きみがいない日


目を覚ますと、病室でした。
お医者さんと看護婦さん、その他数人の人達が心配そうに私を見詰めています。
よほど長い間眠っていたのでしょうか。
身体全体がだるく感じられ、喋ることも億劫でした。
頭に鈍い痛みを感じ、手をやるとそこには包帯の感触。

「この指は何本に見えますか」

奇妙なことを訊かれる。
目の前には、お医者さんの指。

「・・・・三本」

答えると、その場にいた一同がホッとした顔をしました。
休むことなく、次の質問。

「自分の名前を答えることが出来ますか」

どうして、さっきから当然のことばかり訊くのだろう。
変なの。
自分の名前を知らない人間がいるはずがない。
名前はその人自身を表すもの。
名前がなければ、その人は存在しないと同じ。

名前。

名前。

先ほど感じた頭痛が、段々と酷くなってきました。
考えれば考えるほど、頭が真っ白になっていくような気持ちがします。

困ったわ。
当然な質問と思っていたのは、勘違いだった。

「分かりません」

皆があまりに絶望的な顔をするものだから、私はそんなに酷いことを言ったのだろうかと落ち込んでしまう。
本当のことなのだから、しょうがないのに。

私は一体誰なのか。
全く思い出せません。

 

ふいに、鋭い視線を感じ、私はその人の方に顔を向けました。

でも、目線はすぐに逸らされます。
だって。
彼の眼があまりに悲しげで、到底正視することが出来なかったから。


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