天然媚薬少女 T


その日サクラはオープンカフェのテラスでアフタヌーンティを満喫していた。
女の子が大好きなケーキ類が充実している店で、雑誌にも何度も特集されている。
本来なら友達と二人で来る予定だったのだが、彼女は都合で来ることが出来なくなった。
よって、サクラは一人で茶を啜っているという状況だ。

「あーあ。いくら美味しくても一人じゃ味気ないわよねぇ」
サクラはため息とともにフォークでケーキを突付く。
気候はちょうど暑すぎず寒すぎずで、外出するのに丁度いい。
サクラの周りの席や往来の人々もカップルがいやに目に付いた。

サクラは、どうやっても視界に入る、向かいの席のカップルを見ながら呟いた。
「いつか私もサスケくんと二人でお茶したいな」
儚い夢に、サクラは我ながら情けなくなってくる。
今のところ、全く見込みはないということを、自分でもよく分かっているのだ。
寂しい気持ちでカップを手に取ったサクラの耳に、ふいに人の呻き声らしきものが聞こえた。
楽しげな会話がちらほらと聞こえる店内に、あまり似つかわしくない、苦しげな声。
聞き間違いかとも思ったが二度目の声は、はっきりと聞き取ることが出来た。
それはサクラのすぐ足元付近から聞こえた。

瞬時に顔色を青くしたサクラは恐る恐る下方を見やる。
サクラの座る椅子の真下に、人が倒れていた。
サクラは思わず出掛かった悲鳴をなんとかのみこんで口元に手を当てた。
ここでサクラが喚けば、店内は一気にパニックだ。
そうなれば、怪我人も出るかもしれない。
まだサクラ以外に異変に気付いた者はいないようだ。
まさか、死体じゃないわよね。
深呼吸して気分を落ち着かせたサクラは、屈みこんでその人に触れる。

「だ、大丈夫ですか」
サクラが声をかけると、倒れこんでいる彼は顔をあげた。
見覚えのある顔だった。
確か、中忍選抜試験の時にいた、ハヤテとかいう人だ。
とサクラが思う間もなく、彼が言葉を発した。
「・・・・お、お腹が」
「え、お腹?お腹が痛いんですか!?」
腹を抱えて苦しげな声を出すハヤテの背中をさすりながら、サクラが声を荒げる。
ハヤテが首を振ってサクラの言葉を否定した。
「お腹が、すいて・・・死にそうなんです」
ハヤテは自分の背にあったサクラの手を握り締めながら言った。

 

目にも止まらぬスピードでからになっていく皿をサクラは唖然とした表情で見守った。
究極の空腹状態だったハヤテはサクラが食べかけていたケーキやスコーン類だけではもちろん足らず、数々の品を追加注文している。
だが、それもあっとい間にハヤテの胃袋に収まった。
全てをたいらげようやく一息ついたハヤテは紅茶を飲み干してからサクラに向き直った。
「どうもごちそうさまでした」
感謝の言葉と共に、サクラに頭を下げる。
「いえ。どういたしまして」
つられておじぎをしたサクラは、そんな義理はなかったことに気付き姿勢を正す。

あの後、ふらつくハヤテを見るに見かねたサクラがハヤテに食事をごちそうする約束をしたのだ。
もちろん自分の財布の中身が追いつく範囲でだが。
サクラは無一文同然になってしまったが、ハヤテの腹は十分膨れたらしい。
「本当に、いくら感謝しても足りません。有難うございます」
ぺこぺこと頭を下げるハヤテを、サクラは訝しげに見る。
「いえ、それはいいですけど、どうしてそんなにお腹すかせていたんですか。先生達のお給料、そんなに悪いはずないと思いますけど」
サクラが訊ねると、ハヤテは急に真顔になった。
「知りたいですか」
すぐ間近まで顔を接近させたハヤテに、サクラは少し顔を後ろへ下げる。
だが、ハヤテは気にしていないようで、さらにテーブルから身を乗り出す。
「どーーして知りたいなら教えますけど」
じーーーっと自分を見詰めてくるハヤテにサクラはたじろいだが、確かに興味はあった。

ハヤテが倒れるほど空腹になる理由。
安くないはずの給金。
お金は一体どこに消えたのか。

目を逸らすことなく見詰め返したサクラは、こくこくと頷いた。
「し、知りたいです」
少しの間の後、ハヤテはサクラを見ながらニタァと笑った。
ニコッではなく、ニタァ。
そのどこか粘着質な感じのする笑顔に、サクラは早くも後悔する。
だが、知りたいと言ってしまった手前、気の強いサクラは前言を撤回することは出来なかった。

「じゃ、行きましょう」
立ち上がったハヤテの後をサクラが慌てて追う。
「何処へ?」
サクラの問い掛けにハヤテは振り向いた。
例の不気味な笑顔と共に答える。
「私の家」

 

訪れた家は、そこかしこに薬の瓶が置かれ、いかにも怪しげな雰囲気が漂っていた。
だが、ハヤテの家だと言われると妙に納得できる。
玄関の扉を開けてすぐ、きつい薬品の匂いにサクラはむせて咳き込んだ。
「ああ、済みません。ちょっと換気しますから」
先に部屋に入ったハヤテが部屋中の窓を開けた後、サクラを招き入れる。
「どうぞ」
殆ど足の踏み場もないほどに散らかった部屋にサクラはおずおずと足を踏み入れる。
ただでさえ窓が少ないのに、立ち並ぶ本棚がさらに日光が入りにくい状況を作っていた。
「そっちの部屋に椅子ありますから、座っていいですよ。私はちょっとお茶入れてきます」
「・・・おかまいなく」
10年前に購入したお茶等が出てきそうだと、あながち冗談と思えないことを考えながら、サクラは言われたとおりに奥の部屋へと向かう。

サクラの姿が見えなくなると同時に、ハヤテは顔に笑みを浮かべた。
先ほどサクラに見せたものとはまた違う、乾いた笑い。
「こんな簡単によく知りもしない男の家にあがりこむなんて、カカシ先生は一体どういう教育してるんでしょうかねぇ」
含み笑いと同時に呟かれた声は、当然サクラの耳には入っていない。

玄関の扉の鍵が、ガチリと音を立てて閉まった。


あとがき??
あの、微妙なところで区切ってますが、年齢制限有りの話ではないので、安心してくださいね。(^_^;)
ハヤテさんのキャラがまだよく分からないので、あまり駄文作りたくなかったんですけど。
しかし、誘惑に負けた。(何のだ)
ハヤテさんの一人称って、“私”なんですか?覚えてない。
彼は先生なのだろうか。分からない。うーん。訂正ありかも。

続き、年齢制限はないものの、ヤバイことはヤバイ。
いきなり『暗い部屋』に移動していたら笑ってください。さてUは、いつアップできるか。
媚薬とは惚れ薬の意味ですね。今回まだ出てきてませんが。
シクラメンの根っこが惚れ薬になると聞いたことがある。効くのかしら??


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