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抜き打ち調査
その日、7班の集合場所に担任のカカシは現れなかった。
代わりにやってきたのは、8班のくのいち教師、紅だ。「今日はカカシが風邪で休みだから、任務も中止よ」
「へぇ、カカシ先生も風邪なんて普通の病気にかかるんだー」
笑いながら言うナルトに、サクラとサスケも苦笑をもらす。
反論するような唸り声は、紅の腕の中から聞こえてきた。
そのときになって、ナルト達は初めて紅が見覚えのない犬を連れていることに気づく。「あれ、その犬、赤丸じゃないんだ?」
「似てるけど、違うわね」
ナルトとサクラは、紅の抱いた犬をしげしげと眺めた。
犬種は8班のキバの連れている赤丸と同じだが、この犬の方が幾分年長に見える。
「知り合いの犬なんだけど、その人の引っ越し先が動物を飼えないところなの。だから、今、私が新しい飼い主を捜している最中なのよ」
「・・・可哀相」
犬の境遇に同情したサクラは、悲しげな眼差しを犬に向ける。
その呟きを聞くなり、紅はにこやかな微笑みを浮かべた。「サクラ、私の代わりにこの犬の面倒を見てくれる?」
「え、私が!?」
「暫くの間でいいのよ。私、任務で今日は家に帰れないから」
戸惑うサクラに、紅は強引に犬を押しつける。
春野家はみな動物好きで、2、3日面倒を見るなら何の問題もない。
だが、サクラは紅がナルトやサスケには目もくれず、自分だけに犬の世話を頼んだことが少し気がかりだった。
「可愛いわんちゃんねv」
「餌は何を食べるんだ。餌は」
サクラの連れてきた犬に、彼女の父も母も浮かれまくっていた。
近頃つれなくなった娘よりも、愛らしく鼻を鳴らす犬に夢中になっている。
「ママ、私のご飯は?」
「冷蔵庫に入っているわよ。あっためて食べて」
サクラの帰る前に夕飯をすませてしまった母親は、そっけなく答える。
面白くない気持ちでキッチンの椅子に座ったサクラは、犬で遊ぶ両親を横目にTVのスイッチに手を伸ばした。「ふーんだ。どうせすぐいなくなっちゃうのにさ」
夕食を食べ終え、洗い物をすませたサクラは愚痴を言いながらリビングを横切る。
「サクラ、どこ行くのよ」
「お風呂よ。私、明日早いんだから」
「じゃあ、この子も一緒に入れてあげて」
サクラの母親は自分の脇に寝そべっていた犬を抱え上げた。
「えー、犬と一緒?」
「いーじゃない」サクラが嫌そうに顔をしかめると、それまで大人しかった犬も急に手足をバタバタと動かし始めた。
「あら、お風呂が嫌いなのかしら」
母は自分の手から逃れようとする犬をしっかりと抱え直す。
「サクラ」
「分かったわよ。私がやるわよ」
母の手から乱暴に犬を奪い取ると、サクラはタオルを片手にすたすたとバスルームへと向かう。「そういえば、その犬、なんて名前なの?」
後方にいる母に問われたサクラは、自分の腕の中の犬をじっと見据えた。
紅からは何も聞いていない。
だが所詮は数日だけの付き合い、適当な名前で呼んでも文句は言われないだろう。
「えーと、“先生”よ」
「“先生”?」
「うん。左目のところに、カカシ先生と同じ傷があるから“先生”」
ブラシと石鹸で丹念に犬の体を洗ったあと、サクラは犬を湯のはった盥に入れ、自分も湯船に浸かった。
小型犬なだけあって、盥は犬の浴槽に丁度良い大きさだ。
最初は嫌がって暴れていた犬も、今ではすっかり落ち着いている。「男の子で私とお風呂に入ったのなんて、あんたが初めてなんだからね」
体を洗った際に犬の性別をじっくりと確認したサクラは、盥にいる犬に向かって恩着せがましく言った。
サクラから目線をそらした犬がうなだれて見えるのは、サクラの気のせいだろうか。湯から腕を出したサクラは、肘から手首の部分に目を這わせる。
犬を押さえたときに手に傷ができたかと心配したのだが、それは杞憂だった。
抵抗はしても、けして噛むことも爪を立てることのないこの犬は、優しい性格なのかもしれない。
浴槽の縁に顎をのせたサクラは、犬の顔を改めて観察する。
「“先生”ってば、瞳の色もカカシ先生と一緒だわ」
夜の帳が降りる頃、サクラの寝床から這いだした犬は、窓から雲間に覗く月を見上げていた。
そして、憂い顔のまま、ため息を付く。
まるで人間そのものの動作だったが、それも仕方がないことだった。
実際、この犬はただの犬ではない。「ばれたら、絶対絶対殺される・・・・・」
犬の口から漏れた呟きは小さなもので、すやすやと寝息を立てるサクラが起きることはない。
犬と契約を結び、その生態を知り尽くしているカカシは、犬の変化には多少自信があった。
だが、いつ正体がばれるかという緊張は消えることがない。
そして、女子生徒と一緒に風呂に入った上に同衾など、全く予想外のことだ。
事の発端は朝の上忍ミーティングにあった。
「親による子供の虐待事件が後を絶たないって話よ」
「痛ましいことだよね」
紅に手渡された死亡事故の新聞記事に目を通し、カカシは表情を曇らせる。
「でも、それと緊急ミーティングと何の関係が?」
