(注)このお話はイタチ兄がぐれずに平和に暮らしているという設定の元に書かれています。

恋する遺伝子 1


「サスケくん、一緒に宿題しようv」
「帰れ」
冷たく言い放つと、扉は乱暴に閉められた。
中からは、念入りに鍵をかける音まで聞こえる。
余りと言えば余りな仕打ちに、サクラはうちは家の玄関をドンドンと叩き始めた。
「酷いー!!」
「今日は母が遠出をしている。散らかっているし、茶も出せないぞ」
「お茶くらい私が入れるわよ。だから入れて!」
しつこく扉を叩くサクラは、サスケが何を言っても頑として立ち去ろうとしない。
それもそのはず、サクラの今日の目的は一緒に宿題をすることだけではなかった。

 

 

「終わったらすぐに帰るんだぞ」
「うん」
押し問答の末、サスケの部屋にあがりこんだサクラは満面の笑顔で頷く。
テーブルの上には、カカシに課せられた宿題に使う教材と筆記用具、サクラの入れたお茶、そしてサクラの持ってきた手作りクッキーがあった。
サスケが黙々と鉛筆を動かす中、サクラはしきりに彼の動きを気にしている。
「・・・あの」
サスケが顔を上げると、サクラは曖昧な笑顔を浮かべてクッキーの皿を指差した。
「ちょっとでいいから、食べてみない。会心の作なの」
「甘いものは苦手だ」
「大丈夫。甘さ控えめだし、カルシウムたっぷりだから骨にいいわよ、骨に」
「・・・・・」

必死な様子でクッキーを薦めるサクラに、サスケは訝しげに眉を寄せた。
宿題はまだ少しも進んでいない。
食べたくもないが、それでサクラが大人しくなるなら易いことかと思われた。
少し焦げ目のあるいびつなクッキーを摘むと、サスケは無造作に口に運ぶ。
「ど、どう」
「・・・・甘い」
「それだけ?」
「何なんだよ。お前、変だぞ」
少々怒気の含んだ声で言うと、サクラはようやく口をつぐんだ。

何やら「おかしいわ」とぶつぶつ呟いていたが、サスケにすればおかしいのはサクラの方だった。
宿題をしに来たと言ったわりに、まるで教材に目を通していない。
「本当に大丈夫なのか。熱でもあるんじゃないか」
身を乗り出したサスケは向かいに座るサクラの額に手を添える。
至近距離で見つめてくる瞳に、熱がなくても体温が上昇しそうになったサクラだったが、彼の気配を察したサスケはすぐに手を離した。

 

「お邪魔だったかな?」
口元に笑みを浮かべ、傍らに立っていたのはサスケとよく似た面立ちの兄。
「ちゃんと扉を開けて入ってこい」
「母さんはいないんだな」
険のあるサスケの声を無視して、イタチは首を巡らせた。
「あ、お、お邪魔しています」
「いらっしゃい」
会釈したサクラと目が合うなり、イタチは柔らかく微笑む。
難しい顔をしていることの多いイタチが笑顔を見せる相手はごく限られていたが、サクラはそんなことは露とも知らない。

「腹が減った。サスケ、何か作れ」
「冷蔵庫に肉まんがあっただろ」
「じゃあ、それ温めてくれ」
「自分でやれよ」
言った瞬間に、まずいとは思った。
冷ややかな眼差しを向けてくるイタチに、幼い頃から数々の試練を受けてきたサスケは、とっさに手近にあった皿を差し出す。
「サクラが作ったんだ。母さんはそろそろ帰ってくる時間だと思う」

多少言い訳じみていたが、イタチはまんまとサクラのクッキーに興味を示した。
「じゃあ、一つ頂こうか」
「ええ!!!」
それまで状況を傍観していたサクラは何故かギョッとした顔でイタチを見上げる。
とっさに止めようとしたサクラだったが、クッキーはすでにイタチの胃袋に収まったあとだった。

 

 

 

 

