木ノ葉隠れの里、四代目火影の唯一の趣味は園芸。
郊外に借りた土地を畑にし、家庭菜園を作っている。
週に一度の休みになると、彼はその場所に農具を持って行くのが何より楽しみだった。
その日、赴いた先で見知った顔を見つけた四代目は顔を綻ばせる。

「おはよう」
じょうろで花に水をやっていたサクラはその声に反応して振り返った。
デニムのサロペットに麦わら帽子という出で立ちで手を振っている四代目に、サクラは恭しく頭をさげる。
「おはようございます」
やがて顔を上げたサクラを目が合うと、四代目は満面の笑みを浮かべる。
ガーデニング好きの春野家では四代目同様、借りた土地に季節の花々を植えて育てていた。
現在サクラの父が体調を崩して静養しているため、彼女が一人で花の手入れをしている状況だ。
場所が隣同士になってから、それぞれ野菜と花の世話をするために四代目とサクラはほぼ毎週顔を合わせている。

 

「あのー、前から聞きたかったんですけど・・・」
四代目と共に水汲み場に向かったサクラは、わずかに声を潜めて言った。
「何?」
「護衛とか、付けて歩かないんですか。服も軽装だし」
注意深く周囲を見回してから、サクラは四代目に向き直る。
どう見ても園芸が好きな陽気なお兄さんだが、目の前にいるのは木ノ葉隠れの里の最高権力者である火影だ。
その彼が、休日のたびにふらふらと一人で歩いやってくるのがサクラは不思議でならない。

「僕を殺せる人間はこの里にいないから大丈夫だよ」
にっこりと微笑んだ四代目に、サクラは開いた口が塞がらなくなった。
「・・・じ、実力があるのは分かっていますけど、やっぱり万が一ということが」
「そういう意味じゃないよ」
四代目は力説するサクラを見てくすりと笑う。
「命を狙うってことは、政に不満があるということだ。統治者が安心して外を歩けないような国は駄目ってことだよ。謂われのない暴力は排除しなければならないけど、僕はなるべく多くの人の意見を聞きたいと思っている」
「・・・・四代目」
「それに、監視がいたら会話も全部盗み聞きされてしまうよ。僕らの関係が周りにばれたらまずくないかな?」
急に耳元に顔を近づけて囁いた四代目に、サクラは顔はみるみるうちに赤くなる。
「か、関係って何ですか!借りた畑が隣りなだけで、人に聞かれて困るような話はしていないもの!!」
「そうだったか」

 

 

サクラの花の植え替え作業は、2、3時間ほどで終わった。
時計を見ると、正午前。
昼食を家で食べるために帰り支度をしていたサクラは、ダンボールの箱を持った四代目に呼び止められる。
「これ、家族のみんなと食べてね」
手渡された箱にはタマネギや人参、その他大量の野菜が入っていた。
「え、これ全部、うちに!?」
「そう。僕が忙しいときにこの子達の世話をしてくれたお礼」
四代目がどれほど大切にそれらを育てたか知っているだけに、サクラは驚きに目を見張った。

「でも、四代目の分が・・・」
「うちはナルトと二人暮らしだからそんなに量は必要ないんだ。じゃあね」
踵を返そうとした四代目をサクラは慌てて追いかける。
「じゃあ、私はこれをあげます」
サクラはもともと四代目に渡そうと用意してあったチューリップを束にして差し出した。
彼の家が男所帯なのはサクラも知っている。
だからこそ、こうした花の潤いは必要に思えた。

「・・・赤いチューリップの花言葉、知ってる?」
暫くじっと花を見つめていた四代目はおもむろに声を出す。
首を横に振ったサクラに、四代目は悪戯な笑みを浮かべてみせた。
「“愛の告白”」

 

 

 

実用性重視の飾り気のない家具が並ぶ家で、花瓶にいけたチューリップだけが部屋の彩りになっていた。

「どーしたの、これ?」
「サクラちゃんにもらったんだ」
リビングのソファーで報告書に目を通していた四代目は振り返りながら答える。
「あの子、可愛いね。ちょっとからかうとすぐに赤くなっちゃって」
くすくす笑いの四代目に対し、ナルトは厳しく釘を差した。
「もー、サクラちゃんは俺が狙ってるんだからね!よけいなちょっかい出さないでよ」
「分かってる分かってる。ナルトの大事な女の子なんだろ」
真剣な表情で詰め寄るナルトを四代目は難なくかわす。

「ただね、よく似てるんだよな」
「・・・何が?」
「お前の母さんの声、サクラちゃんにそっくりなんだよ。顔は全然に似てないけど」
「うん」
四代目の目線を追ったナルトは、棚の上に置かれた写真立てへと顔を向ける。
赤ん坊のナルトを抱いた写真の中の母は、木ノ葉小町と呼ばれただけあり、目の覚めるような美女だ。
気立ても良く、非の打ち所のない彼女の唯一の弱点は病弱な体だった。

「あの子くらい元気があれば良かったんだけど・・・・」
遠い目をして呟いた四代目を、ナルトはじっと見据えている。
「やっぱり、サクラちゃんのことが好きなんだね」
「・・・・何でそう思う」
「母ちゃんの声がサクラちゃんに似てるって言ったから。普通、順番逆だよ」
不機嫌そうに口を尖らせたナルトは、四代目に指を突きつけた。
「俺は絶対にサクラちゃんを「母ちゃん」なんて呼ばないからね!」

 

ナルトはバタバタと足を踏みならして二階へと上がっていく。
腹が減れば下りてくることを見越している四代目は、困ったように笑っているだけだ。
同じ声が気になって彼女にいろいろ話しかけていたのは本当のこと。
だけれど、心を惹かれたのはかの人にはなかった強さや明るさだ。
報告書へと視線を戻した四代目は小さく吐息をもらす。

「結構、鋭いね」


あとがき??
ナルトが「サクラちゃん」と呼ぶので、四代目も「サクラちゃん」。呼び捨てだと息子が怒る。
四代目がいくつで亡くなったか知らないので、この話では30代半ば。
以前も書きましたが、四代目はそのまんまうちのナルトの未来予想図です。顔も性格も。

来年、四代目が「新しいママだよー」と言ってサクラを連れてきてナルトはガーン!となるのです。
さらには「もうお腹にお前の弟か妹がいるんだよー」と言われてナルトは再起不能になるのです。羨ましい・・・・。(^_^;)
果たして、どんな家庭になるのか。うずまき家の未来は、いかに!?
次回『幼妻は16歳』、お楽しみに!(←嘘)


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