きみがいない日 第三章


名前を呼ばれました。
彼に。

不思議です。
まだ、無くしてしまった自分の名前を聞く前だったのに、確かにそれは私の名前だと分かりました。
もしかしたら、どんな名前でも良かったのかもしれません。
あながた呼んでくれるなら。
それが、私の呼称になる。

無意識のうちに、ある単語が私の口から出ていました。
それは、人名。
自分のことを、何一つ覚えていないというのに、すんなりと出てきたその名前。
多分、思い出すことの出来ない自分の名前よりも、大切な。

 

瞬間。
驚いたあなたの顔が、嬉しそうに綻んだかと思うと、その瞳から涙が落ちました。

綺麗。

どんな宝石であろうと適わない、雫の美しさに、私は息をのみました。
だけれど、泣いているあなたを見ていると、切なくて苦しくなる。

あなたがこんなにも愛しいのは、私が以前からあなたを愛していたからなのでしょう。
あなたの想いが、あなたへの想いが、私の記憶を遮っている壁をゆるやかに溶かしていきます。

覚醒の日は近い。
私は自覚します。
自分のことなので、よく分かるのです。

叶う事なら。
記憶が戻る日には、あなたを抱きしめることが出来るくらい身体が回復していると良いのですが。


あとがき??
うは。人名出てきてない!言わなきゃNARUTOだって分からないな。
またまた短時間で書き上げた。
同じ状況でも、三者三様の考え方が出来るなぁと楽しんで書きました。
さて、あなたは三人の中から誰を選んだでしょうか。
私のお気に入りは、意外にもあの人なんですけど。(笑)

桃川春日子先生の『エレクトリック・マーメイド2』を読んで思いついた話。
記憶の初期化という話から。


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