「何だか、面白いことになってるみたいですねぇ〜」
咳を数回繰り返した後、朗らかな声音で言うハヤテをサクラは半眼で睨む。
「私は面白くないです」
「それで、どうしてそんなことになったんですか?」
ハヤテはサクラの傍らに寄り添うように座るイタチを見ながら訊ねる。
「ハヤテさんからもらった惚れ薬をクッキーに混ぜて、サスケくんの家に持っていったんです。それを、イタチさんが食べてしまって・・・」
「はぁ、なるほどーー」
「解毒剤はないのか!!」
のんびりとした口調で頷いているハヤテに、同席しているサスケが口を挟んだ。
「毒じゃなくて薬なんですが。まぁ、あるにはありますよ。これから調合すると、1、2時間で用意出来ます」
「すぐに作れ」
サスケはいやに高圧的な言い方をしたが、ハヤテはあまり気にしていない様子で申し出を了承した。

「私はサスケくんに好きになってもらいたかったのに・・・・」
「薬の効果は人によって様々なんですよ。対象となる人物を嫌いと思っている人に飲ませても、多少好意を持つ程度。イタチさんはもともとサクラさんのことをよく思っていたから、効果が覿面だったんですねぇ」
サクラにべったりのイタチを眺めながら、ハヤテはしみじみと呟いた。
「じゃあ、サスケくんはもともと私のことを何とも思ってなかったから駄目だったのね」
「・・・・ええと」
ハヤテはがっくりと肩を落とすサクラと、その隣りのサスケを見比べる。
サクラの意見は全く見当違いだと言いたがったが、彼に目で脅されていては滅多なことは口に出来ない。

 

「解毒剤は必要ない」
サクラに従い、黙ってハヤテの家まで付いてきたイタチはそのとき初めて口を開く。
「どういうことだ」
「俺はサクラと結婚する。帰りしなにでも、役所に行って婚姻届を出してくるぞ」
唐突なイタチの発言に、サクラは思わず吹き出しそうになった。
「そんなことは許さない!」
「何でお前の許しが必要なんだ」
不思議そうに訊ねるイタチに、サスケは口籠もる。

「さ、サクラの意思はどうなんだ。結婚なんて無理矢理するものじゃない。法的に許されないことだ」
「サクラは俺のことが嫌いなのか?」
「え、好きです」
反射的に答えてしまったサクラは、サスケにきつく睨まれる。
「でも、今すぐ結婚なんて考えてないだろ!!」
「か、考えてません、考えてない、考えてないです」
サスケの剣幕に驚いたサクラは、何度も同じ言葉を繰り返した。
それでも、イタチは涼しい顔でサスケを見据えている。
「愛なんて結婚したあとにいくらでもはぐくめる」
「最もらしいことを言っても駄目だ」

 

 

自分の両脇で睨み合う兄弟を、サクラははらはらと見つめていた。
状況を楽しんでいるのは、唯一ハヤテだけだ。

小さくため息をついたイタチは椅子から立ち上がり、サクラの肩に手を置く。
「弟に認めてもらえないのは悲しいが、しょうがないな」
言うが早いか、首筋に手刀を受けたサクラはイタチの腕に崩れ落ちた。
「おい!」
「少し強引な手段を取らせてもらう。さらばだ、弟よ」

気絶したサクラを抱えたイタチは、捨て台詞を残して煙のように姿を消す。
握り拳を作り、歯噛みしたサスケは苛立ちを隠しきれずにハヤテをがなり立てた。
「何ぼんやりしてるんだ!お前はさっさと解毒剤を作れ!!」
「あ、はいはい」
八つ当たりをされたハヤテはいそいそと薬品のある部屋へと歩き出す。
元はと言えば彼がサクラによけいな薬を渡したからだと思うと、もっと何か言ってやりたい気持ちだったが、今はそんな余裕がない。
踵を返したサスケは、すぐさまイタチの後を追って駆け出した。

 

「すでに恋に落ちている人に薬を飲ませても、効果が出ないのは当たり前ですよねぇ・・・」
サスケの後ろ姿を見送り、ハヤテはくすりと笑う。
こうも面白い出来事を自分の胸にだけしまっておくのはもったいない。
体を反転させ、行き先を変更したハヤテは電話帳を片手に受話器を取った。


あとがき??
楽しかったです。非常に。
リクはイタサクだというのに、うちのイタチ兄とサクラはどうやっても恋愛感情が出てこないので、ドーピングさせて頂きました。
木ノ葉隠れの里って、何歳から結婚出来るんですかね???
このまま終わってしまいたい気持ちですが・・・・リクがまだ完結していないので、続きます。すみません。
イタチ兄に夢を見ている人は、続きを読まない方がいいかもしれません・・・。


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