シノビライフ 2


扉の脇にあるチャイムをいくら鳴らしても、誰も出てこなかった。
ナルトにしつこく誘われ、休日に彼の家までやってきたサクラだったが、それで留守とはあまりに失礼な話だ。
四代目がいたときのことを考えてメロンまで持参したというのにとんだ無駄足だった。
「腹立つわねーー!バカナルト」
苛立ち紛れに扉を軽く蹴ったサクラは、その瞬間「あれ?」と首を傾げる。
弾みで扉は僅かに開き、サクラは目を丸くした。
「ぶ、不用心な・・・・」
木ノ葉隠れの長たる火影の住居がこんなことで良いのかと思いつつ、サクラは開いた扉から顔を出して中の様子を窺う。
前に何度か来たことがあるため大体の間取りは分かっていた。
「誰もいないの?」

呼びかけながら、そろそろと廊下を歩いてリビングを覗いたサクラは、ソファに横になって眠る四代目に目を留めた。
付けっぱなしになっていた
TVをテーブルの上にあるリモコンで消すと、小さな唸り声が聞こえてくる。
彼の眉間には深い皺が刻まれ、どんな夢を見ているのか非常に苦しげだ。
分刻みにスケジュールが決められた激務をこなしているというのに、夢の中まで辛い思いをしているらしい。
「ナルトはどこに行ったのかしら」
首を巡らせたサクラは、近くにあった畳みかけの洗濯物の中から厚手のタオルを引っ張り出し、四代目の体にかける。
何気なく頭を撫でてしまったのは、家で飼っている犬を寝かしつけるときの習慣だ。
顔の作りはナルトにそっくりだと思っていたが、髪の質も全く同じのようでさらさらと指通りが良い。
「ゆっくり休んでくださいね」
その言葉が聞こえたのかどうか、続いていた唸り声はぴたりと止まり、すやすやと安らかな寝息に変わっていった。
微かに微笑んでいるように見えるその顔にほっとしたサクラだったが、ナルトの気配は近くにないようで、このまま待っていていいのかどうか悩んでしまう。
「困った・・・・」
立ち上がろうとすると四代目の手が無意識にサクラの服の裾を掴んでおり、動くことさえ出来なかった。

 

 

 

「ひどいんだよリンの奴、俺を馬車馬のように働かせて、自分は彼氏とハワイなんか行っちゃってさ」
「ハワイ・・・・羨ましい」
「そういう問題じゃないんだよー」
わめき声をあげる四代目は、夢の中で亡き妻に延々と愚痴をこぼす。
思えば、彼女がいなくなってからこうして胸の内を全て話せる相手がいなくなってしまったのだ。
そして外では完璧な忍びの長を演じているのだから、ストレスがたまるのも当然かもしれない。
「里のみんなのために頑張りたいのは山々だけど、俺だって人間なんだよ。休日は週一でもいいから欲しいし、もっとナルトと一緒にいたいんだよ」
「そうですよね。じゃあ、私からリンさんに提案してみます」
「うん」
満足げに微笑んだ四代目は、そこではっとなった。
もう死んでいる彼女が、リンと話してみるというのはどういう意味だろう。
幽霊となって枕元に立つとでもいうのだろうか。

「・・・・・まゆら?」
妻の名前を口にして目を開けた四代目は、すぐ間近にあった緑の瞳に驚愕する。
彼の妻は金髪碧眼で、頗る美人だ。
今、彼に膝枕をしている少女は可愛らしい見かけだが、年齢も容姿も妻とは全く異なっている。
段々と頭が動き出した四代目は跳ね起きた拍子にソファから転がり落ち、サクラは目を丸くして駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか?」
「まゆらはどこ!」
「ええと・・・、この家には他に人がいないみたいですけど。ナルトもどこに行ったのか分からなくて」
誰のことを言われたのか分からなかったが、サクラはうろたえる四代目にナルトに呼ばれてここに来たことを説明する。
あの後、帰りそびれたサクラはぶつぶつと寝言を言い出した四代目に適当に相槌を打っていたのだ。
四代目の身の回りについての、なかなか興味深い話題ばかりだった。

「あの、俺、変なこと言ってなかった?」
「変なことっていうか、いろいろ聞かせて頂きましたよ。菜の国のムカツク大使の話とか、リンさんのハワイのこととか」
「・・・・・・・・・」
サクラの返答に、四代目の顔はさらに青くなった。
妻が相手と思い安心してぺらぺらと喋ってしまったが、本来ならば国家機密の内容もあったはずだ。
二重人格の自分の性格のことといい、サクラには更なる弱みを握られたことになる。

 

 

「・・・・いくら欲しいの」
「えっ?」
突然声のトーンを低くした四代目に真顔で見つめられ、サクラはぽかんとした表情になる。
反応の薄いサクラに業を煮やした四代目は、両手を彼女の肩に置いていささか乱暴に揺すった。
「ようはお金でしょう。お金だ。お金に決まってる。口止め料ならいくらでも払うから、正直に言ってよ」
「あ、あのぅ、何で私が火影様からお金をもわらないといけないんですか?」
「だって、君は笑ったじゃないのさ、あのとき」
「あのとき・・・・」
首を傾げたサクラは、思案した後に、ようやく庭で会ったときのことを言われたのだと気づく。

「ああ、あれは火影様が私と似た人だって分かったからつい笑っちゃっただけです。気分を害されたなら、すみません」
申し訳なさそうに頭をさげたサクラに、今度は四代目の方が怪訝な顔つきになった。
「似てるって・・・、何が?」
「私もおっきな猫を飼ってるんです」
手土産の菓子を彼に差し出すと、サクラはにっこりと笑う。
彼女の笑顔は何かしらの思惑があると思うにはあまりに朗らかで、四代目は困惑気味に彼女を見つめることしか出来なかった。


あとがき??
ナルトママの名前は、『ハッピー・ファミリー』から。子供の名前が「なると」なので。
何だかこれ、長い話のようですよ。


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