悪だくみ
カカシの家の玄関を潜ったとき、サクラは一目でぴんと来た。
カカシの着ている濃紺のセーター。
それが、誰かの手編みであることに。
「これ、どうしたの」
「ああ、去年の誕生日に中忍の女の子にもらったの。器用だよねぇ」
セーターを指差して訊ねるサクラに、カカシは笑顔で答える。
すでに何度か着た気配のあるセーターは、カカシの一番のお気に入りだ。
誰のプレゼントかは忘れてしまったが、デザインが洒落ていて着心地も良い。「・・・・脱いでよ」
「え?」
「これ、脱いでよ」
不機嫌そうに口を尖らせたサクラは、ぐいぐいとカカシのセーターを引っ張っている。
「その気になってくれたのは嬉しいけど、まだ寝る時間には早くない?」
「馬鹿!!この上のだけ脱いでって言ってるのよ」怒鳴られたカカシは、わけが分からないなりにサクラの言うとおりにする。
そしてまだカカシが脱ぎ終わらないうちに、セーターはあっという間に炎に包まれた。
「うわっ!!」
驚いたカカシは、燃え続けるセーターを何とか流し台まで持っていく。
火の印を解いたサクラは、慌てるカカシを冷ややかな眼差しで見つめるだけだ。
「な、何するんだよ、サクラ」
「邪魔だから燃やしたの」
「何それ、何それ!!」
セーターが跡形もなくなったあとも、カカシは名残惜しそうに焦げ目の付いた毛糸を眺めている。
「・・・・俺の一張羅が」
「もっと良いの買いなさいよ!上忍なんだから」
鼻息も荒く言うと、サクラは顔を背ける。
だが、彼女の中のむしゃくしゃした気持ちはどうも収まりそうにない。「カカシ先生、私、プリンが食べたい。『万年堂』の。買ってきて」
「え!?」
カカシはとっさに壁の時計を見上げる。
「もう夜の9時だし、とっくに閉店してるよ」
「じゃあ、お店の人に頼んで開けてもらってよ」
腰に手を当て強い口調で命令するサクラに、カカシは泣きそうな顔になった。
「サクラァ・・・・」
「早く行ってきて!!!」
「お姫様のお守りも大変だなぁ」
カカシの持つ『万年堂』のプリン20個の包みを見たアスマは、苦笑いをして言った。
路上に出た屋台でおでんを食べるカカシを見付けたアスマは、事情を全て聞き終えている。
同情的な眼差しで自分を見るアスマに、カカシは大根を口に運びながら手を小さく振った。「あー、いいのいいの。わざとだから」
「わざと?」
「そう。サクラがね、焼き餅を焼いてくれるようにあのセーターを着てたの。俺は」
「・・・・何でだよ」
「俺ねー、サクラの怒った顔が好きなんだ。一番可愛く見えるから。あと彼女の性格からいって、明日から毛糸を買い込んで前のものに負けないセーターを編もうと頑張ると思うよ」
大根を食べ終えたカカシは、卵を箸で突きながら話し続ける。「それでね、今頃サクラは自分の言動を反省していて、玄関の前を行ったり来たりして俺の帰りを今か今かと待ってるの」
目に浮かんでくる状況に、カカシは思わず顔を綻ばせる。
「本当、可愛いよねー」
首を傾げて笑うカカシは、無邪気そのものだ。
呆れかえったアスマは暫く次の言葉が出てこない。
酒を注文したアスマは、間を持たせるためにそれを少しずつ飲み下した。
「で、それが分かってるのに、お前は何でこんなところで時間つぶしてるんだ」
「だって、すぐに帰ったらサクラが心配してくれないじゃないか」
振り向いたカカシは当然のことのように言う。
「・・・・お前もワルだな」
「まあね」
箸で卵を半分の大きさに割ったカカシは、それをぱくりと口に放り込んだ。
あとがき??
リクエストは「サクラさんの我が儘をめいっぱい聞きまくるカカシ先生、でも強い」でした。
ただのカカシ先生腹黒話になってしまった気がします・・・・。
サクラの行動は何でもお見通しーなカカシ先生。好きな子をいじめてしまうタイプかもしれません。143000HIT、天野様、有難うございました。