恋する遺伝子 2


「あ、こことここが記入漏れです」
「はい」
役場の職員の言葉に従い、イタチはペンで文字を書き込んでいく。
「はい、これで結構ですよ」
「ちょっと待ったーーーー!!!」
自動ドアを開けて入ってきた男の大音声に、窓口にいたイタチと職員が振り返る。
息を切らしてイタチを睨んでいるのは、7班の担当上忍であるカカシだ。

「何でそんな書類を受理するんだよ、どう見ても怪しいだろ!!」
カカシはイタチの背中を指差しながら怒声を発した。
イタチの背中には、熟睡状態のサクラが紐で括られて負ぶわれている。
婚姻届の新婦の欄、イタチが居眠りをするサクラの手を掴んで指印させているのを、横で職員も見ていたはずだ。
鼻息も荒く問いつめるカカシに、職員は淡々と答える。
「所詮、お役所仕事ですから」
「ああーー、もう!!」
融通の利かない返答にがりがりと頭をかいたカカシは、再びイタチに向き直る。

「ハヤテから話は聞いた。俺は断固阻止するぞ!こんな結婚」
「何でですか」
「お前みたいのと一緒になってうちの可愛いサクラが不幸になるのを、見過ごせるか!!」
聞き捨てならないその台詞に、イタチの顔が引き締まる。
「どういう意味でしょうか、カカシさん」
「お前、この間、綾小路家のお嬢様に手を出しただろ。父親が火影様のところに怒鳴り込んできたぞ」
「・・・・・」
「その前は白鳥家の後妻で、その前は伊集院財閥の若後家、数えたらきりがない。一体、その若さで何人の女を毒牙にかけたと思っているんだ!」
「向こうが言い寄ってきたんですよ。別に強姦したわけじゃない」
「言い訳をするな、この浮気者が!もし隠し子が発覚したりしたらサクラは泣くぞ」
「そんなへまはしません。それに俺の戸籍は真っ白だ。浮気者というのは間違いだし、結婚したら他の女のところには行かないですよ」

 

 

イタチとカカシが喧々囂々と言い争う中、ロビーのソファーに腰掛けている二人連れがこそこそと喋り始める。
「何だか、痴話喧嘩みたいになってきたわね」
「・・・・俺、もう帰りたいんだけど」
げんなりとするシカマルの肩を、いのはバシリと叩いた。
「駄目よ!書類がちゃんと受理されるのを見届けるまで、ここから離れられないわ」
声を張り上げるいのに、シカマルは大きなため息を付く。
ハヤテから連絡を受けたいのは、当然、サスケを巡るライバルが減ることを大いに喜んだ。
ここに来たのは、もちろんいざというときにイタチの助太刀するためだ。

「でも、今出ていってもあまり加勢出来そうにないわよね」
「そのうち「お前の母ちゃんデベソ」とか言い出しそうだな」
「あ、それNGよ」
「何で」
「イタチお兄さんってお母さんをとっても大事にしているらしいわよ。マザコンってやつかしら」
言ったそばから、カカシがその禁句を口に出したのが聞こえた。
カカシが前のめりに倒れ込んだのは、数秒も置かないうちだ。

「な、何が起きたんだ」
「イタチさんのあの真っ赤な眼。何でも写輪眼の力で目を合わせただけで相手を瞬殺できるそうよ」
「・・・・マジかよ」
ごくりと唾を飲み込んだシカマルは、意識を失ったカカシを見ながら体を震え上がらせる。
「あ、また誰か入ってきた」

 

 

「間に合ったか・・・・」
カカシに続き、緊張を孕んだ面持ちで駆け込んできたのは、肩で息をするサスケだった。
険しい表情で見据えてくるサスケを、イタチは面倒くさそうに見やる。
「お前まで邪魔しに来たのか」
「そこにサクラの意思があるなら反対はしない」
「・・・なるほど」
納得気味に頷くと、イタチは紐を外し背中にいるサクラを床に下ろした。
眠っていたはずのサクラは、覚束ないながらもしっかり自分の足で立っている。
だがその瞳は虚ろなもので、彼女が普通の状態でないことは一目瞭然だ。

「サスケくん、私、イタチさんを愛しているの。もうよけいな口出しはしないで」
イタチの背に隠れたサクラは、咎めるような眼差しをサスケに向けて言う。
そのとき、いのとシカマルは何かがブチリと切れた音を、聞いたような気がした。

 

「・・・・ありゃー、ショックだよな。好きな女に言われたら」
「でも、サクラどう見ても暗示かけられてるじゃないの」
「だから許せないんだろ。サスケの奴、写輪眼全開だぞ」
二人がそんな会話をするのと、サスケが火遁の術をイタチに放ったのはほぼ同時だった。
易々と避けたイタチだが、サスケが狙っていたのはイタチ本人ではない。
その後ろにいる職員の持つ、書類の紙。

