別に」
サスケは相変わらずつれない言葉を返す。
サクラは構うことなく喋りつづけた。
「サスケくんさ、いつもつまらなそうな顔してるよね」
唐突なサクラの物言いに、悪かったな、というようにサスケが顔をしかめる。

「サスケくんがつまらなそうな顔してるのは本当につまらないからだと思ったの。だから楽しい時は楽しい顔になるかなって思って今日のピクニックを計画したんだけど」
言いながらサスケの隣りに腰掛けたサクラは、サスケの顔を覗き込むようにして見る。
「良かった。ちゃんと楽しい顔になってるよ」
その視線に、サスケは無言でサクラから顔を背けた。
川辺からナルトとカカシの笑い声が響いてくる。
「楽しいよね」
返ってこない返事を気にした風もなく、サクラは微笑んで言った。

やがて魚の入ったバケツを片手にカカシが小走りに二人に近寄ってきた。
「あれ、うちのお姫様は寝ちゃったの」
「ああ」
葉擦れの音と涼やかな風に眠気を誘われたのだろうか。
いつのまにやらサクラはサスケの肩に寄りかかってすやすやと寝息をたてている。
カカシはため息をつきながら言った。
「しょうがないな。サクラは場所を選ばないで寝入っちゃうから。この癖を早くなおすように注意しなきゃね」
サスケはカカシのその言葉に違和感を感じる。
少なくとも任務で一緒にいる間、サクラが居眠りをしているのを見たことはなかった。
「いつの話だ」
問い掛けるサスケに一瞬驚いた顔をしたカカシは、にやりと笑って答えた。
「内緒」

 

サクラの決めたスケジュール通り、暗くならないうちにピクニックはお開きになる。
帰り道、カカシは川でナルトと捕まえた魚を下忍達に均等に分配した。

家に戻ったサスケはさっそくその魚を夕食用に調理する。
そして一人食卓で食べた魚は、不思議な事に皆で食べた時より味気なく感じた。
同じ時に釣った魚。
鮮度が違うといったことはあるだろうが、多分それが原因ではない。

『楽しいよね』

思い出す、サクラの言葉と笑顔。
そして、何かと自分にかまう、煩い7班の面々と過ごした一日。
苦笑したサスケは小さく呟いた。
「そうだな」

全く無意味だと思っていた仲間との交流の時間。
だけれど、この世に無意味なものなんてないのかもしれない。

それはサスケが7班の仲間を自分にとってかけがいのない存在だと認めた最初の瞬間だった。


あとがき??
カップリングなしの話って初めてじゃないかな。
さりげなくカカサク(サスサクも?)入ってますけど。(笑)
珍しくサスケが出張ってるなぁ。ビックリ。というか、これはもしかしてサスケの話?
仲間思いの優しいサスケくんに、いろいろ想像してみました。


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