シノビライフ 1


「菜の国の大使と会食の後は擁護施設を見学して、その後はファンクラブの方々との懇談会。会議は夕方から始まる予定ですが、夜は砂隠れの高名な学者の方が訊ねてくるので・・・・」
「ストーーップ」
まだまだ長く続きそうなリンの言葉を、四代目火影は机に頬杖を付きながら遮る。
分刻みのスケジュールが続くのはいつものことだが、四代目の巧みな外交手腕により、近頃は大きな事件もなく里は平和そのものだ。
そのあたりの苦労を考慮して、もう少し余裕のある予定を組んで欲しいと思うのは贅沢だろうか。
せめて大事な一人息子とのスキンシップの時間くらいは作って欲しい。

「僕が前に休みをもらえたのは、いつだったかな、リンちゃん」
「確か・・・、三ヶ月前だったかと」
「そろそろ、次の休暇が欲しいんだけど。ナルトと二人でユニバーサルスタジオ木ノ葉に行きたいなぁー、なんて」
若い女性なら誰もがメロメロになる穏やかな微笑みと共に言ってみたのだが、彼の弟子で付き合いの長いリンには通用しない。
「あと半年は無理ですね。無駄話をする暇があったら、この書類に判子をお願いします」
事務的な口調で言うと、リンは山と積まれた書類を机の上に置いた。
「・・・・鬼」
「えっ、何かおっしゃいました?」
「何でもない、です」

 

 

 

木ノ葉隠れの里のカリスマ的指導者である四代目は、里にいる人々全ての憧れでもあった。
容姿端麗、頭脳明晰、性格良好。
町に出るなり黄色い声が飛び交い、四代目はどこへ行っても大歓迎される。
彼らに手を振って応えながら、愛想のいい笑顔の下で考えるのは「うざい」の一言だ。
木ノ葉隠れの人々を心から愛している一方で、神や仏ではなく、四代目火影も一人の人間なのだった。

「馬鹿野郎ーーーーーーーーーー!!!てめーら群れて突進してくるとこえーーんだよ、くそババァどもがぁぁーー!!」
心の底から本音を絶叫すると、笑顔のまま固定したため、引きつった頬がようやく正常に戻る。
「ったく、勝手に人のこと撮るんじゃねーよ。チッ。リンの奴も有給よこしやがれってんだ」
ぶつぶつと呟きながら顔をさする四代目には、皆の前で聖人を気取っていたときの面影は微塵もない。
たまにこうしてストレスを発散させなければ、火影の仕事などやっていけなかった。
幸いこの庭園は火影の私有地で、一般の人間は入れない。
誰かが来るとしても、一人息子のナルトが花壇の花の手入れをしに足を踏み入れるくらいだろうか。
だが、四代目が大きな猫をかぶりながら生活していることはナルトにも内緒なため、気を抜くことは出来ない。

 

「んじゃ、面倒だけどそろそろ戻るかなぁー。会議が始まるのは、たしか・・・・」
時計を見るために腕をあげた四代目は、視界の隅に映った桃色のものにハッとなる。
一度目をつむり、心を落ち着かせた四代目は、ゆっくり、ゆっくりとその方角へと顔を向けた。
瞬間、全身の血が一気に凍り付いた四代目に対し、桜の木の脇に立つ少女はにっこりと微笑みを浮かべる。
それはナイフで心臓を貫かれたような衝撃だった。

 

 

ばれた。
本当は口が悪いことも、舌打ち付きで愚痴っていたことも、全てばれてしまった。
あんな姿を見られては、“微笑みの貴公子”と呼ばれた彼のイメージは、おそらくズタズタだ。
そして、騙されていたと知ったときの木ノ葉隠れの人々の衝撃はどれほどなのか、想像も出来ない。
なぜあの場所に一人の少女が紛れ込んでいたのか、真相はすぐに知れた。

「父ちゃん、今日庭の方に行ったんでしょう?サクラちゃんに会わなかった??」
「サクラちゃん・・・・」
「俺の班の子だってばよ」
夕食の席で言われて初めて、自分の本性を垣間見た少女がナルトの思い人だということに気づいた。
どこかで見た顔だと思ったのは、居間に七班の写真が飾られていたせいだろう。
気が動転していたため、逃げるように駆け出した四代目は、彼女と会話はしていなかった。
「サクラちゃんもガーデニングの趣味があって、俺が育てた花を見たいっていうから、庭に続く門の鍵を預けたんだ」
「そう・・・・・」
「俺はちょっとカカシ先生に呼ばれてさぁ。先に行っていてもらったんだけど・・・・父ちゃん?」
俯く四代目に気づいたナルトは、心配そうにその顔を覗き込む。
「顔色悪いってばよ」
「大丈夫」

 

 

 

『衝撃、暴かれた四代目の本性!!』

(うすうす勘づいてはいたものの、四代目がそんな人だったなんて・・・(R嬢の言葉))
(本当、裏切られたって感じですよ。笑顔の下では、僕達を馬鹿にするようなことを考えていたとは。ハァ。(K氏の言葉))
(私達のこと、ババアって言っていたそうよ。許せない!ファンクラブは解散よ!!(巣鴨商店街の声))
翌朝の新聞には好き勝手な記事が並び、四代目に対する誹謗中傷で溢れていた。
ストレスがたまって、ちょっと口走っただけだ。
そんな言い訳など、誰にも聞いてもらえなかった。

「うーん、うーん・・・・・、許してくれ・・・・」
「父ちゃん、朝だってばよー。遅刻するとまたリンねえちゃんが怖い声で電話してくるから、早く起きるってば」
「あっ」
体を揺すられて跳ね起きた四代目は、傍らにいるナルトの顔を見て、小さく息を吐く。
どうやら悪夢を見ていたらしい。
だが、それは現実に近い夢だ。
「俺、任務が入ってるからもう行くよ。父ちゃんの分もパンを焼いておいたから」
「ああ、うん。いってらっしゃい」
弱々しく手を振る四代目は、緊張しながら、ナルトが持ってきた朝刊へと手を伸ばした。
自分についてのスクープが、そこに・・・・・。

 

『四代目、菜の国の大使を歓迎』

「・・・・・・・・あれ?」
一面にあるのは明るく微笑む四代目と、菜の国の大使の写真だ。
それから小さな記事まで隅々チェックしていたが、四代目について誹謗中傷の類のものは一切なく、急に気が抜けてしまった。
サクラという少女は、四代目を見て、確かに意味ありげに笑ったのだ。
「何で?」


あとがき??
四代目ファンの方、申し訳ございませんでした。
四代目イメージとしては、『ぼくの地球を守って』の木蓮。
ナルトの母ちゃんは彼が小さいときに病気で亡くなった設定です。
四代目の周りで手ごろな女性キャラがいなかったので、リンちゃんに秘書になってもらいました。
勝手に性格変えてすみません。


駄文に戻る