うちはの嫁


「イタチはまだ起きないのか」
朝刊を持ってダイニングルームへ来た父は、空いた椅子を見つめて訊ねる。
「ええ。このところ任務で帰りが遅いし、体壊さないかしら」
急須に湯を入れながら答えた母は、小さくため息をついた。
ここ数日、朝食の席に長男の姿はない。
弟のサスケの方はすでに身支度を整え、二杯目の飯を食べている最中だ。

「今日も朝から仕事があるって言ってただろ。起こしに行った方がいいんじゃないか」
「そうねぇ」
頬に手を当てた母は湯飲みを夫へと差し出し、ゆっくりと席を立つ。
彼女が一人で戻ってきたのは、それから約3分後のことだった。

 

「何だ?イタチはどうした」
席に着いた母は、実に奇妙な面持ちをしていた。
不思議そうに訊ねる父に、彼女は頬に手を当てたまま返事をする。

「それがね、女の子がいたのよ」
「どこに?」
「イタチの布団に」
「・・・・」
箸を進めるサスケの手が、ピタリと止まった。
「・・・それで、イタチはいたのか」
「いたわよ」
「どこに」
「彼女と一緒の場所に」

食卓では、微妙な沈黙が続いている。
結局イタチを起こしそこねた母だが、彼は扉の開く音には気付いていたらしく、数分もしないうちに食事の席にやってきた。
母が目撃したという、彼女と共に。

 

 

うちは家の朝食は豪華だった。
朝から高級鮪の刺身や鯛の尾頭付きが並んでいる。
それらを片っ端から平らげているのは、イタチの隣りにいる薄紅色の髪の少女だ。

「美味しい、美味しいです、お母様!」
「どんどんおかわりしてね」
「はい」
どんな料理を作っても反応の薄い家族に慣れていた母は、サクラを見つめて嬉しそうに笑う。
その光景を、父も同じく笑顔で眺めていた。

「女の子が食卓にいるってのは、和むなぁ」
「本当に。娘が出来たみたいね。イタチが友達を家に連れてきたのは初めてだわ」
「母さん」
茶碗と箸を置いたイタチは、静かに声を出す。
「サクラは俺の友達じゃなくて、サスケの彼女ですよ」
「そうなんです!これからも、宜しくお願いします」
ちゃっかりとイタチに賛同したサクラに、黙って座っていたサスケが茶を吹き出した。

「・・・どっちにしろうちの娘に変わりないわね」
むせかえるサスケを横目に、母はにっこりと笑って言った。

 

 

 

「何で怒ってるのー?」
てくてくと前を歩くサスケを、サクラとイタチが追って歩く。
サクラはサスケと同じ班、イタチも今日の任務地は7班の集合場所のすぐ近くだ。
必然的に3人一緒の道を行くことになるのだが、不機嫌なサスケは朝からだんまり状態だった。
それでも、サスケに駆け寄ったサクラは何とか会話を成り立たせようとする。

「うちはの家に泊まった理由は話したじゃないの。まだ何か聞きたいことあるの?」
「・・・聞いた。両親が旅行に行ったせいでサクラが家に一人だったことも、隣りに家に泥棒が入ったと聞いて不安になったサクラがうちに電話したことも、その電話を兄が受けたことも」
「それならいいじゃない」
「よくない」
足を止めたサスケは、サクラを、そして彼女の後方にいるイタチを睨み付ける。

 

「何で一緒の布団で寝てるんだ」
「私が電話したのが深夜で、サスケくんとそのご両親はすでに寝てたから。それで、お兄さんは来客用の布団がどこにあるか分からなかったから。それとも、何」
首を傾げてサスケの顔を見たサクラは、悪戯な笑みを浮かべる。
「サスケくん、私と一緒に寝たかったの?」
「違う!お前は女だろ、何か間違いがあったらどうするんだ」
「・・・・間違い」

サスケの言葉を繰り返したサクラは、きょとんとした顔つきになった。
そして、背後に立つイタチを仰ぎ見る。
「あのこと、サスケくんにまだ話してないんですか」
「知ってるのはサクラだけだ」
「へぇー。そうだったんですか」

仲の良い様子で、自分には分からない話をし出した二人に、サスケは更に目をつり上げる。
「お前ら、散れ!!うざい」

 

 

肩を怒らせて歩くサスケは、もう何を言っても返事をしなかった。
イタチは申し訳なさそうにサクラを見やる。

「悪かったな、考えなしで」
「気にしなくていいですよー。私、サスケくんには怒鳴られてばかりだから」
明るく笑い飛ばすサクラに、イタチも微かに頬を緩ませる。
「でも、何で黙ってるんですか。紅先生と付き合ってること」
「うちの両親が熱狂的なジャイアンズファンだからだ」
「・・・・はぁ?」
素っ頓狂な声をあげたサクラは、イタチの顔をまじまじと見る。

「ジャイアンズって、あの、野球の?」
「ああ。紅は根っからのチーターズファンで、ジャイアンズを目の敵にしている。それは、ジャイアンズファンも同じだ。両者が顔を合わせれば血を見ることは必至。家族にはなるべく秘密にしておかないとまずいんだ」
「・・・・はぁ。そんなもんなんですか」
「そんなもんだ。サクラは野球に興味がないだろ」
「全然」
「だから、サクラはいいんだ」
そう言って、イタチはサクラの頭にぽんっと手を置く。
はるか前方にいるサスケが楽しそうな情景を苦い顔で眺めていたが、二人に気づいた様子は全くなかった。


あとがき??
もしもイタチ兄がぐれていなかったら駄文。
以前書いた記念駄文(プリンの話)の続きだったりします。駄文部屋には置いていない作品ですが。
うちのサクラって、結構いろんな人と同衾してたりします。
カカシ先生、イルカ先生、カブトさん、ナルト、サスケ、今度はイタチ兄か。
どれも本当にただ寝てただけなんですが。表にあるのは。

タイトルは紅先生とサクラのことかな。
最初のオチは別物だったんですが、うちのサイトのカラーじゃないのでやめました。
美少年と美女の組み合わせは、なかなか絵になりますねv
イタ紅って、マイナーすぎだろうよ。
うちのイタチ絡みのサスサクはあくまで、イタ→サス←サクです。愛されまくるサスケ。
仲良しイタサクは恋愛感情無し(兄妹)。『カルバニア物語』のライアンとタニアのように。
仲の良いイタサクに嫉妬するサスケ坊ですが、どっちに嫉妬してるのかは不明です。(笑)


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