姫神さまの願いごと 壱


波の国での任務を終えた帰り道、7班は永延と森の中を彷徨っていた。
行きはタズナの道案内のおかげですんなりとし目的地までたどり着いたが、帰りは彼らだけだ。
すっかり方向感覚を失った下忍達が、指を差しながら何の迷いもなく明言する上忍の言葉を素直に信じてしまったのもしょうがないことだった。

「こっちから行くときっと近道だぞ」

 

「違うじゃないのよーーー!!!」

サクラの金切り声が夜道に響く。
彼らはすっかり道に迷い、5時間以上歩きつづけている。
日は暮れ、何の明りもない森では視界はほぼゼロに近い。
「おかしいなぁ。近道に関しては俺のカンは滅多に外れないんだけど。外れる確率は100回に1回だぞ」
「・・・その1回に当たったんじゃないのか」
サスケの的確なつっこみに、カカシはぽんと手を叩く。
「なるほど」
カカシは笑顔でサスケの頭をなでた。

「原因が分かってすっきりしたよ。有難うな」
「すっきりしてる場合じゃないってのよ!!道はとっくになくなってるし、このままじゃ野宿よ、野宿!」
顔を真っ赤にして怒鳴るサクラに、ナルトも追随する。
「腹減ったってばよぅ」
タイミングよく、ナルトの腹の虫が鳴った。
無言になる7班の面々。

その時、サスケが何かの物音に敏感に反応した。

「何か聞こえなかったか」
「え、俺の腹の音じゃないの」
ナルトはきょろきょろと顔を動かし、耳を澄ます。
聞こえてきたのは、確かに人の足音だ。
「地獄に仏!近くに村があるのかもしれないわ。道を聞きましょ」
サクラは歓喜の声をあげ、走り出した。
皆、後を続いて木々を分け入る。

 

そこにいたのは、汚れた身なりの、なにやら胡散臭い顔をした年配の男だった。
顔色も悪く、松明に照らされた表情はどこか虚ろなものだ。
手に持つ猟銃が彼の怪しさを倍増させている。
サクラは声をかけることを少しためらったが、背に腹は帰られない。

「あの・・・」
「っ誰だ!」

突然聞こえてきたサクラの声に、男はぎょっとした顔で猟銃を向けてきた。
サクラが叫び声をあげるより先に、カカシが彼女を後ろにかばいながら言葉を続ける。
「怪しいものではありません。道に迷って難儀しているのですが、どうか近くの人里への道を教えていただけませんでしょうか」
カカシの丁寧な物言いに警戒をといたのか、男は猟銃をそらして7班の一行に明りを向けた。
相手が子供連れと知ると、とたんに表情を和らげる。
「何だ。驚かせやがって」

だからといって、いきなり銃を向けることはないのではと、サクラは抗議したい気持ちをぐっとこらえる。
野宿は絶対に勘弁してもらいたいという状況なのだ。
「あっちにの方角に行けば、すぐに小さい村にでる」
それだけ教えると、用なしとばかりに男はもと来た道を歩いていく。
気になる一言を残して。

「近頃、質の悪い妖怪が出るから注意しろよ」

 

村にたどり着いた7班は、一番大きいと思われる家の扉を叩いた。
部屋数に余裕のありそうなその家なら、空き部屋を貸してもらえるかもしれないと思ったのだ。
夜半の来訪者に、現れた使用人は最初怪訝な顔をしたが、カカシ達が忍者であることを知ると一転して嬉しげな表情になった。
「ようこそおいでくださいました」
すぐに広い部屋に通され、下へも置かないもてなしを受ける。
わけがわからないなりにも、彼らは夕食に風呂と何から何まで世話になった。

「親切な人がいて良かったってばよ」
「本当ね。浴衣も借りちゃったし」
単純に喜ぶナルトとサクラを横目に、サスケは冷静な発言をする。
「裏があるに決まってるだろ。そろそろ来るぞ」

サスケの言葉を聞いていたからというわけではないだろうが、程なく彼らのいる部屋の扉が叩かれる。
「もし。よろしいでしょうか」
「はいはい」
カカシが呼び声に答え、扉を開ける。
そこには、家主である村長が供の者を従え、にこやかな笑顔をカカシ達に向けていた。

「一宿一飯の恩義とまでは言いませんが、少しばかりお願いごとがあるのですが」

 

村長の話を要約すると、こういったことのようだ。
ここ2、3年、この姫神村では“神隠し”といった現象が起こっていた。
数ヶ月に1回の割合で村の子供は一人ずつ姿を消す。
一度消えた子供は決して村に戻らない。
村中総出で山狩りをしても、手がかり一つ掴めず、全く難儀しているという。
最近では、村を捨てる者も多く、過疎化が進んでしまっているらしい。

「何とか、原因を究明していただけませんでしょうか。お礼もきちんとさせていただきますので」
「困りましたね。依頼は正式に上の者を通してしか、受けてはいけないことになってるんですけど」
腕組みをして考え込むカカシに、隣りにいるサクラが口をはさむ。
「いいじゃないのよ、調べてあげても。困ってるのに、可哀相よ」
「そうだってばよ。ご飯も美味かったし」
後につづくナルトに、カカシは軽く唸る。
生徒達は乗り気のようだし、ここまで歓待を受けた後では、さすがに断りにくい。

多少仕方なくという感じだったが、カカシは依頼を受けることに決めた。


あとがき??
冒頭のやりとりは、『パタリロ』72巻、「妖怪輪入道」から。いや、本当に面白いですよ。パタリロ。
磐梯山登ってて考えた話。続き、どうなるでしょうか。


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