シノビライフ 3


「一時間、サクラちゃんが来る時間を勘違いしていて・・・・・」
「もう、言い訳はいいわよ」
「ごめんってばー」
ぷいと顔を背けたサクラに、ナルトは必死に追いすがった。
四代目と会話しているうちにナルトは帰宅したのだが、サクラはつむじを曲げたままだ。
早々にうずまき家を辞去したサクラのあとに、ナルトは付いて歩いている。

「ねーねー、一楽に行こうよ。俺がご馳走するからさ」
「・・・・一楽ねぇ」
確かに一楽のラーメンが美味しいことは認めるが、そろそろ別の店も覚えて欲しいと思いながら、サクラは後ろを振り返った。
「ナルト、まゆらって誰?」
「えっ、俺の母ちゃんだってばよ」
「そうなんだ・・・」
頬に手を当てて思案したサクラは、続いてナルトに質問する。
「その人って、私に似てるの?」
「・・・・・」
「・・・・何よ」
足を止めたナルトは、眉間に皺を寄せ、何とも表現しにくい不思議な表情を作っている。
泣いているような、笑っているような、しいて言うなら「困惑」が一番近い。
「えーと・・・、実際に見てみる?」

 

ナルトがポケットから出したパスケースには家族写真が一枚挟まっており、そこには赤ん坊のナルトが両親と一緒に写っている。
見た瞬間に、サクラは穴があったら入りたい心境になった。
赤ん坊を抱いて微笑む母親は超が付くほどの美人で、サクラとは一つも似たところがない。
神話に登場する「女神」がそのまま現実の世界に光臨したと言っても信じてしまいそうだ。
サクラに恋するナルトが、自分の母親の方がずっと綺麗だと言うわけにもいかず、黙り込んだ意味がよく分かった。
寝ぼけた四代目に「まゆら」と呼ばれたため、てっきり似たところがあるのか思ったのだが、大きな勘違いだったらしい。

「な、なんだか、モデルみたいな夫婦よね。火影様は男前だし、奥さんは美人だし」
咳払いをしたサクラは、写真をナルトに返しながら言う。
「いとこ同士で結婚したんだって。俺、父ちゃんに似てるって言われているし、将来はこんな風になるよ。どう?」
サクラの機嫌が直ったと思ったのか、ナルトは自分の顔を指差してアピールを始めた。
確かに髪や瞳の色、顔のパーツは四代目をそのまま模した感じだが、微妙に違って見えるのが不思議だ。
長い付き合いで、子供っぽさの抜けない彼の性格を熟知しているせいだろうか。

「・・・・火影様の方が、品があるっていうか、賢そうだけど」
「アカデミーの成績を知ってるからそう思うだけでしょうー」
頬を膨らませたナルトに、サクラはくすくすと笑い声を立てる。
実際の年齢よりも落ち着た雰囲気の四代目とは違い、人を和ませる明るさがナルトにあるのはサクラも認めるところだ。
「まあ、ナルトはナルトだしね」
ナルトの顔を覗き込むようにして見たサクラは、にっこりと笑ってその手を掴む。
「味噌ラーメン大盛り、お願いね」

 

 

 

その日、いつものように欠伸をかみ殺して執務室へと足を向けた四代目は、その話を聞くなり仰天した。
奇蹟が起きたのだ。
顔からこぼれ落ちそうなほど目を見開いた四代目は、リンの顔をこれ以上ないほど凝視する。
「本当に、本当!!?」
「ええ。緊急な行事や事件がないかぎりは火影様も週に一度はお休みを取ってもらいます。今後は有給休暇有りの方向で検討していくことになりました」
「万歳―――!!」
思わずリンに飛びつきそうになったが、さっと身をかわされ、四代目の手は空を切る。
それにしても、「働け、働け」とせっつかれていたというのに、突然掌を返した理由が分からない。
喜びが大きかった分だけ、何か裏があるのかと勘ぐってしまった。
「でも、何で?」
首を傾げ、素直に訊ねた四代目に、リンは手元の資料を机に並べて答える。
「サクラさんが昨夜遅くにこれを持ってきたんですよ」

『働き過ぎの現代人』や『そして、心の病へ・・・』というタイトルの本を始め、過労死にまつわる事例を纏めたレポートが50枚以上そろっている。
火影としての四代目の活動と比較した非常によく出来た論文だった。
火影といえど超人ではなく一人の人間、責任のある仕事をしているからこそ、適度な休息も必要という結論で終わっている。
さらに、リンに渡された半年先までのスケジュール表に目を通したサクラは、無駄な予定を徹底的に排除、代理を立てられる任務等をより分け、四代目の休暇に当てる時間をひねり出したらしい。

「アカデミーでは才媛と呼ばれていたらしいけれど、本当に優秀ですよ、サクラちゃん。秘書に向いていると思います」
「はあ・・・・」
レポート用紙に目を通す四代目は、サクラがリンに提案すると言っていたことを、おぼろげに思い出す。
夢うつつの約束だというのに、彼女はしっかり守ったらしい。
四代目は後でしっかり礼を言おうと思っていたのだが、リンの言葉には続きがあった。
「それで、今度私がハワイに行っている間に秘書を代わってもらうことを条件に、四代目のスケジュール表を見せたんです」
「えっ!」
「本来ならば、木ノ葉の超極秘資料ですから」

 

何だか妙な雲行きになってしまった。
いろいろと弱みを握られているせいか、どうもサクラのことは苦手なのだが、そんなことは言っていられない状況らしい。
それに、あれこれと調べて対策を練ってくれたのだから、きちんと礼を言っておかなければならない。
サクラのことを考えてまず思い浮かぶのが、何もかも見透かしているような緑の瞳と、柔らかな笑顔。
誰かによく似ているような気がした。

「そういえば、サクラちゃんって、どことなくまゆらさんに似てますよね」
山となった書類の一部に手を伸ばした四代目は、その呟きを耳にして動きを止める。
思わず眉間に皺が寄ってしまったのは、亡き妻への愛ゆえだ。
「どこが?」
「それは、火影様自慢の奥さんには誰も敵いませんけど、顔とかじゃなくて・・・アカデミー時代に主席の成績だったところとか、チャクラコントロールが抜群で幻術が得意なところとか、あとは話し方と声。ずっとどこかで聞いたことがあると思ってたんですよ」
「・・・・・」
腕を組んで考え込む四代目は、寝ぼけた自分がサクラにいろいろ告白してしまった意味をようやく理解したのだった。


あとがき??
ナルサク色が強い・・・ような。あ、あれ。
同じ医療忍者なので、リンちゃんとサクラは仲良し設定。


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