姫神さまの願いごと 弐


翌日、早朝から7班はさっそく事件解明のために動き出す。

「で、まずどこから調査するの」
ナルトの問い掛けに、カカシは村長から与った近辺の地図を示す。
「ここかな」
カカシの指差した場所には、石の祠があると記されている。
聞いた話によると、子供がいなくなる直前に目撃された場所は、何故かどれもこの祠の周囲2km以内の森の中だった。
“神隠し”事件がもし人的なものなら、この祠の付近に犯人のアジトがあるのかもしれない。
そう簡単に手がかりが見つかるはずもないが、一応調査する価値はあるとカカシは考えた。

「じゃ、出発するか」
「おー!」
カカシの声に応え、ナルトが勢い込んで握りこぶしを振り上げた。

 

「姫神村で神隠しの事件か。まさか藤家の姫君のたたりじゃないわよね・・・」
「何、それ」
祠へと続く道を歩みつつ、独り言のように呟いたサクラに、前を歩いていたナルトが反応する。
「昨日村長さんの話を聞いてて思い出したんだけど、姫神村っていったら200年も昔にあの有名な藤家の姫が亡くなった場所なのよね」
そう言われても、歴史にうといナルトにはちんぷんかんぷんだ。
首を傾けるナルトに、サクラは詳しい話を語り始める。

「父親の藤公が仕えていた主君を裏切った罪で、人質として預けられていた姫が城を追われたのよ。そして、ここで賞金目当ての村民に殺されちゃったの。でも、藤公が他の領に寝返ったっていう噂は全くのデマで、彼は忠義の家臣だった。数年後、間違いを悔いたご当主様は、この場所に姫を祀る祠を作ったっていうわ」
「へぇ。サクラちゃん、物知りだねぇ」
しきりに感心するナルトに、サクラはえへんと軽く胸を張る。

「サクラの見解は当たってるかもしれないよ」
「え?」
唐突に会話に参入してきたカカシに、ナルトとサクラは驚いて振り返る。
最後尾を歩いていたカカシは、悪戯な笑みを下忍達に向けた。

「村の人に聞いたんだけど、目的地にある祠って、サクラの言った藤家の姫の祠なんだ」

とたん、ナルトとサクラの表情が凍りつく。
二人の頭には、命を奪われた恨みから村民を一人ずつ消していく恐ろしい怨霊の姿が浮かんでいた。
「ま、たたりなんてあるわけないさ。ハハ」
元気付けるようにカカシは彼らの肩を叩いたが、たいした効果はなかった。
サスケはともかく、普段賑やかなナルトやサクラも一言も発するこなく、一行の間に奇妙な沈黙が続いた。

 

そうして、黙々と歩きつづけること2時間。

「こんなに歩いてるってのに、まだつかないの」
「しょうがないんだよ。森への道を封鎖するためにつり橋を一つ壊しちゃったらしいから」
よって、7班の面々は遠回りを余儀なくされている。
野宿せずにすんだとはいえ、昨日から歩きどおしなことには変わらない。
しかも舗装されていない道に、疲労は倍増する。

「もうすぐだから」
「さっきもそう言ったってばよー」
泣き言をもらすナルトに、サスケは冷ややかな視線を向けた。
「軟弱な奴だな」
「んだと、この野郎!テメーだってさっきから足がふらついてるぞ」
喧喧囂囂の二人の言い争いが始まる。

「おーい。先行ってるぞー」
地図を片手に前方を歩くカカシから、無責任な声がかけられた。
普段なら仲裁するサクラも、さすがにそのような気力はい。
「元気ねぇ」
サクラは立ち止まり、何度か深呼吸を繰り返した。
一息ついただけで、前を行くナルト達の姿は遠くなる。

 

小走りで彼らに追いつこうしたサクラは、ふいにその場で動きを止めた。
何か柔らかいものを踏みつけた感覚。
しかも、足元からはギュゥッという奇妙の音が聞こえる。
眉を寄せたサクラは、恐る恐る下方に顔を向けた。
見ると、サクラの足のすぐ下で、大嫌いな生物が苦しげに蠢いている。
衝撃が強すぎたのか、サクラは声もなくその場に尻餅をついた。

蛇だ。

婦女子は一般的に爬虫類等が嫌いだが、さらにサクラは輪をかけて苦手だった。
足をどけた後も、蛇は逃げることなく、逆にサクラの方へ向かってくる。
「ど、どっか行ってよー!!」
後退りするサクラに、蛇はぺロリと舌を出して威嚇してきた。
涙ぐんだサクラは気味の悪いその動作に、声にならない叫びをあげる。
失神寸前、のっぴきならない状況に追い込まれたサクラの耳に聞こえてきたのは、鈴を転がすような軽やかな笑い声。

 

− くすくすくす −

 

子供の声が、森の木々にこだまする。
「だ、誰?」
座り込んだままサクラは首をめぐらせた。
人の気配はない。
相次ぐ恐怖に、サクラの顔から血の気がひいていく。

「お姉ちゃん、蛇、苦手なの」

笑いを含むその声に、サクラは大きく目を見開いた。
サクラの眼前、全く唐突に、彼女は存在していた。
4歳くらいだろうか。
人形のように整った顔立ちの少女がサクラを見詰めて笑っている。
ほんの数秒目線をずらしただけなのに、サクラは彼女の接近に全く気付かず、足音も聞かなかった。
古風な着物姿の彼女は、手に不釣合いな蛇を捕まえて悠然と微笑んでいる。

「こ、怖くないの!?」
強張った表情のサクラに、彼女は先ほどのくすくす笑いを続けた。
「何で怖いの。白い蛇は神さまの使いなのよ。それを足蹴にしたから、怒ってるわ」
「神さまの?」
サクラの言葉に、彼女はこくりと頷く。
同時に綺麗に切りそろえられた髪がさらりと肩から落ちた。
口の端を緩ませた彼女の愛らしい微笑みに、サクラは暫し見惚れて声を出すことができなかった。

 

「あれ、サクラは?」
「え!」

振り向いたカカシの問い掛けに、ナルトは驚いて付近を見回す。
「さっきまでいたのに・・・」
怒鳴りあいを繰り返していたナルトとサスケには、いつサクラが姿を消したのか全く分からない。
道なき道を歩いていた彼らの行程。
後方にある木々は、すでに道を閉ざしている。
嫌な予感に、一同顔を見合わせた。
呼びかけてみても、まるで返事はない。

それから調査をそっちのけで探索をしたが、神隠しの森でサクラは完全に消息を絶った。


あとがき??
『姫神さまに願いを』とタイトル似てますね。(笑)全巻持ってます。
登場した女の子、外見上はテンがモデルかも。性格はもっと可愛らしいですけど。(^_^;)
最後まで書ききれるといいですが。危なそう。

森で遭難。ちょっと中学の修学旅行のときの様子を思い出しました。
あったんですよ。実際。先生は生徒がついてきてるものだと思ってどんどん先に行っちゃったんですけど、実際ついてきていたのは数名の生徒だった。
で、宿舎について確認したら、残り100人近くの生徒は山で遭難していたとう。(道を間違えて)
あんときは、どうしようかと思ったね。事態に気付いた先生は真っ青になったらしいが、森を彷徨う生徒はもっと真っ青だっての。
ばらばらで、皆3、4人つづのグループで歩いていたから心細いし。よく問題にならなかったわ。


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