「アチチチ!ちょっと、危ないじゃないですか」
燃える紙を手放した職員は、大声でサスケを非難する。
そして、焼けこげた記入済み婚姻届を見たイタチは、ゆっくりとサスケを振り返った。
「・・・・・俺を怒らせたな」

二人が忍術の応酬で戦闘を繰り広げる中、再び眠りについたサクラや未だ意識の混濁したカカシの体を引きずって外に避難したいのとシカマルは、恐る恐る彼らの様子を窺う。
「兄貴の方に加勢するっていうなら、今じゃないのか」
「嫌だ。今飛び出したら、命がないわよ」
写輪眼同士の壮絶な戦いは、すでに役所を半壊という状況にまで追い込んでいる。
弟が相手ということでイタチが手加減していなければ、もっと酷いことになっていたかもしれない。
「建物がこんなんじゃ、もう結婚どころじゃないわよね。職員さんもみんな逃げちゃったし」
「っていうか、どうするんだよ。これから」
「あの、すみません・・・・・」
物陰に隠れて話し込んでいたいのとシカマルは、その呼び掛けに反応して振り返る。
立っていたのは、彼らのよく知る黒髪の女性。
ハッとしたいの達の目には、突然現れたその女性はまるで女神が光臨したかのように映っていた。

 

 

 

「ゲームオーバーだ」
「くっ・・・」
腹を抱えて蹲ったサスケは、忌々しげにイタチを見上げた。
サスケの手足には浅い傷がいくつも出来ていたが、イタチの方は全くの無傷だ。
衣服には汚れ一つついていない。
「兄に逆らえばどんな目に合うか、散々教えたつもりだったがな」
打撲のあとを蹴られたサスケは、苦しげなうめき声をあげた。

「腕の一本でも折っておくか」
「イタチ!」
屈んでサスケの腕を取ろうとしていたイタチは、ピタリと動きを止める。
瓦礫の中を必死に彼らのいる場所に向かって歩いてくる人影は、黒髪の女性といの、シカマル、ハヤテの4人だ。

「母さん・・・・」
「あんた、お腹空いてたんでしょ、はい」
笑みを浮かべたうちは家の母親は周りの状況を全く気にせず、イタチに蒸かしたての肉まんを差し出した。
まるで警戒することなくそれを受け取ったイタチは、もぐもぐと美味しそうに口を動かす。
思えば、家に戻ったときに食事をするのをすっかり忘れていた。
「ご飯出来てるわよ。早く帰りましょう」
「ああ」
母に背中を叩かれたイタチは、真っ直ぐに自宅のある方角を目指して歩き出す。
母に伴われて帰路につくイタチを、いのとシカマルは呆然を見送っていた。

「お母さんを呼んでおいて良かったですね。惚れ薬の中和剤、あの肉まんに仕込んであったんです。ばっちり効いたみたいで」
「サクラのことだけじゃなくて、これをやったのが自分だってことも忘れているみたいだけどね」
ハヤテの言葉に、いのはすかさず突っ込みを入れる。
役所があったはずの場所にはコンクリートの残骸が山と積まれていたが、うちは家の財産を考えれば、建て直しは少ない出費のはずだ。
だからといって、兄弟喧嘩のたびにこう派手なことをやられたは、住人はたまったものではない。

 

 

 

「おい、おい」
うつらうつらと夢の中を漂っていたサクラは、その声にぱっちりと目を開ける。
不機嫌そうなサスケを見るなり、サクラは顔を綻ばせた。
「ああ、サスケくん、私、変な夢見ちゃった」
「どんなだ」
「イタチさんが惚れ薬飲んじゃったり、役場に連れて行かれたり、イタチさんとサスケくんが喧嘩していたり・・・・本当に変な・・夢」
頭を押さえて半身を起こしたサクラは、周囲を見るなり笑顔を凍り付かせる。
現場では、すでに多くの人間が動員されて半壊した元役場の後かたづけが始まっていた。

「・・・もしや、これは、全部、私のせい?」
たどたどしい物言いをするサクラに、腕組みをしたサスケは首を縦に振る。
「ご、ごめんなさい」
「もう怪しげな薬に頼ろうなんて、無意味なことはやめるんだな」
「はい、分かりました。もうしません」
半泣きのサクラは何度も何度も頭を下げる。
頭がパニックになっているサクラには、サスケの言った「無意味」の意味に気づいた様子は全くなかった。


あとがき??
リクエストはリクはサクラにメロメロ(死語)なイタチ兄さんのお話。
サクラの為なら写輪眼で何でもしちゃうさ★みたいな、壊れたイタチ兄さん。
とのことでしたが、壊れているには壊れているけど、別の意味でイメージぶち壊しなイタチ兄さんになってしまいました。
ごめんなさい!!!
しかも、一ヶ月以上お待たせして、申し訳ございませんでした。私には、これが精一杯です。

砕祈ルカ様、141000HIT、有難うございました。


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