遅刻でミーティングに出られなかったカカシは、首を傾げて紅を見た。木ノ葉隠れの里にも児童相談所はあるが、虐待の事実を言い出せない子供も多く、親によって隠蔽されることもある。
この事態を重く見た火影は、教師による生徒の抜き打ち調査を断行した。「ペットになって生徒の家に潜入――!?そんな話になってるの?」
「そう。小動物が相手なら誰でも隙ができるし、動物の目からその家族の日常生活がよく分かるでしょ」
「でも、ちょっとそれはやりすぎなんじゃぁ・・・」
「あんたのところにも、家族と同居の生徒がいるわよね」
「いるにはいるけど」
カカシは明るく健康的なサクラの姿を頭に思い浮かべる。
「虐待とは、まるで無縁だと思うけど」
「これは全員に強制なのよ、強制。1班から順番で今週は7班まで入っているの。早く犬でも猫でも変化しなさいよ、集合場所まで連れて行ってあげるから」
そこまで思い出したとき、カカシは背後で動く気配に気づいた。
「ん・・・、先生?」
寝返りを打ったサクラは、ベッドで自分の傍らをバシバシと叩いている。
寝ぼけながら、そこにいたはずの犬を探しているのだろう。
足音を忍ばせた犬のカカシがもとの場所に来ると、サクラはその頭に触れてにっこりと笑いかける。
「先生、あったかいね・・・・」
犬のカカシを抱きしめたまま、サクラは再び寝息を立て始めた。
あどけなさの残る顔は、幸せそのものといった表情だ。「まぁ、サクラのご両親もいい人達だし、安心したけどさ」
柔らかい感触と優しい香りに、段々とカカシの瞼も重くなっていく。
自分の家という気安さがあるからこそ、彼女の色々な一面を垣間見られた。
サクラの寝顔を眺めつつ、何気に犬の生活も悪くないと思い始めているカカシだった。
カーテンの隙間からもれた太陽の光に、サクラは覚醒を促される。
手を伸ばし、枕元に置いた目覚ましのタイマーをベルが鳴る前にリセットした。
「あと10分・・・・」
もぞもぞとベッドにもぐったサクラは、いつもより窮屈な感覚に訝りながら目を開ける。
すぐ間近に、カカシの顔があった。
サクラと同じ枕に頭をのせ、気持ちが良さそうに寝入っているカカシはまるで起きる気配がない。
サクラは何度も目を擦ったが、確かにカカシはそこに存在していた。
間違いなく、サクラのベッドで熟睡している。事実を受け入れられずにサクラがパニックに陥る中、大きな欠伸をしながらカカシが目を覚ました。
「・・・ああ、サクラ。おはよー」
気がゆるみ、変化が解けていることも知らずにカカシはサクラの額に唇を寄せる。
絹を裂くようなサクラの悲鳴が家に響き渡ったのは、その直後だ。
「サクラ、どうしたの!」
「今の声は何だ」
慌てて廊下に飛び出してきた両親に、階段を駆け下りてきたサクラは真っ赤な顔で声を張り上げた。
「せ、せ、先生が、先生が私のベッドに!!それで、それで、おでこにチューって!」
「・・・・・」
サクラが早口でまくし立てると、両親は怪訝な表情で顔を見合わせる。
「あなたが先生と一緒に寝たいって言って部屋に連れてったんでしょ」
「違うのよ!先生だけど先生じゃないの!!先生なの!」
「え??」
サクラが喋れば喋るほど現場は混乱していく。
困り果てるサクラの傍らには、彼女のあとを付いてきた犬の姿があった。
念のため、サクラの両親が彼女の部屋を窺ったが、不審人物が侵入した形跡はない。「夢でも見たんじゃないのか」
「・・・・夢」
苦笑する父親の言葉に、サクラはぽかんと口を開ける。
夢だとすると、もっと問題だ。
自分の心の奥底に、カカシと一緒に眠りたいという願望がある。
それが夢になって現れたという考えに、サクラの顔は火のように赤くなっていた。
「へー、サクラ、犬を飼い始めたんだ」
「うん。紅先生から預かったんだけど、可愛いからうちで飼おうと思って。何より、両親が気に入っちゃったのよ」
「そういえば、うちのところにも紅先生がリスを連れてきたわよ。紅先生の友達って、動物好きが多いのかしらね」
クッキーをぱくりと口にいれると、いのは入れ立ての茶をすする。
「それでその犬の話なんだけど、朝ふらりといなくなったままなかなか家に戻ってこないのよ。夜は必ず帰ってくるんだけど。ドックフードも食べなくて、人間と同じ食べ物しか駄目なの」
「我が儘な犬ねぇー」
いのは驚きに目を見開く。
彼女の家でサクラがそんな会話をしていた頃、紅はカカシが提出する抜き打ち調査の報告書を読んでいた。「ふーん。問題なかったわけね」
「うん。家庭は円満。凄く居心地が良くってさぁ、思わず飼い犬になっちゃったよ」
「そう、そのことよ。サクラが飼いたいって言い出したときはびっくりしたけど、大丈夫なの?」
「えへへーーーv」
紅の問い掛けに、カカシは何故かやに下がった笑みを浮かべている。
どちらかといえば、大丈夫でないのは、サクラの方だろう。火影の決定に口を挟むことは誰もできない。
だが、カカシのにやにや笑いを見つめながら、「今回の調査は失敗だったのでは・・・」という不安を抱いてしまった紅だった。
あとがき??
な、長い。馬鹿な話ですみません。
アスマ先生はリスに変化したようです。・・・・可愛いじゃないか。